45話【アサ視点】良い物と良い情報
オレは第二やリモデルと別れた後、欠伸をしながら『不思議の館』へと戻った。
リュゼルスも……ルドフィアも……
もういないんだっけか。独りだな。
まあ、前に戻るだけだ。別に何とも思わねェがな。深夜でめちゃくちゃ眠ィし……
軽く飯を探して食ったら……寝るとすっか。
「……あー」
鍵が開かねェ。つッても誰もいねェんだよな。
どうすッかな……少し嫌だが、壊すか……?
いや、壊したら誰がどうやって直すんだよ……費用だってかかるだろうし、面倒くせェ。
もうオレの家なのによォ……面倒くせェな。
「……ッそ……!!」
登ろうとしたが、何故かツルツルと滑って上がることができねェんだが、どういうことだ。
これじゃあ、侵入なんてできねェぞ……
「……」
……そういや、ここは『不思議の館』だったな。不思議なのは当たり前ッてか。
何言ってんだか、オレ。
どうやって建ててんのか知りてェもんだ。
この館を建てた奴を知りてェ……そんなことを思った時にオレの背後に誰かが立ちやがった……
音もなく、気配も薄い……だが、わかるぜ。
オレは奴にバレねェように魔力を溜めると……
振り返ることなく、後ろ手で奴が隠れていると思しき場所に『強風刃』を飛ばしてやった。
この追跡者野郎が。去ね。
「……ッ……さすがだな。さすがだぜ、おれ」
「……!? 死んでねェ……のか……?」
手応えはあった。当たる音だって聞こえた。
なのに、死んでねェし、何事もなかったように話ができてンのかよォ……おい。誰だよ……?
驚きながら、振り返ると……
「よう、おれ。元気にしてたか?」
「……ッ……テメェは……!!」
オレにそっくりの……奴が立ってやがった。
いや、厳密にはオレがこいつにそっくり……なんだがな。オレはこいつの……複製人形だから。
「……ッ……はァーッ……なんで、こんな時間に、こんな場所に姿を現しやがった。アサシィーノ」
「はっはっ、そんな警戒すんなよぉ。久しぶりの対面だろ。そんな反応されると悲しいぜ」
「……オレはテメェが嫌いなんだよ。捨てやがって」
「おいおい。そりゃあ、心外だぜ。おまえは昔だから覚えてないかもしれないが、おれはおまえを捨てたんじゃなくて、匿うことができなくなったから、王女さんに返しただけだぜ。おまえが王女さんに捨てられて野生児みたいな暮らししてるのなんて知らんかったよ」
「……ンだとォ……? オレの記憶は……」
いや、改竄されていたのかもしれねェな。オレを生み出したのはアイツ。まァ、難しくないだろ。
「……わかった。嫌って悪かったよ。で、結局何をしに来たんだよ。こんな、夜に会いに来たんだ。ただ、顔が見たいってだけじャあねェんだろォ……?」
「あぁ、その通りだ。顔が見たかったってのもあるが、それだけじゃなく、良い物を渡しに来た。あと、良い情報を伝えに来た。少し良いことじゃない。かなりおまえにとって良いことだ。期待していいぜ」
「良い物と良い情報?」
「あぁ、じゃあ、渡すぜ。受け取れや!!」
アサシィーノはオレに向かって何かを投げてきた。
いくつか投げられたが、見た瞬間にすぐにどういう用途で使うのかわかる物が少しあんなァ……
一つ目は鍵だ。何故か二つあるんだが……
「鍵を二つ渡したのは間違いだと思っているか? 違うぜ。一つは館の扉自体を開ける鍵。もう一つはずっと使わないから隠されていた修行場の鍵だ」
「修行場だと……? ンなとこがあったのかよ……!」
とっとと教えろよなァ……
まあ、前のあいつはオレのこと嫌ってたし……教えねェのが普通か。
今からやっても、オレのような人間に近い人形はきっと成長ができる。だから、許すぜ。
……その点はな。
これから、その修行場とやらで修行して、誰が襲ってきても返り討ちにできるようにならねェとな。
「じゃ、他の物についても教えるぜ。他には二つあると思うが、自動修復装置だ。おまえはその機能が搭載されてないらしいからな。つけた方がいいぜ」
「マジか。修行場のことより嬉しいぜ」
「そんなにかよ。まあ、自動修復の機能がつくなんて言われたらそりゃ気分も上がるか……」
「これ、オレみてェな知識がない奴でも自力でつけれるのか?」
「そのための説明書は裏に貼り付けられてるよ。王女さん直筆らしい。ちゃんと読んどけよぉ?」
「ああ、ちゃんと読んでおくぜ」
雑につけて、きちんと修復されなかったら意味なんてねェしな。
確かに裏には説明書って書いてある複数の紙が貼り付けてあんな。これを読めってか。
十枚近くはあんな。面倒くせェ。
まあ、読む。絶対に読むけどなァ……!
