14話【ドルイディ視点】怪盗ディープ、参上《1》
自害……?
いや、自害ならあんな死の直前の驚きの顔を見せるか? 隣の奴だって驚いていたし……
アイツらは体の中に……文字通り、爆弾でも仕掛けられていたんじゃないか?
本人はそのことを知らされずに……
……多分、アイツらの親玉か何かに。
「……お、驚きだったね……デル」
「ああ、こんなことが起こるとは……」
私とリモデルがそんなことを言い合った横で、エフィジィがヒグリに対して似たことを口走る。
ディエルドはどうかって……?
アイツは……なんかむくれてるね。そっぽ向いてる。まあ、なんかさっきから仲間外れだったしね。
「皆さん、多分アイツらは……爆弾仕掛けられてたんだと思うっす。本人も知らないうちに」
「わたしもそう思った。多分、親玉の名前を口にしようとしたら作動するようになっている魔道具の一種だろうね。めちゃくちゃ厄介……自分が仕掛けられたらと想像すると、あまりの恐ろしさにゾッとするね」
その予想が的中しているのなら、だが……恐ろしいな。なんてことを仲間にさせているんだ……
とんでもなく……残忍な奴なのだろう。
その人物像と……会った時に自分たち人形がどんな目に遭わされるのか……想像しただけで背筋は震えるし……もっと意識しようとしたら、きっと涙が出る。
……そうまでして、こいつら人形狩りはなんで人形を狩ろうとしているんだ……?
一体、人形にどんな恨みがあるというんだ。
仲間の数を私たちはまだ把握できてない。あと、何人いるんだ……? 何人襲ってくるんだ……?
震える。体が……強く震える。
抑えはきかない。首飾りも……『ERROR』を訴える。
祭の少し前にプララとラッシュに首飾りの改造を頼んでいたんだが、まさかそれによって精神が酷く動揺した時にも『ERROR』が出るようになるとはね。
なんでそんなふうにしたのか、疑問だ……
ちなみにこうやって抑えられないほど強く震えているは私だけじゃない。横のエフィジィも……
「……っ……っ」
泣きそうにすら、なっている。
……そりゃ……そうだよね。あんな……
絶望すらしそう……そんな時に私の体は……抱き締められた。覆えるほどに長く、私の部屋の掛け布団以上の温もりを秘めた……リモデルの腕によって。
「……ありがとう、リモデル」
「……ドルイディ。大丈夫だ。アイツらは俺が……いや、違うな。俺たちが……絶対に捕まえるさ」
背中をトントンと叩いてくれる彼に愛おしいと思うと共に、こんな姿を見せてしまっている自分への情けなさ故……私はそれから、五秒……下を向く。
リモデルの温もりは消えず、彼の継続的な温もりによって情けないという気持ちが少し溶けたところで……
私は視線を上げ、同じように心の折れていて慰められていたエフィジィと……
彼女を抱き留めるヒグリと……目が合った。
「……?」
「……ん……? えっと……なに? ヒグリ」
こちらのことを見て、わかりやすく顔に出して……疑問を感じているようなんだ。ヒグリ。
私、何か変なことをしたっけ……?
いや、言った……? ……えっと……あ!
そ、そうだ……! 私、さっき……そういえば、自分でもしかして名前を言ってたんじゃないか?
『リモデル』と……
当のリモデルから、私の名前も出ちゃっていたから、今ので私とリモデルの名前が彼にバレた……
……んだろう。あー、どうしよう。
「二人共、自分と同じことしてたんすね。ははは」
「あー、うん」
そのこと……? もしかして、バレてない……?
まあ、人が多かっただけに周りの悲鳴も未だ完全には収まってないし、おかしくないか……な。
「やけにラブラブな感じっすけど……えっと」
「……?」
「失礼じゃなければ……あの、どういう関係なのか……聞いてもいいっすか……? もしや、恋……」
「そうだよ。恋人なんだ。私が彼じ……じゃなくて、彼……氏なんだ。ふふ。頼りないかもしれ……」
「頼りなくないっすよ! ドルイディさんも凄いっす!」
「いやいや、だからそんなことなっ……」
……っとぅぉ……ええっと、今……この人……
聞き間違いじゃなければぁ……私のことをぉ……『ドルイディ』と呼ばなかったか……?
本名で……呼んだ気がしたんだが……気のせいか?
気のせいであってほしいんだけど……
「……ヒグリ。今、なんて言った?」
「ん、なんで震えてるんすか? 『凄い』って言ったんすよ。褒めてるんす。怒らないでください」
「いや、そうじゃなくて……」
「あ、そっか。その前か。『頼りなくない』って言ったんす。貴女が凄いことは知ってるっす!」
「そこでもないんだが……」
わざとやってる……?
そう、疑ってしまう返しだが、彼の顔を見るとキョトンとした様子で首を傾げてきた。
……た、多分、本当にわかってない。
ただ、確かなのはさっきのリモデルとのやり取りがヒグリにはちゃんと聞こえてたということ。
あそこ以外で私たちはボロを出してないはずだからね。記憶が正しければ、だけど。
「……もしかして、『ドルイディさん』って言ったことっすか?」
「そ、そう……」
「……あー、そーっすか。うーん。そうだったのか……その感じだと、やっぱ名前を隠してたんすね。ドルイディさんもリモデルさんも。申し訳ないっす」
「いや、まあ、もういいけど……」
バレた以上はまあ、いいや。
それに、その発言をしてしまった時には……人は見てなかったはず……記憶を漁ったら、うん。
この記憶に間違いがなければ、その……はず。
私が「うんうん」と言いながら自身に暗示をかけていると、ヒグリは質問してきた。
今度は私たちではなく、エフィジィとディエルドに。
「エフさん、エルさん。二人も偽名……なんすか? 差し支えなければ……知りたいんすけど」
「……えっと、いいけど……なんで……?」
確かにね。
それを知ったところでどうするのって感じ。
こんな正義感の強い子だし、何か悪用するために使うとは思えないが……単純な興味?
