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20話【エフィジィ視点】みんなの役に立つために

 物凄い大きな音が聞こえた。


 ビックリして……ドキドキする人工の心臓を右手で抑え、左手はヒグリくんの手を握るのに使う。


 そうして、両の足は……音が聞こえた方へ。



「はぁっ……はぁっ……また、人形狩り……?」



 全員壊れたか、捕まった……そんな楽観的には考えてないよ? でも、こんなにも早く……


 こんなにも早く……仲間が来るもの!?


 というか、一体どれだけ残党いるの?


 どうしよう。百人とかいたら……千人とかいたら……いや、百人や千人はさすがにないか。


 それだけいたら、昨日だってもっとたくさん送り込んでいただろうし。


 数は力。三十人くらいに一気に襲われたら、さすがのリモデルさんやヒグリくんも歯は立たない……


 ……と思う。まだ二人の力も未知数だから……断言はできないし、しちゃいけないと思うけど。


 でも、まだたくさんいるんだろうなぁ。百はなくても、数十人ぐらいは。


 正直、怖いよ……怖い……怖すぎる……!


 わたしには全くと言っていいほど戦闘能力がない。この体にあるのは服飾関連の能力だけ。



「まあ、それすら誰よりも凄くはないけど」



 レグフィお兄様には余裕で負けているし、本で読んだり、お兄様の紹介で出会った服飾師にもわたしより凄い人や人形はたくさんいた。負けてる……


 負けまくってる……勝ちは……遠い。


 というか、勝ちは目指せても、目指すだけで止まるかも。果てしない遠さ……なんだもん。


 はぁ……まあ、今は人形狩りのことを考えるべきだよね。


 こんなことを考えて、集中を欠いちゃダメ。


 わたしは頬を叩いて、周りを見ていく。



「みんな、えっと……これ、どうするの……?」



 音は今、四方八方から聞こえる。


 多分、十人ぐらいなんだけど……その全員が物凄く速くて、動きをわたしの目じゃ追えない。


 気配を読む技術が長けていればわかるんだろうけど、わたしはそういうの全くできないの。


 だから、うん。わからないなぁ。


 役に立つためにも数えてみようと思って、目を凝らした瞬間に人形狩りの一人が何かを投げてきた。何かは不明だけど……手のひらほどの大きさ。



「ひゃっ」



 反射的に避けちゃった。結界があるのに。


 生き物ではなく、何らかの物が投擲されたと思うんだけど、見たこともないからわからない。


 投擲されて地面に落ちた物を見るけど、何かの玉……? これは使い捨ての魔道具……かな?



