28話【エフィジィ視点】パーティ用の服作り《2》
門番さんが城の前で話しかけてきた。
この人、知ってる。真面目で仕事中は一切私語を発さない門番と違い、物凄いお喋りな人。
普通ならこんな人は門番なんか任されないけど、この人は守ることに長けていて、この人がいたら誰一人怪しい人間は城を通されることはないんだって。
そんな人がこうして門を任されているということは、やっぱり、人形狩りのことは城のみんなにも知れ渡っていて、警戒が強まっているんだなぁ……
ちなみに門番さんとは他愛のないことを話したよ。朝ご飯とか……えっと、昼ご飯とか……
話すのが苦手な人が持ち出す話題かな? 笑っちゃった。でも、良かった。好き。
わたしは門番さんに業務を頑張るよう、応援の声をかけると、ヒグリくんとお兄様と一緒に走る。
「身体検査とか、自分久しぶりっす。楽しかったー」
「そうなんだ。久しぶりなんだ? 楽しいって感覚はわたし、あんまりわかんないなぁ」
「まぁ、子供の時にくすぐられるのが好きだったから、まさぐられる感覚を楽しく感じる性質なのかも。はは。今度、エフィさんも自分のことをくすぐってほしいっす。もちろん嫌じゃなければっすけど」
「嫌じゃないよ。ふふ、わかった」
部屋までの道のり、気配に敏感なヒグリくんによると、特に気配はないらしいから……
わたしは少しうるさくなるほどに廊下を走る。誰もいないなら、怒られないよ!
ま、途中でヒグリくんから手刀によって注意されたから、音出ない程度の速度に落としたけど。
……それでも、急いだから五分で到着。
わたしたちは、部屋に入ると……そそくさとみんなが座る椅子と裁縫をするための机や道具を用意。
机には道具だけじゃなく、さっき買ってきた布や糸も置くよ。どっさりと。
重いからヒグリくんとお兄様にも手伝ってもらった。二人とも、ホントに力強くて助かる。
帰りもわたしが持つって言ったのに二人とも交代で持ってくれたからね。すごーい優しい。
「……じゃー、ドルちゃんたちが来るの、待ちだね」
「わたしたちが言えたことじゃないけど、遅いよね?」
「……入れ違いになったとかかもしれないっすよ。こんな時間になっても来ないっておかしいっす」
「おかしいとまではわたしは思わないなぁ。それより、入れ違いかぁ。それかもねぇ。部屋出る?」
「いや、捜しに行ったらまた入れ違いに……」
「違うよ、ディエルドお兄様。部屋の前で待つってこと。城中を回るつもりなんてない」
ま、『部屋出る?』だけじゃ、言葉不足だったよね。解釈に違いが出るのは仕方ないかも。
それで、部屋の前で待つかどうかだけど、そんなことせずとも、部屋の前に痕跡を残せばいいってヒグリくんが言う。確かにそれでいいかもね。
部屋の前で待ち続けるのは疲れるし。
五分〜十五分ならまだいいけど、それ以上ってなったら、足が疲れで限界になるだろうし……
眠気まで感じ始めちゃって、服を作るどころじゃなくなってしまうかも。そんなの嫌だよね。
「そうだ。もう、今のうちにどの布を使いたいか決めちゃおうよ。どんなドレスにしたいとかも」
「ドルちゃんとリモデルの分も先に決めちゃうの?」
「二人の分は二人が来た後。今はわたし自身の分とディエルドお兄様の分について考えよ!」
「そーだね。そうしちゃおっか」
時間がまだあるとはいえ、作る時間も考えたら、悠長にしてられないし……
わたしたちの分ぐらいなら先に決めておいても、別にいいと思うんだよね。
お姉様たちだってきっとそう言うよ。
わたしはそれから、まずどの布を使うか決めることにした。どんな色にするか事前に決めてはいたけど、気分が変わってるかもしれないし……
たくさん買ったから、選びたい気分になっちゃった。
わたしは今は紫を着てはいるけど、大人気分を味わいたかっただけで好きなわけじゃない。
パーティの時には……そうだなぁ。
普段は着ないような真っ赤なドレスを……
……いや、赤紫の布もそういえば、買っていた。そっちの方が普段着ようと思うことないし……
着てみよう……かな。綺麗な色だし。
……それに、これも大人っぽいし!