……ありえる、が、どうだろう。
ちゃんと、答え合わせを……聞きたい。
「いや、二人共……すっごい似てる名前なんで」
「あ、そっか。わたしが『エフ』でお兄様が『エル』って名乗ってたもんね。そりゃ、確かに似ているし、呼びにくいよね。そりゃ、そうだ。ふふ」
「は、はい。そうっす。それで、お兄様って呼んでたけど、もしかして、エルさんはアナタのお兄様なんすか? レグ師匠だけじゃなかったんすね?」
『ああー、しくじったー!』と……
……そう言いたげな顔でエフィジィは絶望しながら自身の両頬を両手によって圧迫していた。
「そ、そうだよ……わたしの本名はエフィジィ。彼はディエルドっていって、わたしの兄なの!」
「ドルイディさんだけでなく、お二人もお、王族だったんすか……? めっちゃくちゃ驚きっす……」
私のこと……名前だけで王族のドルイディ・ペンデンス・オトノマースだと断定か。
確かにこの服はかなり良い素材で作られている故、平民でないと思うのはわかるが……
貴族という可能性もあるだろう。なんでそう思ったのか……気になってしまうな。
それとも、わかっておらず……試してる?
「なんで、お姉様やわたしたちが……王族だと?」
私が思っていたことをエフィジィは言った。
いいこと言ってくれた。ありがとう、エフィジィ!
「まあ、レグ師匠が王族のレグフィ・ペンデンス・オトノマース様であることは知ってましたし……よく見ると、顔も似てるし、何よりエフィジィさん……最初からお兄様って言ってたっすよ。もう忘れたんすか? 同じ王族できょうだいなら、『お兄様』と……間違えてそう呼んでしまったことにも納得がいくでしょ……?」
「……」
何も言えない、エフィジィ……
だが、私たちも……この状況では何も言えなかった。言葉が……全く口から出てこないよね。
そんな状況で私たちは街を歩いた。
さっきまでは活気で満ちていたが、あの騒ぎのせいでかなりの人や人形が消えてしまい……
その上、私たちの間では会話がない……
それ故、この辺りだけとはいえ……祭とは思えないほど静かで暗い空間が出来てしまっていた。
「……凄いね。ヒグリくん」
口を久しぶりに開いたのはエフィジィ。
そのエフィジィの言葉に……話しかけられたヒグリは彼女の顔を見ながら、すぐに返した。
「そんなことは……ないっすよ」
「……いや、なんか……たまたま出会っただけなのに……わたしはきみのことが……好きになってきてる」
「……」
「……目が離せなくなってきてる。これ、どういうことなのかなぁ……? わたし、わからな……」
いい空気感に変わりそう……
そう思った時、彼女たちの背後に何かが忍び寄る。
一瞬、また人形狩りなのかと思ったが……彼女の服のポケットに手を伸ばしていたから、違うな。
泥棒だろうね。こいつが……怪盗か……?
「チッ……」
あまりに無様だが……
怪盗かは知らないが、その泥棒は結界に頭をぶつけると、ぶつかった箇所を抑えながら仰け反る。
「いてて」と言いながら仰け反るところ……その部分だけを切り取っても間抜けではあるが……
その後に路傍の石ころに躓き、転んだことで彼の間抜け度合いは更に加速していった。
泥棒だが、あまりに間抜けすぎて可哀想とすら思えてきてしまう。早くどっかいってほし……
そう思ったところで……泥棒が立ち上がった。
どうするのかと思っていたら、泥棒が向かっていく先……そこに近くの装飾店の店主がいるのが見える。
あの店主から盗もうというのか……
助けようと私たちが向かおうとしたところ、それは止められた。リモデルじゃない。
エフィジィでも、ヒグリでも……ましてや、ディエルドでもなく……それは奇妙な形の帽子を被り……
目だけを覆う仮面をつけ、マントを風になびかせる謎の人物(?)……であった。
本当に……誰なのだろう……? 仮装……?
呆気にとられていると、謎人物は泥棒に向けて手から何か……あれは……もしかして……糸……!?
謎人物の手から射出された糸は見事に泥棒を捕えた……かに見えたが……直前で止まった。
「へ?」
再び私たちが驚いていると、私たちと同様に驚きつつも「幸運だ!」と言いながら、泥棒は装飾店の店主の脇をすり抜け、あっという間に財布を盗む。
何をしているんだ……この謎人物……?
何がしたかったのか。怒りをぶつけたい思いもあったが、泥棒を逃がすわけにもいかない。
そっちに走ろうとしたが、泥棒は転ぶ。
……そして、謎人物によって……捕らえられていた。
「……リモデル……見えた……?」
「いや、見えなかった……全く」
謎人物はこちらに向かってピースしながら笑顔で笑いながら、話しかけてきた。
本当になんなんだろう。
「スリ被害を未然に防ぐのもいいが、スリから取り返すのを一回やってみたかったんだよ。申し訳ないけどね。これが俗に言うスり返しってやつだね」
よくわからないが、苛つく奴である。
装飾店の店主以外の者全てがその人物に対して……穏やかとは程遠い視線を向けているが……
奴はそんな視線などものともせず……聞いてもいないのに……勝手に名乗り始めるのだった。
「私は……『怪盗ディープ』という者……です! ちょーっと早いですが、ここに参上しました!」
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