1話【ドルイディ視点】オトノマース大祭開催!
祭が始まる。
オトノマース人形国で二年に一度行われる祭、それが今日……この王都にて、大々的に!
二年に一度なのはこの国の王であり、私の父であるリオマ・ペンデンス・オトノマースがそう決めたから。
それ以上は知らない。昔に気になったから何度か聞いたんだが、その度にはぐらかされてしまってね。
今でも少しは気になるが、まあまたはぐらかされるだろうし、聞くつもりは一切ないよ。
ちなみに私は今、リモデルと共に祭が始まったことによって騒がしい王都を手を繋いで歩いている。
祭ということで食品店、料理店、道具店……目に入る店全てが特別な装飾で店を彩り、祭限定の特別な売り物を出している。どこも魅力的だよ。
だけど、今はもう昼時だし……道具店などは後回し。何か美味しそうな物が食べられる場所を探す。
「ねえ、リモデル。あれ、食べない?」
「おお、いいな。じゃあ、並ぶとしようか」
私が見つけたのは動物や魔物の肉に焼いてタレをかけ、それを串に刺した物を売っている店。
並ぶ肉は……まず、華の国フェウェルベルクで花に囲まれて育った魔物鳥フェダヒの肉……だね。
花に囲まれて育ったことが関係しているのか花の香りがすることと、普通の豚肉よりほんの少し柔らかいのが特徴だね。かなり美味しいんだよ。
私、フェウェルベルクには行ったことなくて、お土産でルドフィアお姉様やギュフィアお兄様が持ってきてくれたものを食べたのだが、頬が落ちそ……
いや、頬が落ちた。美味しい時の……言い回しだったと思うけど、今の……使い方合ってるよね?
他にもウッディケビン産の樹木っぽい見た目の鴨肉など……たくさんあって目移りするな。
でも、久々に食べたかったということでフェダヒの肉を二人分注文したよ。
一串に四個肉が刺さっているみたいだね。欲を言えば、五個ぐらいは欲しいものだが……
まあ、いいや。他にも色々食べたいし。
ここでお腹いっぱいにする必要はなし。
「……んむ」
「風味は前に食べたものより強いし、肉汁も多い気がする。味においても思い出の物より上等……」
食べていて、幸せだ。
風味、舌触り、味わい……それらにより生じる多幸感が……私の口角を緩ませていく。
隣で恋人が同じ物を食べて幸せそうにしているのを見ていると、緩みに緩みきっていく。
溶けてしまうかな? 溶けないね。人形だから。
「俺も前に食べたことがあるが、それよりも好みだ。いい買い物をしたな。値段以上の美味さがある」
少し前にリモデルは子供の姿だった。
今の頬が落ちそうな時の表情にその時の姿を一瞬だけ幻視した。
あれ以降、彼はたまーにこんな表情を見せてくれる。
意図してないのだろうが、かっこいい姿だけでなく、かわいらしい姿も見せてくれて嬉しいよ。
私はあまりに美味しかったために後でまた食べる用に二串。そして、ファルとイディドル用に四串購入。
四串なのは二人も一串では足りないと感じるだろうと思ったからだ。
まあ、足りないと感じなかったとしても、その時は私とリモデルが食べればいいから問題なし。
「……じゃあ、次の店……行こうか」
「そうだな。何にしようか? 何が食べたい?」
「モッチとかあったらいいと思わない?」
「いいなぁ、確かに!」
「だよねぇ。限定の味とかあったら最高だ」
求めているのは甘い味。いつものしょっぱい物も悪くないのだが、今の気分ではないのだ。
リモデルも頷いてくれているあたり、同感なのかな。
私はそうやって周りを見渡していたところ、見慣れた背中を発見してしまい……
思わず、そちらへと近づいてしまった。
「ディ、ディエルド……? 貴方、なんでここに?」
「あれ、ドルちゃん? わぁ〜……会えて嬉しいよ。ってか、『なんでここに?』って酷くない?」
「え? いや、ギュフィアお兄様から貴方はエフィジィと一緒に話し込んでるって聞いてたから……」
「いやいや、それ一時間……いや、五十分前だったかな……? 四十分……だな」
「なんでもいいよ……」
「まあ、そんなにも前のことよ? とっくに話なんて終わってるさ。俺だって祭を楽しみたいんだよ」
「そ、そうか……それは悪かった。で、ここは……」
なんの店かと思って看板の方を見るが……
名前だけではなんの店なのかわからないな。えーと『チモチモ』……? かわいい名前だ。
「ここはモッチの店さ。祭が始まる三日ほど前に見つけたんだ。一ヶ月ほど前にここを歩いた時はこんな店なかった気がするし、多分開店してから日は浅いね。ドルちゃんこういう菓子好きでしょ。一緒に並ぶ?」
「モッチの店なのか……」
「あ、リモデルもいたんだね。リモデルも並ぶ?」
「今、気づいたのかよ……ああ、並ぶよ。ディエルド」
嘘だろうな。そう言う前からディエルドの視線が一瞬リモデルに向いたのを私は見逃さなかったぞ。
気づかなかった振りだろうな。いらないことをする。そんなことをしても、何も良いことはない。
それより、この店……本当にモッチの店みたいだね。先頭の方から専用の紙で包まれたモッチをはむはむ食べている人がやってきたからね。美味しそう。
列には三十六人並んでいるんだけど、美味しいからここまで並んでいるのだろうな。
味の心配は全くしなくて良さそうだ。
「そうだ。ドルちゃん、リモデル。オレ、実は二人にちょーっち言いたいことあったんだよね」
「言いたいこと?」
「そ。大事なことさ」
「大事なことならこんなところで話すべきじゃないんじゃないか? 人や人形がたくさんいるぞ?」
大事なこととは言っても、別に他の人や人形に聞かれてしまっても問題ないことってことか?
