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11話【エフィジィ視点】怪盗ディープの予告状

 彼はもしかして、わたしのことを男性……つまり同性だと認識しているから、性的とも取れる発言をすることに抵抗がない……そういうことなの……?


 わたしは彼が服を触っている時、そう思った。


 少しだけと言っていたのに、彼はそれから、五分は見続けると……わたしの視線によってハッとして手を離す。長く見すぎていたことに気づいた……?



「あ、すみませんっす! 触りすぎたかも!」


「いや、別に大丈夫。わたしの服に関心を持ってくれてありがとうね」



 わたしは格好いい仕草というものに疎いからわかんないけど、取り敢えずウインクをしておいた。


 ……右目で。


 えっと、おかしくない? 変に思われたかな?


 ヒグリくんはちょっとキョトンとしてたけど……


 すぐに「い、いいっすね。格好いいっす!」となんか褒めてくれた。嬉しい。嬉しいけど……


 ……すっごい……わざとらしさが見え見え。


 格好よく見えなかったかな。それどころか、変に見えていたから、慰めようとしたんだよね。


 ちょっと悲しくなったけど、考えないようにするためにわたしはブンブンと首を横に振る。


 いつもの髪型ならブンブンと首を振ったら、髪が顔に当たるけど、今は変えてるから大丈夫!



「……エフさんって普段もこういう男性的な服を?」


「いや、普段は別に……女性て……!?」



 ……! 危なっ……!?


 間違えた。言いそうになっちゃった。男装しているわけなんだし、女性だとバレたくない。


 いや、もう……この感じ……バレてる……?



「女性的な格好も見せてください。見てみたいっす!」



 どっちなんだろう。気づいているのかな。


 冷や汗止まらないよぉ、もう……!


 わたしはその冷や汗を手布で拭うと、話は済んだということで路地裏から去ろうとする。



「すんません。呼び止めて申し訳ないっす。でも、ほんのちょーっとだけお願いしたいことがあるんす」


「えっと……何かな……?」



 変なことじゃなーいといいなぁ……


 そうでないことを強く祈っているよ。



「多いと思うけど、二つあるんす……いいすか?」


「そのお願いの内容によっちゃうかもぉ……?」


「一つはエフさんが服を作るところを見せてほしいってお願いっす。二つ目はエフさんに師匠に伝言を伝えてほしいというお願いっす。いいっすかね?」


「……一つ目はおっけー。見せてもいいよ……?」


「いつぐらいになりそうっすか?」


「……うーん。今日はこの後にみんなで街を回る予定があるし、三日目はパーテ……じゃなくて、まあ色々と予定があるから……二日目……が良さそうかな……」


「了解っす!」


「あ、ちなみに二つ目のお願いである伝言に関してはなんだけど! その伝言の内容によるから、内容を教えてくれるまで『いい』とは言えない。教えて?」


「それも了解っす。伝言なんすけど、『師匠、会えなくて寂しいっす。また一緒に服を作りたいんで、時間に余裕ができたらお会いしたいっす。祭の期間中に可能(あえる)ということなら王都の城近くにいるんでそこまで来てほしいっす。待ってまーす』でお願いっす」


「ちょっと長いね……」



 ……しかも、予想外。


 そういう内容なんだね。なんか『師匠の服をください』とか伝えたいのかと思ってた……


 長いけど、悪い内容じゃないし、今度会う機会があったら、ちゃんと伝えるようにしよ。


 わたしが「いいよ」と言って頷くと、ヒグリくんはぱぁっと顔を明るくしてわたしの手を握る。


 突然だったが故にビックリして突き放しそうになったが、思ったより力が強くできなかった。


 結構華奢に見えていたけど、ヒグリくん……力強いんだ……? 見た目じゃわからないね。



「わかった。じゃあね」


「はい。それでは、また……」



 別れようとわたしは手を振る。


 そんな時にディエルドお兄様のポケットから何かが出てきた。紙……かな……?


