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18話【ドルイディ視点】アーン《1》

 店の中は誰もいなかった……に見えた。


 しかし、私たちが「誰かいませんかー?」と呼びかける声に誰かが声をあげて反応した。


 魔物の唸り声のようだった。「うぁあ〜!」って感じ。魔物の可能性も疑ったが、出てきたのは人間……


 ……いや、自律人形かな。わかりやすい位置に人工の心臓が見えるからそう思った。


 ま、改造人間の可能性もあるけど。


 その人形は「ううーん」と言いながらポリポリと頭を搔くと、フラフラとしながら立ち上がった。



「え、えっとぉー……お客……さん?」


「はい……えっと、店主さん……?」


「? いや、俺は手伝いです。店長はあまりにお客さん来ないんで奥で休んでますけど……呼びます?」


「あ、はい。呼んでもらえると」



 店の人はそう言った瞬間に……



「おーい!! 店長ー! お客さんでーす!!」


「……」


「起きてくださーい!!! お客さんですよー!!」


「……むにゃ。何言ってんだ?」


「お客さんですよ。寝ぼけてないで来てください」



 店員さんはそう言うと、私たちのことを一瞬見て手を合わせて謝ると、店の奥に向かった。


 最初の倒れていたところを見ると、なんか怠惰な人という印象を見たけど、店長さんを起こすために声を張り上げているとこを見て、印象変わったね。


 それから、およそ五分前……


 多分、起こすのに時間かかったんだろうなぁ。少しボーッとした様子のおじさんとさっきの店員さんが出てくる。前者が……その店長なんだろうな。



「えっと……本当にお客さん……です?」


「はい……そうですが……」


「なんで、近くのあの店じゃなくてウチを選んでくれたんですか? それに、その感じ……凄い良いトコの貴族さんなんじゃないですか? ウチなんて……」


「そんな、卑下しないでください! わたし、ここで前に食べたことありますけど、凄い美味しかったです! 隣のヒグリくんも美味しいと言ってました!」



 大声でエフィジィはそう言った。


 どちらかじゃなくて、どちらも来たことがあるんだ。そんなことある……? 奇跡じゃないか。



「失礼だけど、アンタ……ウチの店に来たことある? 見てわかる通り、お客さん全然来ないからさ。ウチにわざわざ足を運んでくれたお客さんの顔はちゃんと覚えるようにしてるんだよね。その中にアンタの……」


「本当によく見てます?」



 エフィジィは店長さんに近寄った。


 何をするのかと思った。接吻でもするのかと……


 だって、眼前にまで近寄ったからね。


 私以上に驚いている店長さん……その店長さんの顎を手で持ち上げて……エフィジィは自身の顔に向けさせる。


 きっと、彼女はあまり格好よさなど考えず無意識的にその動作を行ったが、私にはそれが今の男装(かっこう)にあった格好いい動作であるように思えて……


 無意識に「おお……」と言ってしまった。


 店長さんは少し頬を赤くしつつ、彼女の顔をジーッと見て……気づいたのか謝罪を始めた。



「もしかして、アンタ……じゃなくて、アナタは……エフィジィ様ですか!? そうとは知らず、すんませんした! そっちは……ヒグリくんだよね?」


「はいー。この前は美味しい料理ありがとっす。前に『また来る』って言いましたけど、ちゃんとその通りに来ました。今回も美味しい料理オナシャス!」


「ああ、もちろんアナタたちのためなら、この腕……振るいに振るわせてもらいますぜ。待ってな!」



 店長さん、いい笑顔!


 さっきまでは覇気を感じなかったが、大口を開けて健康的な白い歯を存分に見せて笑う今の姿からは……覇気とやる気が混ぜ合ったものが感じ取れる。


 それも存分に!