どういう大事なことか気になる。
「別に大事なことっつっても他人に聞かれても問題ないことさ〜。一応耳元で言うけどね」
「内容を先に聞かせろ。お父様のことか? それとも、お姉様やお兄様などきょうだいのことか?」
「ま、ある意味きょうだいのことかな。エフィちゃんが呼んでるからさ。来てほしいんだよ」
「は? エフィジィが? 私とリモデルに?」
私はともかく、エフィジィはリモデルと一度も会ったことがないはずだ。
何か魔道具でも使って一方的に顔を知ったとか……そういうことだったりするのか……?
「いやいや、別にリモデルのことは呼んでないよ。ってか、エフィちゃんはリモデルのことなんか知らないし〜呼べるわけないじゃ〜ん。何言ってんのさ」
「いや、それは私の台詞だ。貴方は『二人に言いたいことがある』と言い、その後にエフィジィが呼んでることを伝えてきたよね? そりゃ、リモデルのことを呼んでいると思うでしょ。私はおかしくないよ?」
「……あ〜……まあ、そうだね。そうかもしれない。あ〜、うん。ごめんね。ごめん」
「いや、まあ謝らなくていいけど……」
「……用件言うね? エフィちゃんは祭三日目に城内で行われるパーティ用の服を作りたがってるんだ」
「……ほう! そういえば、ドルは確かに三日目にパーティがあって参加するって言ってたな」
「あ、ちゃんと覚えてたか。良し良し。リモデルもドルちゃんの恋人だから、参加するでしょ?」
ディエルドの問いにリモデルは即首肯した。
速すぎ。私であっても、まばたきをしていたら見逃していたかも。それぐらいの速さ。
「うんうん。だから、リモデルもちゃんとした服を着る必要があると思ってさ。一緒に来てほしいんだよ。事情に関してはオレからエフィちゃんに伝える。多分、ちゃんと作ってくれるさ。あの子、優しいし」
「俺がちゃんとした服を着てないみたいな言い草はやめてくれないか? ディエルド。これでも、服にはこだわってるんだぞ? 礼服というべきだろう」
「そだね。礼服を仕立てたい。で、どうする? 別に急ぎじゃないけど、返事は早く欲しいんだ」
「……非常にありがたい話だよ。是非頼みたい。俺に似合う服を……その子に仕立ててもらいたい」
おお、「家から持ってくるからいい」と断わることも考えていたが、ちゃんと応じるんだね。
リモデルの礼服を見れるなんて嬉しいな。
エフィジィに久しぶりに会えるのも嬉しい。特殊な構造とはいえ、人形である以上、見た目に大きな変化はないだろうけど、内面に変化はあるだろうし……
どうなっているのか非常に気になるよ。
「楽しみだ……!」
ワクワクしている間に、列が進み、私たちに注文の順番が回ってきた。
私はディエルドがオススメだという味のモッチをリモデルと頼むと、期待の目で待っていく。
どうやら、他のモッチとは違うようなおもしろ食感の透明の冷たいモッチのようだね。
……ディエルドの説明によると。
「本当にそんなモッチなの?」
「ドルちゃん、疑ってるの? 悲しいな。信じてよ」
「まあ、そんなモッチ見たことないし、聞いたことも全くないからね……あ、出てきた。これか」
食感はまだ食べてないからわからないが、確かに見た目は透明だ。プルプルと揺れているところを見ると、粘性の魔物……スライムを思い出すな。
私はリモデルとディエルドと共にお金を払うと……
それを手に持って見つめながら、エフィジィが待つ王城に向けて足を進めていくのだった。
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