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19話【ペルチェ視点】元傭兵、現執事

 ペルチェ・ダブル……私の名。


 名もなき傭兵だった頃には私がこうして人形の国の城で働く執事になるとは微塵も思っていせんでした。


 あの頃は無作法で礼儀どころか言葉遣いもよく知らない。戦いだけを知る獣のような存在でしたね。


 老いた今でもまだ足りぬところはあるように思いますが、それでもあの頃と比べれば少しは……


 ……よくなったと思いたいですね。



「どこにもいなくないですか!?」



 今の発言をしたのは私の隣で歩くマルアというメイド。まだまだ未熟で失敗も多いのですが、反省して次へ活かそうとする考えに関しては評価できると考えます。


 そんな彼女と共に私は現在、この人形国オトノマースの姫であるドルイディ様を捜索しているのです。


 当然、大事(おおごと)にはしたくないため、このことを知っているのは私とマルアの二名のみです。



「……見つけるまで探すのです。いなくなられているのは一国の姫なのですから。誰にも代わりは務まりません」


「……は、はい」



 複製人形があるから、問題ない? そんなことを私は微塵も思ってはいない。


 彼女……姫様は姫様です。二度目ですが、複製人形だろうとなんだろうと彼女の代わりにはならない。


 所詮、複製人形など紛い物というわけです。



「……絶対に見つけましょう……!!」


「再びやる気が出てきましたね。その意気です」



 私は彼女を鼓舞すると、城下の街で見つけた大きめの館の扉を開けてみました。


 一見すると無人ですが、こういうところに誰かが隠れていたりするものです。


 隅々までは時間があまり使えない以上は無理ですが、できる限りの場所は探すつもりですよ。


 入室後、すぐに部屋の中の香りを確認。姫様の香りが感じられなければ、次は耳を澄ませる。


 微細な息の音……間接などの可動音、そういったものを聴き逃してしまわないためです。


 傭兵の時に培ったそれらの技術は未だに衰えていません。きちんと澄ませていれば、聴き逃したりはしない。


 その結果……



「何の音もしませんね……」



 ……見つからなかった。姫様もいませんし、誘拐したと思われる存在もいなさそうです。


 だが、それだけでここにいるかもしれないという可能性はまだ捨ててはおきません。


 そうやって油断してはいけない。これも傭兵時代に得たわたしの教訓の一つなのですよ。



「……そうでしたか」


「マルア、そちらは見つかりましたか?」



 マルアにはまず、ベッドの下やクローゼットなど、体を隠すことが可能な場所を探してもらいました。


 ちなみに、姫様は人間に非常に近づいたとはいえ、まだ人形。間接などを曲げることにより、普通の人間なら入れないような場所に入った可能性も考えています。


 なので、普通の人間であるのなら隠れられないような場所を次に探してもらう予定です。



「食卓の後ろは?」


「……いませんでした」


「そうですか……」



 非常に長い食卓が壁に立てかけてありました。食堂らしき場所もありましたが、元はそこにあったのでしょうね。


 壊れていますが、とても良い材質ですし、こんなところで埃を被せて立てかけているなどもったいないですね。


 まあ、持っていっても仕方ないですし、そもそもそこまでの力も有していないのでやりませんが。



「それでは……もう出ますかね。時間がありませんから」


「は、はい……っ」


「……部屋じゃなくて、館自体をね」


「わ、わかってますよ」



 私とマルアは全ての部屋をもう一度だけ目と耳と鼻を使って確認すると、外に誰かいるか少し開いた扉で見ます。


 こういったことも大事なことです。誰かいたのなら、危険な目に遭うでしょうからね。


 この館は辺鄙な場所にある。ここで誰か危険人物などに襲われても、助けを呼ぶことなどできないのですから。


 私だったら、警戒します。少なくともね。



「……いませんね」



 結果、誰もいなかったことがわかったので、私とマルアは順番に館から出ていきます。


 私が最初、マルアがその次。


 見つかりそうな場合にすぐに隠れられる俊敏性を持っているのは私なので。



「あと三時間で夕方ですね……」


「はい……どうしましょう。このままでは……」



 それから、私たちは数多くの建物を回りましたが、どこの建物にも姫様はおりませんでした。


 もちろん、民家などは入っていませんよ。不法侵入になってしまうのでね。


 民家の確認は目視で済ませています。幸い、どこも普通の窓なので目視での確認は容易でした。


 ……その結果、いませんでした。


 まあ、目視では確認できないような場所に潜伏している可能性は充分ありますけど……


 姫様の香りも感じませんでしたし、まずいないだろうと思っていますよ。いたら悔しいですね。



「……はぁ」



 これでも、相当な数の建物を隅々まで探したんですがね。ダメでしたよ。見つかりませんでした。


 王都の広さを舐めてはいけませんね。体力には自信のある私ですらバテそうです。



「まあ、街の外に出られていた方がもっと探すのが難しくなってきますけど……」


「ペ、ペルチェ様……?」


「独り言です。口に出てしまったようですね。少し恥ずかしいので、お気になさらず」


「か、か……かわいい、ですね……」



 このまま、今日一日なんの手がかりも得られなかったらどうしましょう。


 私は息を切らすマルアの特に重要ではないと思われる言葉を聞き流しながら、城に戻ることを決めました。


 もうそろそろ夜が近いですからね……まだ、ギリギリ夕方の範囲ではありますが。



「……あ、あの……ペルチェ様」


「……なんでしょう?」



 城に近づいてきたところで、突然神妙な面持ちになったマルアに私は反応します。


 これがどうでもいいようなことなら、精神的にも肉体的にも疲れていますし……また聞き流していました。


 申し訳ないですがね。


 ……ですが、この面持ちから察するにこの子にとっては重要なことなのでしょう。


 ずっと無視するのは落ち込ませることにしかならないと思い、きちんと私は顔を向けて聞く準備をします。



「私、悔しいです」


「……はい」


「なので……っ。今からお城をもう一度全力で探しますっ。今度はペルチェ様のお力を借りずに……」



 そのようなことを考えていたのですか……この子は。


 私は軽く笑みを浮かべながら、返答します。



「いいでしょう。それなら、私は中庭におります」


「はい……っ。ありがとうございます!!」



 この子が成長するいい機会。この子自身に成長の意思があり、私も成長させたいと思っている。


 断ることなどありえないですよ。もちろん。





「……まあ、行ったところで見つけられないと思いますけど」





 先程から、姫様らしき人形の香りが漂ってきているんですよ。濃密な……ね。


 これほど濃密ということはきっと近くにいます。ただ、香りというのは一つではない。


 姫様らしき香りの他に二つ……きっと、その二つの香りの持ち主が姫様……ドルイディ様のことを誘拐した犯人。



「早く来なさい、誘拐犯。二度とそのようなことをしたいと思えないよう、心を折って差し上げます」



 怒りが体の底から沸々と沸いてくるのを感じました。


 傭兵時代の自分が頭に浮かびますね……

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