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40話【リモデル視点】接吻は突然に《1》

 カコイ神(?)は拘束の解けたラクーヌのことを腕を組みながら、ニヤケ面で見つめていた。


 拘束を解くことによって何か活躍することを期待しているのだろう。初対面でもわかるさ。


 あんな玩具を買い与えられたばかりの子供のような無邪気な笑顔を見たら、誰だってね。



「ファル……だったか。邪魔するなら、まずはお前から殺してやる。後悔しても遅いぞ?」


「それはアンタだな。僕一人ではアンタに絶対勝てるとは言えんが、ここにはイディドルもいれば、ラプゥぺもい……ってラプゥぺは……近くにいないな」



 ラプゥぺなら、俺のことを見つけた瞬間……「あわわっ……」と慌てながらこちらにやってきた。


 ……悔しそうでもあるな。


 ご主人様と慕ってくれているからな、ラプゥぺは。そのご主人様の危機に即座に気づけなかったこと、助けられなかったことを悔やんでいるのだろう。


 嬉しいよ。君のおかげで……俺も、俺の横のドルイディもアサも……助かるかもしれない。



「ラプゥぺ、感謝している。気づいてくれてありがとう。助けようとしてくれてありがとう」


「い、いえ……すぐに気づけなくてごめんなさい。僕は貴方の人形である資格などないのかも……」


「今、気づいてこうして助けようとしてくれている。それだけで充分だよ。それに、あんな神々しい目立つ存在がいれば、そちらに目が向いて当然だ」



 もちろん、カコイ神(?)のことを言っている。


 こうして話している間も全く神々しさが衰えていないが、どうなっているんだ。


 多少、光が漏れているが、それでも部屋を覆うほどではないというのに、眩しく感じる。


 あまり、直視したくない。


 この考えは特異……なのかな。どうだろう。



「……ちょっと時間がかかります。すみません」


「気にしなくていいよ、ラプゥぺ」



 俺はラプゥぺにそう言った後、基本的には彼に目を向けつつも、たまにファルの方向を見る。


 耳も……そちらの方に向けている。


 会話をなるべく、拾っておきたくてな。



「……どうした? かかってこい」



 ファルはクイクイと指を動かし、挑発しながら言う。隣には既にイディドルが控えている。


 魔力も溜まっているし、戦闘準備万端。


 ラクーヌは動いていないが、萎縮したか……?



「……待て。今からやるところだ」



 ラクーヌはそう言ってから……何やらブツブツと独り言を口にし始めた。


 それはさっきリュゼルスがカコイ神(?)を呼び出す時に言っていた謎の言語と同様、俺には理解することのできない謎の言語だった。


 リュゼルスと違い、手の形も変えている。あれは何かの魔法を発動させるためのものか……?


 そう思っていたら、彼の体が増えていく。



「……これぞ、分身の術。お前らの前で見せるのは初か」



 なるほど。分身の術……か。


 奴の出身と思われる狐狸の国由来の術……だよな? 確か。ちょっと聞いたことあるな。


 詳しく知らないので説明はできんが。


 じっと見ていると、ラクーヌは今度は懐から謎の黒い玉を五個取り出すと、それを一気に口へと流し込む。


 そんなに一気に飲んだら、喉に詰まらないか?


 その予感は的中。ラクーヌは喉に詰まったようで無様に喉を叩きながら、呻き声を出す。



「ダサっ。それで、いつになったら、動くんだ?」


「今からだ……よっ……!?」


「はいっ。残念。わざわざ待つわけないでしょ」



 動き出そうとしたラクーヌの腹に向かって、ファルが口から出した種子が当たる。


 その後、蔦を巻き付けることで奴のことを引き寄せようとするが、失敗してしまった。


 引き寄せようとした瞬間に消えたんだ。


 今のは分身だった……?


