6話【ドルイディ視点】祭のための服作り《3》
私の服の本縫いが終わってすぐ、エフィジィはリモデルとディエルドの服を作り始めた。
私と違って二人が作ってもらうのはドレス。
それ故、完成……いや、仮縫い……だったか。
……仮縫いが終わるまでで、二時間はかかったね。
彼女は王女であり服飾師でもあるため、普通の人や人形よりも早く縫える能力を有しており、レグフィと同様に服作りに最適な細指に自指を改造している。
そんなエフィジィでも、二人に喜んでもらうために少し複雑に作ろうとしたためなのか……
一時間と言っていたところ、二時間もかかってしまった。
まあ、私としてはそれでも十分早いのでは……? と近くで見ていた分には思うのだけれど。
「はぁ……はぁ……」
作られたドレスだが、リモデルは私に合わせたのか……海を想起させる綺麗な青のドレスで……
ディエルドは薔薇の如き真っ赤なドレスである。
疲れた様子のエフィジィを労わるように、リモデルが新しく入れたお茶……紅茶をエフィジィへと手渡す。
ちなみに火傷することがないよう、この時点で彼が自身の水魔力でカップのみを冷やしていた。
いい配慮だ。私がさっき入れた時はそんなことをしようなどとは微塵も思わなかった。
やはり、彼は頭が私より回るね。
これでも、高性能な人形なのだが……もう少し改良していかねば……彼に相応しい人形と言えないね。
祭前に久々に色々と自分の体(頭や手足、内臓)を弄ったのに、まだ足りないのかもしれないよ。
「……どう? 大丈夫……かな。よく出来てる?」
「はい。物凄くよく出来ています」
少し恥じらいながらもリモデルは意外と躊躇うことなく、スっとドレスに袖を通していった。
ディエルドは唸りながら躊躇しているというのに。
貴方がいいと言ったのだよね……? そんな思いを乗せて、私はディエルドに視線をぶつける。
ディエルドはすぐにはその視線に気づかなかったが、私が肩を叩いたことで気づくと……
目を伏せて十秒後、「わかったよ」と言ってドレスを手に取る。決心がついたようだね。
そんなに抵抗があるなら断れば良かったのに。やっぱり、嫌々だったのかもしれないな。
リモデルがやるのなら、自分も断るべきじゃない……断りたくない。そう思ったのかもね。
私が「嫌なら別に……」と言いかけたところで、ディエルドが人差し指で私の口を塞いだ。
「大丈夫だよ。大丈夫。ちゃんと着るさ。このディエルド・ペンデンス・オトノマースに二言はなし」
「そ、そう……? その言葉を信じるよ?」
「信じてってぇ。ドルちゃん」
頷くと、ディエルドは私の口から指を離す。
そして、先程までの抵抗していた姿が嘘かのようにそそくさとドレスを掴んで着ようとする。
うーん、なんか少し雑な着方だな……
「……んー」
……まあ、別に彼のドレスだからいいのだけど。エフィジィが一生懸命作ってくれたわけだし。
そんな雑な着方をすべきじゃないと思うな。
抵抗がないことのアピールが苦しいよ。
同じことを思ったらしき、リモデルが手刀でディエルドの頭をポカリと叩く。
「いてっ」
それによって、ディエルドは反省して一度脱ぐと、再び着用していった。
わざわざ脱ぐんだね……
そんな感じで見守り続けたが……それから、着用が完了するまでにおよそ、五分はかかった。
あ、ディエルドがね?
