19話【ドルイディ視点】アーン《2》
この『アーン』は気づいたらやっていた。
リモデルには事前にそんなことをすると全く伝えてはいなかったが、驚きも躊躇いもせず受け入れてくれた。口をかわいくパカッと開けてじっと……
そんな彼のことを愛おしく思いつつ、私は匙をゆーっくりと彼の口へと突っ込んでいった。
突っ込んですぐにそこに乗った卵と米は口腔へ流れ……飲み込む時の音が私にも聞こえてくる。
少し汚れた服を手布で拭う動作にすら、少しの色気を覚え……ウットリしていたところで……
「……そっちも美味しそうだね」
エフィジィとヒグリが仲良く食べている野菜炒めが目に入り、私は二人に向かってそう言った。
二人は『アーン』は別にせず、お互いほぼ同じ動作でパクパクと匙に乗った野菜や茸を口に運んでいる。
「んむ……」
「美味しいっすよ!」
それなら、良かった。
親指を立て、笑顔で伝えてくるヒグリとエフィジィの顔からは輝きを感じることができた。
「……」
ちなみにディエルドは一人で肉料理を食べている。疎外感を覚えているのか、あまり表情がよくない。
私も彼に楽しく食べてほしい思いがある。
……それ故、私は彼に口パクで開口を頼む。
「はっ……!?」
「『アーン』してあげるよ。じっとしてて」
驚きつつも、口を開けた彼の隣に私は向かい、先割れ匙で肉を刺すと、冷ますために「フーフー」と何度か息を吹きかけた後、ゆっくりと口に運ぶ。
それを待つ彼の顔がかわいくて頬が緩む。
「ほら、アーン」
「アァーオ」
「ふふっ、なにそれ」
変な声を出すことに笑いつつも届けることに成功。
口を閉じてはむはむと美味しそうに肉を食べる姿は……とてもかわいい。リモデルに劣らず。
その咀嚼は味わいのためか十秒は続いた。
それが終わるのを見計らって、私は手布にて彼の口の周りを拭くと、リモデルの隣に戻った。
「っ……野菜炒めです。えっと……」
「あ、私が頼んだ。そこに置いてください」
席に座った瞬間にリーが野菜炒めを持ってきた。
そうなんだよ。野菜が食べたくて、私も頼んだのだ。ディエルドに『アーン』してる時に忘れてしまっていた。それにしても、美味しそうだな。
私はそれを少しリモデルにあげつつも、パクパクと食べていく。
んー、美味しいね。野菜のシャキシャキ食感……茸の風味と柔らかい食感……堪らないねぇ。
「あぁ、美味しい……」
そんなこんなでみんなが一通り食べたい物を食べきったところで……エフィジィが口を開いた。
ちなみにこの直前に彼女の口端には食べ物のカスがついていて、それに気づいたヒグリがそれを拭ってあげているところがめちゃくちゃかわいかった。
「……話なんだけど、私ね」
告白をした……と言うと思ったが……
「実は……靴作りも始めることにしたんだ!」
「えっ……」
……違った。全然予想と違うことを言ってきた。
「わたしね。ファッション自体好きだけど、靴を作る技術はなかったから、今まで服は自作で良くても靴は買わなきゃいけなかったんだ。そんなの嫌だなって」
「へ、へえ……」
「ちょうど、ヒグリくんが靴作りの勉強もしてるみたいでね。だから、教わってみることにしたの」
「それは良いことだね。頑張って」
てっきり、告白したことを伝えてくると思ったから、なんかモヤモヤしているな。心中。
二人はもう付き合っているのか?
……どうなんだろう。凄い気になる。
「ねえ、ちょっと二人共いいか……」
「オミュライズおかわりでーす。ここに置いときま……えっと……すみません。話の途中でした?」
リーがオミュライズのおかわりを持ってくるタイミングと重なり、私の言葉は遮られた。
このおかわりは……?
誰が頼んだのかと視線を巡らせると、ヒグリが手を挙げた。いつの間に頼んだんだ……?
全く気づかなかったから……ビックリだ。
「別に大丈夫です」
「あ、リーさん、そこに置いといてほしいっす」
「はい! すみません」
リーはヒグリにオミュライズを渡したらすぐに私に頭をペコッと下げた。意図的じゃなかったぽいが……
遮られたことに変わりはないのでムッとはする。そのことを言ったりはしないけど……ね。
……はぁ。まあ、このことは今度聞けばいいか。
「……ドルイディさん。自分らになんか聞きたいことあったんじゃないすか? 聞きますよ」
「いや、別に大したことじゃないんだ。話す気もなんか起こらなくなっちゃったし今度にしよう」
「ホントにいいんすか?」
「大丈夫だって。今日聞かなきゃいけないことではない。聞かなくて後悔することも……多分ない」
「多分……かぁ。お姉様変わったね。こういう時、そんな表現を使ったりしなかったでしょ。昔」
エフィジィが私のことを見ながらそう言う。
『多分』ね。まあ、昔の私なら使うという発想自体出てこなかっただろうし、そう……かな。
私が頷くと……ディエルドが何か話したいことがあるようで「はいはーい」と言って手を挙げる。
「ディエルドさん、どぞっす!」
「あんがと〜、ヒグリ。んじゃ、言うね〜」
手をヒラヒラと振り合う二人。
エフィジィとヒグリの間柄にも驚いたが、こちらの親密さにも驚かされてしまうね。
そういうのって親友とかでやるもんじゃないの? もう親友なの? だとしたら、仲がたったの一日で深まりすぎていると思う。みんな、凄いな。
私も後で彼ともっと話して仲良くなろ。
友達は私もたくさん欲しいと思ってるんだ。
かなり前。恋人を作りたいと思った時からずっと変わっていない考え。
……たくさん作るよ。数えきれないほど。
「二人って仲良さげだけど、どれくらい進て……」
ディエルドの言葉は……最後まで紡がれない。
私と同じだ。遮られたことが原因。
……奇跡。しかし、それは好意的に捉えられるものではない。
とてつもなく、大きな音……轟音とも呼べるもの。それが聞こえた後に……たくさんの悲鳴が聞こえる。
何かが来たんだろうね。
だが、こうも立て続けに祭中に同じようなことがあれば、その正体を探ろうとしなくても……
犯人の正体はわかる。
私はもちろん、他のみんなも……同様に。
「店長さん、リーさん、ご馳走様でした」
そう言ったのはリモデルとヒグリ。
私たちは会計のために二人を呼ぶ暇も、二人のもとにお金を渡す余裕もないと考えて料金を机に置くと……
全力で外に向かって走るのだった。
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