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30話【ドルイディ視点】準備(?)

 私とリモデルはエフィジィたちの部屋に行って、パーティ用の服を作ってもらうと、それを一旦ハンガーに掛けて、会場へと向かう。早足でね。


 この会場……実は城の中の一部屋を使っているんじゃなくて、祭の時にのみお父様が解放する扉……そこを通った先にある二百人は余裕で収容できる大広間……いや、超大広間にて、行われることになっている。


 パーティはダンスパーティだとは聞いているけど、今回はそれだけじゃなく、豪華な食事を用意していて、内装などもいつも以上に凝るつもりとのこと。


 ……楽しみだよね。


 ちなみに準備についてだけど、それを伝えてくれたギュフィアお兄様も具体的に何を準備すれば良いのかはお父様から聞かされてないらしいんだと。


 とにかく、来てほしいんだって。


 なんだそれって感じだよ、本当に。


 汚れる可能性があるためにドレスなどは着るべきでないと判断してハンガーに掛けている。


 まあ、作るのはまだしも着るのはそこまで時間がかかるものではないからね。良いだろう。



「……どんな準備だろうなぁ……?」



 ……こんな祭のギリギリに頼むような準備なんて大したことないこと……よね。


 ……うん。十中八九、そうだ。


 少し考えれば、わかることだ。そのことにすぐに気づけなかったこと……恥ずかしく思う。


 運んだりする羽目になるかな……? 料理とか……机や椅子とか……壁などの装飾とかね。


 ちなみに、私たちは今も結界を張ってるよ。


 これがちゃんと準備ならいいけど、正直怪しいし、人形狩りとか……怪盗ディープの罠……そういう可能性も疑っていたりするんだよ。ちょっぴり。



「……もう、会場だね」



 会場は目の前。後ろでずっと、エフィジィが緊張して息を吸ったり吐いたりしていたが……


 いざ、近づくと……私も緊張してきたな。


 なんでだろ……まだただの準備で……祭は始まってないのにね。何をやることになるかわからないからだろうか……? そうかもしれないね。


 私たちは扉を開くために近づいていく。


 それで、いざ開けようと扉に手をかけた瞬間に……中の誰かによって扉が開かれてしまう。



「ドルイディ、ディエルド、エフィジィに……ヒグリ……? なんか知らないのもいるッスね……」


「レグ師匠……!?」


「レグフィお兄様……!」



 最初に出てきたレグフィに反応したのはヒグリ。それに一秒遅れて反応したのがエフィジィだった。


 どちらも驚いている。多分、同じ理由で。


 私やリモデルも驚いたが、二人とは多分理由が違う。私たちの驚いた理由は突然扉を開けられたから。


 近づいていることは私もリモデルも気配によってわかっていたが、それでもやはり、突然目の前で扉が開けられると凄くビックリしてしまうものだ。


 私たちが気配を感じ取る能力に長けていなかったら、多分もっと驚いていただろうね。



「な、なんで……師匠……」


「いや、それはこっちの台詞なんスけど……あ、ギュフィア兄さんがそういや姉さんたち呼んだって言ってたな……もしかして、それで来た感じッスか?」



 姉さんというのは私のことだろうね。エフィジィは彼の妹だし、ディエルドは兄だから該当しない。


 私は取り敢えず、前に出ると彼に向かって頷く。



「なるほど……じゃ、入ってくださいッス。今、ちょっと色々困ってて猫の手も借りたいと思ってたンス。そういうことならちょうど良かったッス」


「……何なのかよくわからないけど、手伝うね」


「よく知らない方もいますが、まあこんだけ人数いたら大助かりッスねー……頑張りましょう」


「えっ、ちょっと入る前に何があったのか、教えてよ。お兄様。わたしも凄い気になってるの……」



 レグフィはエフィジィがそう言うと、無表情で彼女のことを見つめ……



「……ヒグリはどうすか? キミもエフィジィと同じで中の状況を先に聞きたいッスか?」



 ……と尋ねた後、同じ無表情……ただし、威圧感強めに今度はヒグリに対して尋ねた。



「……そうっすね。聞き、たいっす」



 歯切れが悪いが、ここで答えないと怒られる。


 そう判断したのか、ブンブンと首を振っていた。


 確かにレグフィは怖いところがあるからね。それにしても、この子たちはビクビクしすぎだろう。


 レグフィはその反応にどう思うのかと思っていたら、突如笑って「じゃ、話すッス」と言い出した。


 何だったんだ……? どういうこと?