「オレはそうだなぁ……どうしようかなぁ」
ディエルドお兄様は布の前を行ったり来たり……本当に真剣に悩んでいるのが伝わってくる。
うんうん、嬉しい。真剣に考えている姿が見れて。
わたしは……うーん……まあ、自由ではあるんだけど、ロングドレスは確定だよね。
ダンスをするみたいだから踊りやすさを意識して、裾は長くしすぎない。長すぎたら踏んじゃう。
まあ、床にギリギリ届くか届かないぐらい? 少なくとも、膝上丈はない。膝は隠す。
「ひだを入れた感じにする? うーん……」
「めっちゃ悩んでるね……オレも悩んだけど、もう決まったよ。布とか使いそうな物出しとくね」
少し見たけど、黒なんだ。
別に悪く言うつもりはないんだけど、なんか意外性がないというか……普通だね。
これ、お兄様に言ったら落ち込んじゃうだろうから、もちろん言わないでおくけど。
わたしはそう思うと、デザインの考案に再び戻ろうとするが、そんな時に扉が叩かれた。
「エフィジィ〜! 来たよ!」
「ドルイディお姉様!?」
今、来ちゃうんだ……!
別に来ちゃいけないわけじゃないんだけどさ。なんか、あと三十分ぐらいは来ない気がしてた。
リモデルさんの声も聞こえる。二人で来たんだ。
あー、でも……良かったかも。
ドルイディお姉様と一緒の方が……なんか良いドレスのデザインが思い浮かびそう。そんな気がする。
わたしは取り敢えず、手に取っていた赤紫の布を机に置くと、扉を開けに向かった。
……すぐじゃないけど。
ヒグリくんが「簡単に開けちゃいけない」と言って、気配を確かめていたからね。
それで、二人であることが確定。開けに行った。
人形狩りのこととか色々あったからね。警戒心が高まっているんだろうね。
彼が高すぎると言うより、わたしの警戒心があまりに低すぎるんだ。高めていかないと……!
「お邪魔するね。それで、エフィジィ。もう、どんなドレスにするのか決めているのだろうか?」
「あ、お姉様……まだなの。ちょっと、いや……かなーり悩んでて……ロングドレスにはしようと思うんだ。そこは確定。でも、どういうデザインにしようかってなるとさ。折角のパーティだから凝ったものにはしようと思うんだけど……ぜんっぜん思い浮かばないの」
「……凝ったデザインか」
ドルイディお姉様は凄い考えてくれてる。
本当に妹想いの良いお姉様……!
「うん。まあ、特別なパーティだもんね。そりゃ、凝ったデザインにしたいとは思うよね」
「そうなの」
「ま、それはいいとして、その相談……先にヒグリにした? 彼の方が私より詳しいと思うよ?」
「あ……」
「頼ってあげなよ。彼も頼ってほしいときっと思っているんじゃないか? なんかそんな顔に見え……見えないこともない。いや、見えると言っておくか」
どっちなの……ふふ。
……あー、というか、ホントそうだよね。なんでわたしヒグリくんに相談しようとしなかったんだろ。
彼もレグフィお兄様に色々と服飾知識を叩き込まれた者。相談には最も適しているはずなのに。
彼が男性……その考えがあったから、女性の正装であるドレスに関する相談をしようという考えが微塵も浮かばなかった。ホント……恥ずかしいな。
反省……しなきゃいけないことだよね。
わたしは自分のあまりに馬鹿さ加減を腹立たしく思いながら、心を入れ替えるために頬を思い切り叩くと……後ろにいるヒグリくんのもとへと向かう。
彼に伝える言葉は決めている。
「ヒグリくん。相談、聞いてもらいたいんだけど……」
「いいっすよ。いくらでも聞きますとも」
優しくそう返してくれる彼の声は予想はしていたけど、そうだろうと思っていたけど……
やっぱり優しくて……
わたしは嬉しい気持ちを感じると共にホッとして……安堵の息をゆっくりと吐き出した。
ヒグリくんへ相談するけど、ディエルドお兄様やドルイディお姉様……そして、リモデルさんにも何度か意見を求めていくことになると思う。
折角、みんながいるんだもん。みんなの意見を聞いたりして、みんなで作り上げていこう。
えいえいおーって……感じかな。
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