「うわ……気持ち悪い。なんか濡れてる……?」



 わからないけど、触ったらまずそう。


 そう思って上を向いたところ、わたしはその玉が先程掠った結界の一部を見る。


 そして、その当たった一部だけ結界が薄まり、今にも隙間ができそうなことに気づいてビックリ。


 わたしはそれを補強するために自分の闇属性魔力を惜しげも無く使う。


 どうせ、戦えないし、こういうところで使っても大丈夫。問題はないと……思う。うん。



「エフィジィさん……」


「えっと……ヒグリくん……?」


「危なっかしいんで守らせてくださいっす」



 自分よりも小さい体にヒョイっと持ち上げられることに悔しさと驚きをまずは感じたけど……


 そこに少しのときめきも……混じった。


 わたしは照れそうになるけど、場面が場面。その考えはすぐに首を振って頭から追い出し……


 内側からヒグリくんのことを手助けするため、魔力を両手に溜めている。


 主にヒグリくんの力の増強や結界がさっきみたいに破られそう……もしくは破られた時の補強……


 そういったことをやるつもりだよ。



「……いっと」


「うわっ!?」



 奴らは全員がさっきの玉を持っているみたい。


 二度目の玉は軽く首を動かすことで避けていたヒグリくんだけど、それ以降の玉は……


 体を軟体動物のようにくねらせて避けていた。めちゃくちゃ、体柔らかいんだなぁ……


 結界があまりに大きいせいで、何度か玉が当たりそうになってしまったから、わたしは結界を肌に密着させるぐらいまで、頑張って圧縮していく。


 逃げるうちに外壁が近づく。



「危ないよ!? ヒグリくん、前見て!?」


「大丈夫っすよ。エフィジィさん」



 ヒグリくんは壁の直前で突然に落ちていた木の棒を拾うと、それを右手に持った状態で壁を蹴る。


 蹴りによって跳躍した先にはあの玉……ヒグリくんはそれを右手の木の棒で……打った。


 打撃の威力は見ていればわかるよ。


 わたしたちに向けて飛んできた速さ……それを軽く超える速さで風を切って飛んでいき……


 玉はそれを投げた人形狩りの一人の顔面に直撃。


 顔面にめり込む。それだけで辛そうなのに、めり込んだ直後に玉が当たった箇所から何かが漏れ出て、苦しみながらその場をのたうち回るところを見て……


 わたしは思わず、目を逸らした。



「あちゃー……掠らせるだけのつもりだったんすけど、顔面にガッツリ当たっちゃったみたいっすね。悪いことしたなぁ。ま、あっちも悪いことしてるからおあいこっすね。恨まれる筋合いナシナシって感じっす」



 悪気ゼロって感じでもないけど、かといって多くもない。もっと、動揺してもいいんじゃない?


 わたしは直視できないし、胸もドキドキしてる。


 ただ、このドキドキは嫌だ。もう止めたい。


 ヒグリくんはわたしのことを更に抱き寄せながら、再び跳躍。


 ……首を横に向けてわかったけど、今度は二方向から同時に玉がこちらへと向かってきていた。


 それをヒグリくんは新しく拾った木の枝と路地裏近くに落ちていた鉄の棒で跳ね返す。



「……っし。成功っす」



 ヒグリくんもわたしが目を伏せていて、嫌がっていたことに気づいてくれたのかな。


 今度は……明確に下の方に狙っていたのが……手で顔を覆っていても、指の隙間から見えた。


 当たるは足。当たった瞬間に悶えながら、人形狩りは倒れたが、さっきより痛々しくない。


 多分、あれは当たった対象を溶かす物だと思うんだけど、あの感じ爪先がちょっと溶けただけだと思う。


 可哀想だけど、まあ……うん。


 相手は犯罪者だし、考えないでおこう。



「……っ」



 ……近い! 誰かが近づいてきた。


 足を狙われたので、ヒグリくんはピョンと兎のように跳躍。足が地面に着く前にヒグリくんはその相手のことを蹴飛ばした。多分、顔面に……入ったね。


 顔面を蹴られて、思わず呻くそいつの手には玉が握られている。


 わたしはヒグリくんが手を出していた結界の穴から、魔法を放ってその玉を吹き飛ばした。



「わたしも……ちょっとはやるよ」


「そうっすね。さすがっす!」



 その直後に投げられた玉をヒグリくんは跳躍で躱す。バク転……だっけ。それをされたので、目が回りそうになっちゃった。本当に身体能力凄いな。


 そのまま、地面に落ちる玉を素手で襲いかかる人形狩りに向かって、蹴飛ばしていた。


 靴とヒグリくんの足が溶けないか心配だったけど……彼はニッと笑いながら「大丈夫っす」と言った。



「本当に?」


「心配には及ばないっすよ。ありがとっす。こんな自分のことを心配してくれて」


「いやいや、心配するのは当たり前だよ! 足、本当に大丈夫? 痛みとか全くないの?」


「この靴、頑丈なんで皮膚には全く届いていないっす。故に痛みもゼロ。何なら後で見せるっす」


「わかった。そこまで言うのなら……うん」



 わたしと会話しながらも片手の鉄の棒で、しかも軽く横目で見るだけで人形狩りと応戦してる。


 ちなみにこの時にリモデルさんのことも見える。あの人も物凄い速かったんだけど、全て攻撃を躱していて、尚且つ玉も当たっていないっぽいよ。


 本当に凄いなぁ……


 ……見れば見るほど……自分の無力さが身に染みる。でも、身に染みて……落ち込んで……


 それで何もしない選択をすれば、変わらない。


 わたしも役に立つ。戦えないなら、戦えないなりに、役に立ったと言ってもらえるように……


 全力で……わたしは支援していこう。


 たまーに攻撃も!



「……んしょ!!」



 ヒグリくんが応戦のために開いていた結界の隙間……そこからわたしは自身の魔力……


 闇属性魔力で中級の『闇刃』を足に放つ。わたしが切断なんて出来るはずもない。


 だからこれは……転ばせるため!


 その試みは成功。


 見事にすってんころりんと転げる人形狩りを見て……わたしは思わず、嬉しくて暴れちゃった。



「ごめん。ちょっと暴れちゃった」


「大丈夫っすよ。ふふ」



 そうして笑い合うと、わたしたちは身を寄せ合い、結界の隙間から交互に魔法を撃っていく。


 人形狩りは……全員やっつけよう!

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