「あ、そうだ。お兄様。ヒグリくんから伝言があるんだよ。後で聞いてほしいんだけど……」


「今、言えばいいでしょ。というか、ヒグリの伝言で本人がここにいるのに、エフィジィがそれを伝えようとするのはなんでッスか? ヒグリに言わせればいいと思うンスけど……何か理由があるんスか?」


「……ない、ね。えっと、ヒグリくん……じゃあ」


「わかったっす。エフィジィさん、大丈夫っす。自分がここで言います。聞いてください!」



 レグフィはそれに何も答えない。


 ただ、じっと……腕組みをしながら、冷たい表情でヒグリのことを見ながら……回答を待つようにただ立っている。威圧感が……再び強まっている。


 本人に威圧感を発している自覚があるかはわからないがね。単純に彼のことだから、久しぶりに弟子に会えて緊張してそうなってる可能性も否めない。


 まあ、私は彼の内心が読めない故、真偽は不明だが……


 ……取り敢えず、私もじっと聞いていよう。



「こ、今度……あの、また一緒に……あの、時間に余裕とかあれば……服……作りましょう!」



 ヒグリがこんなふうに緊張しているのを見るのは初めてで、私は凄い困惑しているよ。


 硬い。硬すぎて土塊人形のよう。


 なんか、緊張のせいか……口調までいつものものと違う感じになっているじゃないか。


 レグフィには本当にどんなことを言われてきたんだ。ちょっと……いや、凄く……昔の彼がヒグリと接するところを見たいと……そう感じてしまった。



「……なーんだ。なんでいなくなったとか聞かれるかと思ったッスけど……そんなこと……か」


「……?」


「返答欲しいッスか?」


「え、あ……ああ……はい……す……っす!」


「……いいッスよ。おれもキミに意地悪をして、離れたわけじゃない。また機会があれば作ろうか」


「……よ、良かった!」


「喜んでもいいけど、おれはやっぱり、キミが弟子を名乗るのを認めたくない。キミの師匠として何かを教えることはないッス。それは忘れないでね」



 なんで、そこまで頑なにこの子の師匠となることを拒否しているんだ……?


 どんなことがこの二人の間であったんだろう。どんな会話が交わされてきたんだろう。


 それらが頭に一瞬去来したね。



「……じゃ、部屋の中でずっと立ち話するのもあれですし、説明するとするッスね」



 レグフィがコホンと咳をすると……


 その場に緊張感が漂い、みんなは息を飲む。


 飲んだ直後に部屋の中の音を除く一切の音が消え、静かになった状態でレグフィは説明し出す。



「実は余興のために呼び出していた道化師型自律人形が突然に不具合なのか暴走を始めて、折角飾りつけた装飾や食べ物をグチャグチャに壊していったんス」


「もしかして、それって『ドッキー』って名前?」


「え、知ってるんスか?」


「まあね。私たち、二日目にそのドッキーの芸を見ていたからさ。もしかして、合ってる?」


「合ってるッスよ。そいつが突然に暴走して暴れ回り、抑えるのが大変だったッス。新しくて安全な道化師型自律人形を連れてくることはもう今更無理なんで、残念ながら、芸を見れることはないッスよ」



 そう、なのか……


 私は頷きながら話を聞いていた。


 あの、道化師型自律人形が……そっか。


 人形であることを感じさせない……凄い人のような人形だった。間近で見て強く思った。


 優しげでもあった。悪意など全く感じなかった。


 そんな道化師型自律人形が、突然に暴走するなんて不思議でならない。


 何か……そうさせた奴がいるのかもしれない。


 私も……自律人形。もしかして、自律人形であれば、誰でも暴走させられる物……


 そういうのを……人形狩りやら、怪盗ディープが会場の中に予め仕掛けていたとしたら……?


 私はそれを想像して、背筋が震え上がり、平衡感覚を一瞬失いかけた。


 リモデルが……支えてくれたから大丈夫だったけど。


 怖い……でも、そうなる確証はないし……リモデルもヒグリもエフィジィもディエルドも……レグフィやギュフィアお兄様……その他にもたくさんいる。


 心配……しすぎはよくないよね。


 私はそう何度も自分に心中で言い聞かせると、右手を胸に当て、左手をリモデルと繋ぎ……


 ……静かに会場の中へと入った。

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