 いや、種子は当たっていたしな。すぐに分身と本体が入れ替わったのだろう。速度が俺も捉えられないほど上がっているから、難しい芸当ではない。



「やらかした。いつの間に移動したんだ……」



 頭をポリポリと掻いて後悔するファルの眼前にいつの間にかラクーヌは接近していた。


 一秒も経過していなかったろう。


 俺ですら、動きを目で捉えられなかった。それほどの速さだったため、反応など出来るはずもなく……


 余裕そうな表情を浮かべていたファルは……俺が磔にされていた壁……そこから人一人分離れたところに叩きつけられてしまった。壁に大きな窪みができる。



「っ……っっ!!」



 イディドルは一瞬ファルの方に気を取られたが、すぐにそんなことをしてる場合じゃないと判断。


 即座に目の前の狸への攻撃に移るが……


 もちろん、今の彼からすればそのような攻撃、あまりにも遅すぎて……掠ることすら……なかった。


 きっと、そよ風のように感じたことだろう。


 それに……速さだけじゃない。筋肉量が見るからに上昇している。殴られたら……無事では済まない。


 多分、さっきのは速度上昇やら筋肉量上昇などの効果を持つ丸薬……なんだろうな。


 飲んだことはないが、丸薬という物自体は過去に読んだ本のおかげで知っているんだよ。



「……はぁー……さすがに疲れるな。だが、お前らをこうして瞬殺出来たから良しとしよう」



 ……イディドルも倒された。まるで歯が立っていなかった。触れることすら……出来ていない。



「……っ……はぁっ」


「さて、残りはあそこの磔野郎共とその拘束を解こうとしている奴らを仕留めれば、終わりだな」


「……させるわけが……ないだろう」



 イディドルはファルと違って壁まで飛ばされず、地面に下半身がめり込むだけで済んでいたため、ボロボロだが……ギリギリ動くその手で奴の足を掴む。


 ……そんなになってまで、動きを阻止しようとしてくれるとは。あの……君がね。嬉しいよ。


 感動した。それだけに……そんな優しい君が傷つけられるのを見てはいられないな。


 俺はラプゥぺのおかげで拘束が解け、彼が持ってきていた道具によって治療も済んだ。


 ……まあ、簡易治療だから完全に治ってないが。


 それでも、動くのは……まあ、できるさ。



「イディドル、離していいよ。俺が相手する」


「いやっ……無理だろう。さすがの君でも……この速すぎる狸の相手をするのは……」


「大丈夫……とは言えないが、君の傷をこれ以上、増やしたくないんだ。離しても、いい」


「口説いてんのかい? はぁ……でも、わかった。離すよ。これでもし、死んだら許さないよ」


「わかっ……」



 手を離された瞬間、駆け出すラクーヌの速さはその場に残像を生んでいた。


 一度のまばたきすらも許されることなく、俺の眼前にラクーヌは現れると、その腹を殴る。


 そして、俺がその痛みに気づくまでの間に押し倒すと、手を高く振り上げた。


 高く振り上げる速度はそれほど早くなかった。それ故に視認することができたのだが……


 振り下ろされる速度は……暴風の如く。


 視認など一切できぬまま……


 ……俺の顔面は真っ赤な血が大量に噴出するほど、豪快に殴られてしまうこととなった。


 もちろん、その前に張った結界など……とっくに破壊されているとも。半壊ではなく、全壊。



「……っ……は……ぁっ……」



 『意識が飛びそうなほどの威力だった』……という感想がまず浮かび、そのすぐ後に『拳に大量の魔力を纏わせていたな』という感想が頭に浮かぶ。



「ふっ……ははっ……」



 こ、これは……結界をしてなかったら、死んでいた。


 それほどに……殺意の高すぎる攻撃。


 飛びそうな意識を何とか世界に繋ぎ止めながら、俺は隣にいる恋人の心配をしようと……


 視線を横に向けたのだが……そこには誰も……



「ははっ、逃げられたか? 大切な存在に」


「……」


「滑稽だな。その顔……目に焼き付けといてや……」



 そう言った瞬間、ラクーヌの顔面に……拳がめり込む。それは俺が殴られたのと同じ箇所……


 そして、ラクーヌと同じ……いや、それ以上に殺意と魔力の込められた……拳による強力な一撃。


 それを見舞ってくれた存在……俺はその人形を視認したおかげで意識が回復するのを感じた。



「ありがとう、ドル……!」



 笑顔でウインクをする俺に……その人形は顔を染めて、恥ずかしそうにしながら……言った。



「私こそ、感謝する。そして、ごめんね」


「えっ、何……っ……がっ……!?」



 驚くべき行為が……目の前で行われる。


 それは、最愛の恋人の……突然の接吻だった。

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