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16話【マルア視点】太ももの番号

「何をしているのですか!! 早く助けますよ!!」



 呆然と硬直するわたしの腕をペルチェ様が掴んで、部屋の中に引っ張っていきました。


 ゆ、床に人が倒れていたら誰だって驚きますよね!? 硬直してしまうのも仕方ないことだと……思います。


 あ……人ではなくて、人形ですけど。


 ってなんで言い訳してるんでしょうね、わたし。早く助けないとメイド失格ですよね……!



「……っ……よいしょっ」



 わたしはペルチェ様より一歩先に出ると、横たわるドルイディ様のお身体を近くのベッドに向かって運びます。


 たまたまベッドが近くにあってよかったです。天蓋付きの非常に大きいベッド……寝心地良さそう……


 見惚れながらも、わたしはドルイディ様をベッドにゆっくりと出来るだけ丁寧に降ろします。



「……っ……はぁ」


「まだ終わりではありませんよ、マルア」


「えっ?」



 寝衣(しんい)でしょうか。倒れた時になったのかはわかりませんが、見た感じ一部破けている箇所があったので、替えておくべきだと感じていたんですよね。実は。


 ネグリジェがやはり良いでしょう。わたしはドルイディ様にはやはり純白のネグリジェが適切かと思います。


 ネグリジェはやわらかくて肌に優しく、その上軽いんです。寝室で寝かせるのなら、これ以上に体に優しく快適と感じられる寝衣をわたしは知りません。


 色が白なのは彼女を想起させる(イメージカラー)が個人的には白なので。髪色は黒ですが、白を基調としたドレスやワンピースを纏っている姿を目にしていたから、そういう印象が頭に染み付いていたんでしょうね。



「なんか呆けているようですが、話を聞いてください」


「……あっ、すみません」


「私が言いたいのは姫様の生命の確認でした」


「そ、そうだったんですね……すみません」


「大方、服のことを考えていたんでしょうが、常識的に考えてあの状況では生命の確認が最優先事項です。貴女があまりに遅かったので、もう私は確認しましたよ」



 えっ、早い……いつの間に。


 考えていたせいで、本当に全く気づかなかったです。


 ……落ち込むなぁ。本当にダメなんだな、わたし。なんでこんなに役立たずなんだろ。



「今は別に気にしないでも構いませんよ、マルア。姫様の生命は未だあるようなのでね」


「……あ、あの……お恥ずかしながら、自律人形の生命確認とはどのように行うものなのですか?」



 多分、これも常識的なことなのかもしれませんが、わたしは全く知らないのです。


 それ故にちょっと恥ずかしいですね……



「姫様は人工心臓を搭載した自律人形です。それだけなら他にもいますが、彼女の人工心臓は人間に近いのです。鼓動も同じ。形も同じ。役割も同じ。それ故に生命の確認は人間と同様に胸に耳を当てるだけでいいのですよ」


「なるほど……!」


「普通の自律人形なら、心臓が止まったところで大した問題はありませんが、姫様は人間に近づくことを考えていましたから……人間と同様に心臓が止まってしまったら一大事なのです。本当に……止まっていなくてよかった」



 その様子からは本当に生きていたことにほっとしていることがわかって、わたしは嬉しくなってしまいました。



 ……わたし、ドルイディ様がこんなふうにならないように守れるようになりたいなぁ。気合い入れていこう。



 頬を一度叩くだけでは気合いがあまり入りません。なので頬が赤くなるまで、大体三回ほど強めに頬を叩きます。



「何をしてるんですか……貴女は」


「き、気合を入れるために……というか」


「まあ、いいです。それでは、姫様のお召し換えをお願いします。私は部屋から出ておりますので、その後に」



 さすが、ペルチェ様です……っ!


