15話【ドルイディ視点】怪盗ディープ、参上《2》
「怪盗……ディープ……!?」
この変人が……?
他にも色々と変な奴に会っている。何なら、今この変人が捕まえた泥棒も変人って感じだった。
だが、こいつが一番変だと……個人的には感じた。それ故の……『変人』という大雑把他称だ。
「……そ。怪盗ディープです。以後、お見知り置きを。絶対に皆さんにはまた会うことになりますので」
「……」
「それも、近々。具体的には二日後……だと思うね」
「パーティで物を盗むつもり……だからか?」
「おっ、凄い凄い。その通りなのさ。私はパーティ三日目に王城のパーティに潜入し、盗みを行う。よく知っていたね。褒めて遣わす……なんちゃってね」
そりゃ、知っている。予告状出されてるんだから。
まあ、五分前まで忘れてたけど。
こいつは……私たちの正体を多分知っている。絶対に会うと言っていたしね。
さっきの名前に関する話をしていた時に聞いてたか? それとも、事前に追跡でもしたか?
「……貴方はなんで自分から名乗るんだ?」
「知られたところで仕事に支障はありません。それに、事前にお会いしておきたかったのです。貴方たちと交流したいとも……ずーっと思っていたので」
「……なーんでタメ口から敬語に?」
「質問が多いですね? そんなにタメに戻してほしい? 王族様には失礼かと思ったのだけど……」
「いや、別にどうでもいいが……」
「……ま、取り敢えずは敬語で話しますよ。王女様」
怪盗ディープは跪き、突然に私の手の甲に接吻をしようとしてきた。
結界があったために、そんな心配はいらないのだが、ゾッとして思わず手を引っ込めてしまった。
「つれないお方だ。これが『塩対応』ってやつですね。辛いものだ。もう経験はしたくないです」
「『塩対応』……うん」
知ってる言葉ではある。
素っ気ない対応……のことだね。その反応、最近覚えた言葉って感じなんだろうか……?
「……単純に今は男装してるから女性的に扱われたくないという思いもあるのでしょうか? それなら、失礼いたします。以後は気をつけていきます」
「なんでもいいが、ここにはなんで来たんだ? 私たちに会いに来たというだけなのか? それとも、コソ泥らしく、何かしら盗むつもりなのか?」
「『コソ泥』とは失礼な。あんなただ金目の物を盗み、私欲を満たそうとするだけのくだらない輩と同一に考えられるとは……些か不快ですね。訂正を」
「……それなら、何が違うのか……教えてもらえる?」
金になるから、盗んでいるわけじゃないんだ。
それが本当なら、一体何故に盗みなど働くのか……それが知りたいから問うている。
煽りの意図もあるが、それだけじゃない。
「私が盗みを働くのはそれがいずれ他者のためになると確信しているから。故に盗んだ物はきちんと自宅にて保管しています。粗末に扱ってはいない。もちろん、今後売る気もなく、目的のために使い、それが達成されたのならば……いずれ返すつもりでもあります」
「は? 具体的にどう他者のためになる?」
「それは言えません。言いたいのですが、そこの説明をしてしまうとちょっと困ったことになるのでね。ふふ。面白いですよね。ま、いずれ目的が達成され、その時に貴女たちが隣にいたのなら、話すかも……」
ふざけてる。なんなんだ、こいつは。
苛立ちは……最初のものは消えた。しかし、今に話した内容による怒りが……湧いてきていた。
「……ま、そんな怒らず。格好いいところを見せてください。折角、来たので……見たいのです」
「嫌だね」
「あ、そういえば、訂正していただけてなかった。先程の発言……! 先に訂正を……お願いします」
「……面倒くさっ」
思わず、声に出た。それほど面倒くさい。
「……わかった。訂正する。ただのコソ泥と怪盗は違うし、貴方は立派な怪盗だ。これでいい?」
間違えて、立派と言ってしまったが、本意ではない。
こんな奴、全然立派じゃないからね。そんなことは全く思っていない。口をついて出てしまっただけ。それ以上でも……それ以下でも決してないのだ。
「立派とは嬉しい。ま、でも世辞でしょう?」
「わかってるじゃないか。その通り」
「じゃ、そろそろ……格好いいところを」
私はそう言われたので、取り敢えずパッと頭に浮かんだことを実践することにした。
さっきは『嫌だね』と言ったんだけど、気が変わった。やってやる、怪盗とやら。
「……っ」
まずは……ただ突進……!