かかりすぎだ。そんなにかけるべきじゃない。
リモデルは五分もかからなかったよ? 二分だ。それでも、かかっている方ではあるが、ディエルドと比べれば、マシであると言えよう。
初めての着用だし、しかも一人で着たのだから。
「さて、これでみんな着れたな」
「おっ……おお……意外と……悪くない?」
部屋の奥に鏡があったので、そこに立ってディエルドが服の裾を摘んで嬉しそうにそう言う。
気に入ったみたいだね。良かった。
「エフィちゃんが作った物だし、絶対に良い物になるという確信はあったけど、予想以上だ。なんか……これを着ているオレ……結構かわいいよね?」
「それは嬉しいな。ディエルドお兄様。うん、かわいい。まあ、いつもかわいいけどね。こど……」
エフィジィが『子供っぽくて』と言いかけてやめたのが私にはわかった。
まあ、口に出したらディエルドがまた何か言うからね。うるさくなるし、それで正解だ。
「……うん」
それにしても、本当にかわいいな。お世辞ではなく。
元々、ディエルドはギュフィアお兄様などの他の兄弟同様かなりイケメンに作られているからね。
喋らなければ、普通にモテるほど。
それ故に普通に女性的な魅力が感じ取れる。
化粧をして、全く開口しないようにすれば、初対面の人間や人形に対しては性別を欺けるだろう。
まあ、そんなことをするつもりはないが。
「……リモデルも! 元が格好よくも中性的であったが故、非常にドレスが似合っていると思うよ!」
「ありがとう。だ、だが……照れるな」
「ふふ。そんな姿もかわいい。それで、リモデル……貴方、このまま化粧もしてみない?」
私の言葉が口から出た瞬間、彼の顔が紅潮。耳まで赤くなるところを見て……愛らしさを覚える。
思わず、その耳に吸血鬼が如くカプリと甘噛みしたくなるほど……だ。
……私、何を言っているのだろう……?
首飾りに視線を落とすが、『ERROR』の文字は出ていない。なるほど。異常はない。
私はディエルドと同様に鏡の前に自分の姿を映しに行くリモデルを見ながら……心中で嘆息する。
「リモデルさん、キツいところとかない?」
「そうですね。若干肩周りが……」
「わかりました! それじゃあ、測らせて!」
リモデルはドレスを脱ぎながら、そのことを伝える。
ああ、少し合わない部分があったか。
まあ、彼は私と違ってエフィジィと旧知の仲ではないからね。こういうことが起きてもおかしくない。
というか、リモデルは結局返事は……
そう思って視線を向けると、リモデルは意図を読んだのか……パチパチっとウインクをしてきた。
あ、これは良いってことかな? 化粧するのも。
なんか、みんな本当に断らないよね。
それにしても、困惑がウインクの仕方から滲み出ているのがいい。ぎこちないんだよ。
それを見て、少しかわいいと心中で思いながら、私は彼がドレスを脱ぐ姿を見守っていた。
「そういや、リモデル……貴方ってドレスを作るように頼んでいたっけ? ワンピースじゃなかった?」
「ドル……そうなんだよ。実は」
「えぇ……」
困惑した。
違う物を作られたのに不満一つ口にしないのは凄いな。さすが、リモデルって感じだね。
「まあ、でも別にいいさ。動きやすいドレスを作ってくれたようだからね。本当に感謝してる」
そう、リモデルが着ていたあのドレスは動きやすさを重視した丈の短いドレスである。
ちゃんと、エフィジィもそこは考えていたようだ。
私がエフィジィを見ると、彼女がリモデルに対して頭を下げながら、謝罪の言葉を口にした。
「ご、ごめんなさい……! わたしも最初はワンピースを作るつもりだったんだけど……」
「だけど……?」
「気づいたら、ドレスを……作ってたんだ」
そういうこと、あるんだ……
まあ、あるからそうなったんだよね。
それで、ディエルドのドレスも見てみたのだが、彼のドレスはリモデルと違って丈が長い。
ディエルドが希望したのかな……? 意外だ。
「ディエルドお兄様のドレスの丈に関して? そうだよ。お兄様が希望したからそうしたんだ」
私が尋ねると、エフィジィは迷わず大きな声で滑舌よく、そう断言してきたよ。
本当にそうだったのか。
ディエルドも動きやすいよう、丈は短くするように希望すると思ったんだけど、何故だろう。
それが気になって、私はディエルドに対して視線を向けたんだけど、彼は……
……なんと、首をコクンと前向きに下げつつ、小さな寝息を立てながら……眠っているのだった。
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