 ヒラヒラと舞って、たまたまわたしの顔に張りつく。



「わっと! お兄様、これなに!?」



 ちょっと怒り気味にわたしがお兄様にそう言うと、お兄様は「思い出した!」と言った後に説明を始める。


 あのさ、わたしとしては先に謝罪してほしいよ……


 まあ、別にいい。説明聞こうかな。



「それは、予告状だよ。見せようと思ったんだけど、今の今まですっかり忘れちゃってた」


「……」


「……最近噂の……なんだっけ。怪盗テープ(?)とかいう奴がお父様の執務室に置いてったんだよ。それをたまたまその時に執務室にいたオレが受け取ったってわけ。ちなみに祭の三日目のパーティの途中にパーティ会場である広間において、火光石(かぎろいし)と呪われし二人組の人間を盗むんだってさ。意味不明だよね」


「……怪盗ディープな。ディエルド」



 リモデルさんがディエルドお兄様の頭にシュタッと手刀を食らわせた後に嘆息しつつ言った。


 怪盗って格好いい名前がついてるけど、結局はキザでわざわざ予告状なんかを出して調子に乗ってる泥棒でしょ? なんでそんな奴の名前を覚えてるんだろ。



「自分も知ってるっす! 怪盗について!」


「ヒグリくんも知ってるんだな。俺は同居人からちょっと話を聞いただけなんだが、君はどこまで知ってる?」


「ああ、そっすね。自分もそんな詳しいってわけじゃないんすけど、どうやら彼が盗みを働くのは売り捌くためでも、コレクションするためでもなく……」


「……」


「……その盗んだものに秘められた力を使って何かをするため、らしいんすよ。自分が前にいた国でそんな話を数人から聞いたっす。それが儀式なのか何なのか……詳しいことは知らないんすけどね。自分も」


「そうか。それ以外に知ってることはあるのかな?」


「後は奴は基本的に顔を隠しているということと、声の感じから多分男性ってことぐらいっす。まだ謎が多くて、自分もそれぐらいしか知らないっすね」



 それだけ知っていたら充分だとわたしは思っちゃうなぁ。


 そっかぁ。なんか口振りから察するにかなり有名みたいだし、知らないわたしって無知だなぁ……


 服飾ばかりでなく、多少は情報収集しないとね。街の人や、それが難しいならメイドさんや執事さんから。


 ペルチェさんとか詳しいし、いいかも。



「それじゃ、別れ……」


「……エフさん、待つっす。それ以上先に進んじゃダメっす」


「え? な、なんで……?」



 も、もしかして……わたしとまだ一緒にいたいとか?


 ……困惑するわたしを彼は抱き寄せ、鬼気迫る表情のまま、駆けていった。


 ちなみにヒグリくんだけでなく、リモデルさんとドルイディお姉様とディエルドお兄様も同様。


 なにゆえ〜……? と思っていたら、頭上から唐突に謎の玉が投げられたことで察した。


 その玉はわたしたちに当てるつもりだったようだねど、不発して地面に命中すると……


 ……中に入っていた粉が辺りに撒き散らされる。


 幸い、わたしたちは結界を張っていたために無事。全くその粉を吸うことはなかった。



「大丈夫っすか? エフさん」



 あまりに近い。


 ちなみに彼は何故かわたしのことをお姫様抱っこしている。望んでされてるわけじゃないよ!


 恥ずかしい。なんでこんなことを? 咄嗟に?


 見上げると、少し焦った様子でありながらも何故か笑顔を見せてくれた。安心させてくれようとしてる?


 何故かはわからないけど、その顔を見たことで顔が温かくなっていく。抱っこをされた時から恥ずかしさに顔の温度は上がっていたんだけど、更に……


 このまま上がり続けると、茹でダコに……


 手でパタパタと顔を仰ぎながら思う。


 これ、彼は絶対にわたしのことを女……



「エフさん、手を緩めないでくださいっす! 自分の肩をちゃんと掴んだままでいるっすよ?」



 ヒグリくんにそう言われた瞬間、舌打ちをしながら誰かが降りてきた。


 建物の上だね。


 見上げてみると、かなりの高さ。


 ……であるのにも関わらず、普通に飛び降りていたっぽい。足……痛くないのかなぁ。痛そ。



「……ッ……まずはオマエからだァッ! 人形!」



 降りてきた黒い覆面をつけた人(?)はわたしに向かって短剣のような物を突き刺そうとしてくる。


 結界のおかげで全く傷はないけど……


 それによって、わたしを抱えてくれていたヒグリくんの何かが……プッツンと切れちゃったみたい。


 優しげでかわいかった顔……その額に青筋が浮かび上がり……結界が一瞬解除されたかと思うと……


 次の瞬間には眼前の覆面さんの顔面がヒグリくんによって殴られて、赤くなっていた……



「……この方は多分師匠にとってとても大事な方……そんな方を傷つけようとするなど万死に値するっす」



 そう吐き捨てる彼の顔から……


 ……わたしは……目を離せなくなっていた。

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