その状態で壁まで追い詰めて……勢いよく……しかして、壊さないように……ドーン!!
恋人以外にはやりたくないと思っていたが、これ以外に咄嗟に思いつかなかった。
……成功だな。少し跡はついてしまったものの、建物は崩れていないし……目の前の人物を黙らせることもできた。まあ……十秒だけだったのだけども。
「……ふ、ふふ……やはり、面白いお方です。でも、あまりこんなところで激しくしすぎると、汚れてしまいますよ。折角の服が台無しです。そうは思いませんか? この服を作った……エフィジィ王女様?」
「……わたし!?」
いきなり、話を振られたエフィジィは困惑しながら、自分のことを指さしてキョロキョロした。
まあ、そりゃそうなるよね。わたしもそうだ。
でも、貴女しかエフィジィと名の付く者はいないよ。五秒という時間は些かキョロりすぎ。
「そうです、王女様。貴女ですよ」
「……!?」
……速っ!? 気づいたら、私の視線の先にいたはずの怪盗は消え、エフィジィの前にいた。
彼女に何をするのかと警戒しながら、見守る。
結界によって安全だとは思うが、あんな超速度(?)を有している以上、結界を解く術も有しているかも。すぐに助けられるようにすべきだ。
……ちなみにこの考えはすぐに出ていない。
先に……私より格段に先に動いたヒグリ……彼のことを見て、私もそうする気になったんだよ。
順番としてはヒグリ、リモデル、ディエルド、私って感じ。私が一番守るための準備が遅かったな。恥ずかしいや。直前まで一番近くにいたというのに。
「わたしになに? 何をする気?」
「いえ、何にもございませんよ。将来に名を馳せる服飾師となるかもしれない方ですので……一度、少しでいいのでお話してみたい……そう思っただけ……」
「褒めてくれたこと自体は嬉しいけど、それが貴方みたいな人だと嬉しさ半減かも……」
「……それは悲しい。まあ、でも貴女の素敵な顔が見れて、半減しましたけどね……悲しさ!」
「……」
「……いや、全減したかも……ま、なんでもいいですかね。それでは、皆さん。また会いましょう」
怪盗はそれだけ言うと、立ち去ろうとする。
私はため息をつきつつ、それを見送ろうとした。みんなも同じ……だと思っていたんだけど……
どうやら、一名は違ったようだった。
その一名というのは怪盗に最も物理的に近いところにいて……話しかけられていたエフィジィ。
彼女は……怪盗の足を掴むと、地面に叩きつけようとする。
しかし、力のない彼女にそんなことはできるはずもなく、彼と一緒に少しだけ浮くのだった。
すぐに怪盗が着地したから、ほんの三秒だけだったが、どうやら、浮きたい願望があったのか、意外と嬉しそうではあった。
浮きたいがためにやったのか? 違うよね?
「勝手に逃げないでよ。ちゃんと見えてなかったかもしれないけど、さっき財布を盗まれたあの人……盗まれた瞬間に手を切ったんだよ。気づいていた?」
「えっ?」
「あなたが変なこだわりで助けるのを遅らせたから、ああなったんだよ。あなたがお姉様に言葉の訂正をさせたように、わたしはあなたに謝罪を強制する。謝ってよ。まだ……あちらで座ってるから。あの人」
エフィジィの発言に怪盗は驚く。
そのまま怪盗は何かしら理由をつけて彼女の答えを躱そうとすると私は踏んでいたが……
意外にも怪盗は素直に望まれている……返事をした。きちんと、頭を下げ、地に足つけて。
その……怪我をした装飾屋の店主に対し。
「申し訳ございませんでした」
「あ、いや、別にいい。助けてくれたことには変わりないし。わざわざ謝ってくれてありがとうねぇ」
店主は全く気を悪くした様子はなく……
それどころか、笑顔で怪盗に応対する。凄い優しい人だな。これで怒る人というのもそれなりにいるだろうに。幸運だったね、怪盗ディープ。
「……それなら、いい……と言いたいところだけど……」
「ああ、王女様やお付きの方。貴方たちにも多大なるご迷惑をかけました。謝罪申し上げます!」
「わ、わかった……」
「ふふ……それでは、また。他に誰も言いたいこと、やっていただきたいことがなければ、これで本当に行かせていただきますけど……いいでしょうか……?」
素直に指示に従うのは癪……
そんな思いも多少はあったものの、面倒くさいという思いが上回ってしまった結果……
私たちはブンブンと問いに首肯するのだった。
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