 これは期待が……できるというものだね。



「ワクワク……!」



 ディエルドの声。内心が口から洩れたか。


 表情にも表れてる。本当にわかりやすい奴だね。


 店主さんは私たちが席に着いたのを確認すると、再び豪快に歯を見せて笑いながら、手を叩いた。


 何をするのかと思ったら、一瞬で辺りが綺麗になる。


 お客さんが来ていなかったからなのか、装飾など所々は良いのに片付けがされておらず、埃も散見されたため、少し残念だったのだが……


 今、解消されたよ。良かった! そういう能力なのかな? だとしたら、凄い便利だなぁ。


 というか、失礼だが……汚いことにちゃんと気づいてくれていて良かった。汚いことに気づかない不潔の具現化みたいな人もこの世界にはいるからね。



「……提供速度が前に遅いって言われたんですが、俺だってやりゃあ出来るんです! 店員は俺とこの横にいるリーの二人しかいませんが、アッチの店の店員二十人と同等の働きで速攻提供させていただきやす!」



 横のあの店員さん、『リー』って言うんだね。


 一応、覚えておこう。


 それにしても、『店員二十人』って凄いな。そりゃ、提供速度も早いわけだ。


 二十人と二人……いくら腕が良くても提供速度に遅れが出るのは仕方ない。


 さて、その差を埋められるか……どうなのか。


 まあ、私たちはあの店の提供速度を知らないから、早く完成したとて比較はできないんだが。


 私たちが商品の注文をすると、店員さんは店主さんに大声でそれを伝える。ハキハキしてて良いね。



「ドル。心配してるみたいだが、それは杞憂に済みそうだよ。ちょっと、厨房見てみな……」



 厨房は私の背中側にある。


 それ故に見えていなかったので、私はリモデルと一緒に席を移動して見ることにした。


 なんでリモデルも一緒に移動したのか?


 恋人だし……隣がいいんだよ。ワガママ。


 だが、代わってもらったわけじゃない。みんなも作る様子が見たいのか……近寄ってきた。


 席をあまりに近づけるのもどうかと思ったのかヒグリとエフィジィの二人は私の後ろで佇む。



「……リー、火加減にはちゃんと気をつけろ!」


「はい!」



 二人共、気合いが入ってるなぁ。


 その上、嬉しそう。料理の楽しさと……久しぶりに料理を作れることの嬉しさ……どちら由来?


 どちらも……かもね。そんな感じだ。


 調理道具……あれはフライパンだったか。それを使う動作が凄いね。


 乗った卵…… それを翻す動作……まるで曲芸のよう。


 あれは卵の料理……私が頼んだ『オミュライズ』だろうね。米に卵をかけた料理だ、確か。


 昔、城で出されたことがある……あれもかなり名のある料理人に作らせていたようだが……


 この『オミュライズ』はそれを越えられるか……?


 少なくとも、見た目と香りは……個人的にはこっちの方が好きかも。ちょっとだけ……ね。


 米への味付けも並行で行ってくれていたので、完成まで十五分もかからなかったね。



「米って確か……炊く時間が必要だよね? そんなことひてる様子も時間もなかったと思うんだけど、どうしたの? 事前に用意しておいた……とか?」


「すぐに炊ける自慢の魔道具を実は持ってるんです。これ、内緒ですよ? バレたら盗まれるかも」


「わ、わかった……」



 そんな凄い物を持っているのか……


 『是非、拝見したい』……そんなことを言おうとしたが、店長さんもそれは察していたらしい。


 私たちによーく見せてくれたよ。


 店長さんはそれから、リモデル、エフィジィ、ヒグリが頼んだ野菜料理、肉料理も完成させる。


 その時間、合計しておよそ三十分……!


 驚異的な早さと言える。私はそう思った。


 あの店は知らないけど、通常の店と比べたら、この店の提供速度はかなり高いと言えるだろう。


 店長さんは「もうちょっと早くできた……」と悔しそうに小声で呟いているけど……はは……



「店長さん、本当に早かったですよ」


「そんなことは……」


「自信持ってください。たった二人で六つもの品を三十分ほどで仕上げているんですから」



 リモデルが口を開いて褒めると……


 店長さんは「よしてくれ……」と言って苦笑しながら、顔を赤くして厨房へと戻っていった。


 一瞬だが、見えたよ。


 その顔は……笑っていた。嬉しかったんだ。


 私はその顔が見れたことを嬉しく思いつつ、自身のオミュライズの欠片を匙に乗せ……


 リモデルの口に運ぶのだった。


 これが所謂……『アーン』である。

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