「それで、最後の物だが……おまえはそれが何に見える? 言っちゃつまんねぇし、当ててみてくれ」
「は? 革製の何か……だよな? 入れ物……?」
「入れ物ってのは合ってんな。何を入れる物だ?」
「……もしかして、金か……? でも、こんなんじゃ、大した金は入んねェと思うんだが……」
見た目的にはオレの手に収まる程度。こんなんじゃ、絶対に二桁程度の金しか入んねェぜ。
すぐにパンパンになっちまう。あんまり使えねェとオレは思うんだが、なんでくれやがった……?
困惑するオレにアサシィーノはため息をつきやがった。
腹が立ったが、我慢して何を言うか待つ。
「その革の入れ物……財布はな。不思議なもんでいくらでも金が入るように出来てんだ。中を見てみろ」
言われたから、開いて中を見てみると……
そこには謎の広大な空間が広がってやがった。そして、本当に大量の……四桁近くの金が大量に積まれてやがった。偽物じゃなきゃ、とんでもねェ……
「おまえへのお詫びの気持ちが強いから、そんぐらい入れたんじゃねぇかな。大事にしろよ」
「なるほど……な。じャあありがたく使わせてもらうぜ」
「それは良かった。それじゃ、良い情報についても教えてやる。耳をかっぽじって聞いとけ」
既に色々と有益な情報を聞けたが……
まあ、まだ情報を教えてくれるってのに聞かないわけがねェなァ。ちゃんと聞くぜ。
さて、どんな情報を教えてくれやがる……!
「……アサ。おまえは騎士団に入れることになった。おれの代わりにな。おれは辞めるから、おまえはそこに……」
「なんだ。そんなつまんねェことかよ……」
「あ?」
「……オレは騎士団なんてガラじゃねェよ。おまえとは……見た目以外もう似てねェんだな……」
まあ、似ていてほしかったわけじゃねェ。
だが、少しャあ仲良くなれっかもしれねェとは思ったんでな。
そんなことを言い出すんならよォ……
……無理そうで残念……そう思っただけだ。
「……ーッ……マジかよ……おいおい。おれ、もうおまえのために騎士団辞めちゃったんだぜ?」
「え、いやいやそこまでするかよ……」
「まァな。色々と悪ぃことしたし……」
「……ッ……だが、入る気はないぜ?」
「わかったわかった。それなら、いいよ」
アサシィーノはそう言うと、来た中で一番大きなため息をついた後、背を向けやがった。
こいつ、隙だらけだな。
オレはちょっと試しに暗器を投げた。
実は隠し持っていたんだよ。風属性の魔力を敵でもねェ奴に使うのはもったいねェしこうする。
「……っ……ハハッ……すげェ……!」
後頭部の直前。そこでアサシィーノはこちらのことなど全く見ることなく……
人差し指と親指でつまみやがった。
しかも、こんな暗い……夜にだぜ?
こいつ、とんでもねェ……すげェな。
「あんまり舐めんなよ? アサ」
「あァ、悪かったな。アサシィーノ」
「……それじャあ、邪魔したな。いい夢見ろよ?」
アサシィーノはそれだけ言うと、完全に去った。
そう言った一秒後に風が吹いたんだが、その後すぐに奴がいた場所を見たらいなくなっていた。
速さも兼ね備えてやがる。
『元』なのかもしれねェが、騎士様は伊達じャねェ……ッてか……今度また会ったら……
勝負して……負かしてやりてェなァ。
修行してやんよ。誰からも驚かれるほど!!
あと一話で三章終了です。
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