18話【ドルイディ視点】道を阻むもの
私たちは城に向かうために、門番の視界に入ってしまわないようわざわざ遠回りした。
遠回りしたと言っても、この街は路地などといった通り道がそれなりにあるので、違いは十分ほどしかない。
一番ここらの地理に詳しい私が先頭に歩くべきなんだろうけど、先頭はリモデル。
「やっぱ先頭は危険だからね」とのことだ。私に光属性の魔法結界を張った上で彼の後ろを歩いている。
ちなみに私の後ろはファルが歩いているよ。彼も護衛してくれているようだ。
なんか申し訳ない。そして、恥ずかしい。
「……外壁のことなんだが」
「……? うん」
「少し……ほんの少しだけ、窪んでいる煉瓦があって、それを内部に押し込むことで隠し扉が出現するようになっているんだ。そこを通れば、城内に入るのは容易」
「……それ、もっと早く言うことだな、ドル」
「……うん」
「姫なのに、今の今まで失念していた感じか?」
「うん。姫なのに、今の今まで失念していた感じだよ」
もう外壁は目前。そのタイミングで私はそのことをリモデルに向かって言ったのだ。
こんなところで声を出したら、門番にバレる可能性はあるし、彼の言う通り本当ならもっと早く言うべきことだ。
「それで……どれかな」
「えーっと……」
サーチ中……うむうむ。
久しぶりだったが、発見することができた。私は辺りの確認を行った後にそこの煉瓦を押し込む。
すると、その煉瓦を起点に煉瓦が形を変えていき、煉瓦製の扉が出来上がっていく。
この隠し扉を造ったのは私を造った研究者の物。それも私が造られる少し前に造った物らしい。
私は造られた初日にこの扉のことを教えてもらったんだけど、その時はまだ形を変えるのが遅くて、その上変化時にガラガラという音もしていたんだよね。
あれから、何度か改良を重ねていると生前に何度か聞いていたのだが、本当にきちんと改良されているね。
「見ていて気持ちいいな」
「そうだろう?」
今はもう侵入に問題はないだろう。音も小さければ、変化も早い。これなら、誰にもバレないと思うよ。
変化が終わった扉を見て、私は通り抜けようとした。
……だが。
「……あれ?」
「どうした?」
「……いや、通れない……っていうか」
通れない。通れないんだよ。何故かわからないが、結界のような物が張られていて、扉の先へ進めない。
いや、結界のような物と言ったが、これは完全に結界なんだろうな。魔力を感じないあたり魔法結界ではなく、事前に設置しておいた罠結界。誰が使っていたんだろう。
「本当に通れなさそうだな」
「うん。結構強固な結界が張られているようで、どうやっても通れそうにないよ。どうしよう?」
そう言うと、リモデルとファルは考え込む。
私も考えよう。このままだと、侵入することはできないからね。
結界が張られているなら外壁を登ったとしても意味ないだろうし、どうすべきだろう……
「……他に入れそうな場所……じゃなくて、結界をすり抜けられそうな場所とか……そういうのは……」
「……ごめん、ないよ」
あったらいいとは私も思うが、そんな物はないよ。例え、マオルヴルフであっても無理なんじゃないかな。
これは設置型の広域罠結界だから、きっと地下にも有効なんだ。それ故に掘り進んでいっても、途中で結界にぶつかって引き返す羽目になると思うよ。
私がそのことを伝えると、リモデルが「一つ質問いいか?」と挙手をしてきた。
「なんだい?」
「もう壊さないか?」
「……」
「これ、もう壊すぐらいしか、入る方法ないだろ」
それもそうだが……根本的な問題がある。
「これは当たってみた時に思ったが、相当上質な結界であるんじゃないかな。破壊できるのか?」
「やってみないとわからな……」
「僕にやらせてよ」
唐突なファルの立候補に私とリモデルは顔を見合せながら、数秒だけ絶句する。
「……いいよ」
「……い、いいのか?」
「……少し迷ったが、彼の瞳がとても輝いており、やる気に満ち満ちていたからね。いいよ」
「ふっ……」
リモデルが笑ってくれた。よし……嬉しい。
「ちなみに今、初めて『瞳が輝いている』という表現を使ったけど、これって使い方合ってるのかな?」
「ああ、合ってるさ」
リモデルはそう答えた後、少し笑いながらファルのことを見る。もちろん、私もね。
ファルは何をするのかと思っていたら、自身の手に魔力を集めていってそこから蔦を生成していた。
そして、その蔦を自身に巻きつかせていき、巨大な篭手へと変えていた。
どうやら、それで壊すつもりのようらしい。
蔦の篭手だから、蔦篭手と呼ぶべきかな。
「念の為、下がっててよ。二人とも」
「ああ、うん」
「わかった。ちゃんと壊せよ?」
「当然だろ」
ファルは微笑を浮かべると、蔦篭手のある右手を一旦引き、狙いを定めてから一気に結界にぶつけた。
その威力は自信の高さと比例して高く……
当たった瞬間に窓が割れるかの如く……綺麗なパリッという音と共に瓦解していった。見事だ。
「どう? 少しはいいところ見せられたんじゃない?」
「そうだね。すごかったよ」
私が褒めると、隣で一瞬だけ歯軋りの音が聞こえた。気のせいであることを祈ろう。
私は前を向くと、背伸びをした。
「なんか、疲れたよね?」
「ああ、朝になるまでに済ませないとな」
もう大分時間を消費してしまったよ。
ここに絶対にいるとは限らないし、さっさと入ってさっさとラプゥペを探して……
ラプゥペがここで見つかったならそのまま帰って、見つからなかったなら他の場所に行きたい。
その思いを抱えながら、今度はファルを先頭にして城内に入ったんだけど……
「どうやら、まだ入れないようだね」
「阻むものが多すぎて疲労の蓄積が半端じゃないね」
ファルと私がため息をついたところ、リモデルが私たちの肩を叩いた後に前へと出た。
今度は自分がいいところを見せる番だ、ということだね。わかったよ。
貴方のかっこよさを見せてくれ。
「来ましたね。姫様……そして、侵入者」
「そこを通してくれないかな? ご老人」
リモデルが相対するは険しい顔をした老人……その名前を私は知っているよ。
……ペルチェ・ダブル。この城の執事では最も実力が高く、その上礼儀正しい。城内のほとんどの者が尊敬の感情を抱いている正に執事の中の執事と言うべき存在……
彼に道を阻まれたら、易々とは通れないんじゃないかな。
ため息をつきたいけど、これからリモデルの勇姿を見るというのにそれはよくない。
「……!」
眼前に立つリモデルが軽く振り返り、ウインク。こういう時もやはり彼はブレない。
私は彼に心の中でエールを送りつつ、被害が来ることを想定してファルと共に後ろに下がるのだった。
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