 お召し換えを後ろで見られていたら、恥ずかしいので……そのままここにいると仰ったらどうしようかと……


 そのまま、無言で部屋を出ていくペルチェ様を見送り、わたしはドルイディ様のお召し物に手をかけます。


 ドルイディ様のお召し物はやはり、触り心地がいいですね。これはこれで着てて快適そうかも……



「いつか、これと同じ素材で作られた寝衣をわたしも着てみたい……そう思いますね」



 そう思いながら、お召しになられていた服をするりと脱がしていきます。


 ……少し最初は緊張していましたが、途中で楽しくなってきていました。


 脱がし終わり、いざ新しい寝衣を着せようというところで右足の太もものところに何かが書かれているのが目に入ってきました。薄らですがわかります。



「番号……零と一?」



 よくわかりませんが、早く新しい服を着せないとドルイディ様が風邪を引いてしまうと思うので、気にしません。


 何かの悪戯か実験のためにやったのかもしれませんね。メイドのこちらが気にすることでは……多分ないんじゃないかと思います。ないことを……祈ります。


 ……取り敢えず、お召し換えは終わったのでわたしはペルチェ様を呼び戻すことにいたしました。



「……ぺ、ペルチェ様ー! 終わりましたー!」


「……はい、少々お待ちを」



 その返事から一秒ほどですぐに部屋の扉が開きました。


 ペルチェ様は侵入者などがいないか確認するためなのか軽くキョロキョロと辺りを見回した後に……こちらへとそそくさと向かってきました。



「……きちんと終わったようですね。よかった」


「あ、あの……」


「何か、問題が生じましたか?」


「問題と、いうか……ちょっと……あ、あの……」



 あの、気になること……


 右足の太ももに書かれていた番号について聞こうと思うのです。


 言わないようにしようと思ったんですが、どうしても頭の中にしこりのように残ってしまっていて……聞かずにはいられなかったのですが……


 ちょっといつものようにどもってしまって上手く聞けません。なんか、恥ずかしいからですかね。


 あの番号があることは常識的なことだったら……


 で、でも……ここで聞かないと後悔する気がします……!!



「あの……っ!! ドルイディ様の右足の、ふ……太ももの辺りに……何やら……ば、番号のようなものが……」


「……今、なんと?」


「えっ……番号があると」


「……ほう」



 ペルチェ様はそう返事して思案を始めました。やはり、熟練の執事っぽさが考えている姿からも漂ってきます。


 か、かっこいい……



「ど、どうしたんですか?」


「マルア、落ち着いて聞いてください。私たちは今まで複製人形を相手に慌てていたのかも……って落ち着いて聞いてくださいって言いましたよね?」


「お、おおお……ああ……」



 こ、こここれが落ち着けるわけないですよ!! そんな、衝撃的すぎます。


 こんな精巧だというのに……!


 どう見ても、本物です。少ししか見たことないけど、どう見たって……



「……実は一目見た時からおかしいとは思っていましたが、複製人形ということなら、納得です」


「そ、そうなんですか……?」



 おかしいと思っていた点についてはその後にペルチェ様に教えていただきました。


 まず、複製人形のドルイディ様は眉やまつ毛といった毛の長さに違和感があったそうです。


 その他、身長なども少しドルイディ様より高いように感じていたとのこと。


 そこまで色々とわかるなんて……本当にすごいなぁ、と感じつつ、わたしは質問をします。



「あの……その、太ももの番号、あれには何の意味が?」


「多分ですが、複製人形の製作順を表しているかと……前に教わったことがありまして」


「はぁ……すごいです……」



 やはり、ペルチェ様には憧れます……


 わたしが憧れの視線でペルチェ様の横顔を見つめていると……唐突に彼の顔が神妙なものへと変化していきます。



「ど、どうされました?」


「複製人形とはいえ、姫様が作った自律人形があのように機能停止することなどそうそうないように思います。とすれば、誰か侵入者が入ったのかも……と思いまして」



 し、侵入者……!?


 侵入者って、あの侵入者? い、いや、侵入者に侵入した者以外の意味はないですよね……


 で、でも……っ、侵入者なんてこのお城に……


 物凄く、警備が厳重ですから……



「マルア」


「……!? は、はい!!」


「……この感じだと、姫様はきっと城下の街へいます。いや、もしかしたら連れ去られているかもしれません」


「えっ!?」


「……騒ぎになる前に私たちで探しに行きましょう」



 パ、パニックですよ……こ、こんなことになってしまうなんて……


 どうしよう、どうしよう……こんなこと、本当に初めてなんですよ……


 ああ……でも、落ち着かないと……


 わたしは「すーはー、すーはー」と息を整えた後、ペルチェ様と一緒に部屋の出口に向かいます。



「多分ですが、最近この国に訪れたという人形師が侵入者で複製人形をあのように機能停止させた可能性が高いように思います」


「はい……っ」


「気を張り巡らせてくださいよ? 絶ッ対に夜までには発見して城に連れ戻します。いいですね?」


「もちろんです……」



 待っててください。ドルイディ様。絶対に見つけてみせますから。


 その間、どうか何事もないように……


 祈りが届くことを期待して、わたしとペルチェ様は城の廊下を早足で進んでいくのでした。

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