39話【リモデル視点】ラクーヌとカコイ神(?)
降りてきた何かは神々しさを感じるモノの、姿形は完全に人間で……翼なども持っていなかった。
本で読んで知っていた『カコイ神』はそういう存在だと聞いていたから、驚いてしまったよ。
俺はそんな『カコイ神(?)』のことを数秒ほどボーッと見つめてしまったが、すぐにハッと我に返る。
そんなことをしている場合ではないからな。この拘束から逃れるための方法を考えねばならない。
「……リュゼルス、だな。我を呼んだ理由は何だ?」
「カコイ神様。会えて嬉しいですわ」
「我も嬉しいと感じているよ」
「そうですか……ふふ」
「……で、用事は何だ? 用事もないのに、呼び出したわけではあるまい? 用事を早く言え」
「ふふ、わかりました。それでは、話……」
説明しようとしたリュゼルスの口はラクーヌによって塞がれる。
「オラが説明する。リュゼルス様は黙ってろ」
「……ほう。用があるのは貴様か。さっさと言え。こちらも暇というわけではなくてな」
「……そうですか。では、簡潔に。オラは滅亡した狐狸の国の者です。王族人形の心臓を捧げれば願いを叶えてくれるんですよね? オラはその国を再び甦らせてほしいと思っているんですが、叶えられますか?」
敬語、か。意外だな。
王族であるリュゼルスに普通にタメ口だったから、カコイ神(?)にもタメ口で話すと思ってた。
カコイ神(?)は少し無言でラクーヌのことをジロジロと見る。何か興味を引かれる点が……?
どんな考えをしていたのかはわからないが、カコイ神は軽く首を動かした。首肯のつもりか?
「……なるほど、な」
「……叶えて、いただけますか?」
「そうだな。叶えてやる。ただし、まだ……」
「は? まだ? それなら、いつになるというのですか? あまり長くは待てませんよ……?」
このカコイ神扱いされている神々しい奴、何かリュゼルスと通じるところがあるよな。
悠長なところが、特にそっくりだ。
だから、リュゼルスと仲良さそうだったのか。リュゼルスと話している時、ラクーヌと話している時の数倍声音と表情が楽しそうに感じられたしな。
性別はわからんが、声と顔と体格から察するに……恐らく男性だと思われる。
リュゼルスとは恋人に近い……関係だったり……するのか……? いや、違かったら恥ずかしいな。
神……を名乗ったが、もし本当に神なのだとしたら、付き合っているというのは凄すぎるよな。
「……準備しろ。今から三十分間、一回も意識を落とさずいられたら、貴様の願いを叶えてやる」
「……なに? ふざけているんですか?」
「ま、人間の言葉で言うとそうなるかもしれんな。それで……我がふざけることに文句でも?」
「いいえ。ただ、オラが今まで見てきたつまらないと思う人間や人形の特徴に神様ともあろう方が当てはまってしまうのだとわかり、ガッカリしただけです」
「……言うではないか。まあ、でも、貴様が何を言って挑発しようと我の意思は揺るがん。とっとと準備しろ。それとも、願いを叶えてほしくないのか……?」
「……」
「別に我としては構わんぞ? 貴様の願いなど叶えたくもない。心底……どうでもいいからな」
カコイ神(?)は嘲るような視線をラクーヌに向けながら、ため息を吐きつつそう言った。
本当にどうでもいい……そう思っていることが遠くから聞いて二人の顔がよく見えない俺にも伝わる。
ラクーヌはその言葉を聞いて我慢が限界になったのか、殴りかかりそうになる。
当然、それをリュゼルスが止めようとするが……
「……っ……ふーっ……はぁっ」
「……?」
「はぁーっ……はぁ」
そんなことをされるまでもなく、ラクーヌは自分から後退してカコイ神(?)から距離を取った。
顔の赤みが……引き、青筋も……見えなくなる。
どうやら、自制……したようだな。
ラクーヌは額に浮かんでいた汗を拭うと……
「わかりました。今から、三十分間意識を保ってやりますよ。『今から』……ですよね?」
敬意のこもった怖音で……その上、頭を下げながら……そう言った。さっきまでの偉そうな態度が嘘だったかのようだ。それほど、変わったな。
ラクーヌの言葉に納得したのか、カコイ神(?)はうんうんと頷いた後、「そろそろか」と言った。
そろそろとは一体何なのか。何か罠が作動する合図なのか、それとも妖魔人形でも襲いかかってくるのか……何なのかと緊張しながら身構えていると……
地面が唐突に揺れ、何かが迫るのを感じた。
最初はリュゼルスがふざけて、もしくは彼に意識を保たせないように幻覚を見せたのかと思った。
ラクーヌもそう思ったようで、リュゼルスのことをキッと睨むが、知らなかったようでキョトンとした顔で首を横に振っていた。嘘には……見えないな。
「……そうだな。ほら、もう始まっている」
「……っ……ぃぎっ……!?」
なんっ……俺もすぐに気づけなかった!?
ラクーヌの首が……気づいたら、締められている。オブセポゼかと一瞬思ってしまったが……
姿が見えてそれがすぐに……
「ラプゥぺ……来てくれたのか……」
彼だと……わかった。
もしかして、彼の高い隠密能力が役に立ったのか? それにしても、気配なさすぎだろ……!
「……っぐ……ぁっ……」
下に視線を向けてわかった。
あー、穴を掘ってやってきたのか……でも、ラプゥぺに穴掘りができるほど強力な爪はない。
城のどこかにそういうことができる装備でも置いていて、それを使ったとかなのか……?
そう思ってじっくり見ていると、穴の中から何か生き物が……ひょっこりと顔を出してくる。
モグラ……マオルヴルフか……?
……ってちょっと待て。こいつら……もしかして、地下空間で会ったマオとルドルフじゃないか!?
こんなところで再会することになるとは。
「……っ……そぉっ……ぃって……ぁまるかぁ!!」
「残念。終わりだよ」
喋り方はカコイ神(?)っぽさもある。
しかし、彼(?)ではない。ラプゥぺでもない。今のは……なんと一緒に来たファルのものだ。
良かった。やはり、体を取り戻していたか。
確かめなくてもわかる。喋り方もそうだが、表情、声音が本物だと俺に教えてくる。
これでも、それなりに長い付き合いだしな。
遅れてひょこっとイディドルも出てきた。
何かしようとしていたが、二人が首を絞めてラクーヌの意識を奪ってしまったためにキョロキョロしながらどうすべきか、少し迷っている様子だ。
そして、俺……ではなく、リュゼルスのことが目に入ると、彼女に向かって跳躍。
糸を出してその際に捕まえた後……抱きつく。
まさか抱きつくとは思ってなかったから、驚きだったな。
そして、少しジロジロと見た後に額を合わせる。
「なるほど。それが狙いだったか」
どうやら、記憶を交換するつもりだったようだ。
でも、果たして合意なしで記憶交換できるように設定してるのか……? リュゼルスは。
その心配は杞憂だったことが表情でわかる。
「……渡してくれるとは……嬉しいね」
「ええ、構いませんよ」
「……それで、私が貴女を組み伏せているこの状況は幻覚なのか……聞いても構わないかな?」
「……幻覚じゃありません。私は貴方に組み伏せられていますよ。現実に。幻術なんて使っていません」
「へえ、何故に使わないんだい?」
「使わないことを……わたくしが信仰する神様が望んでいるようでしたので、その通りに……」
イディドルは困惑した後にその視線を……
迷わずにカコイ神(?)へと向けた。まあ、そうだよな。見るからに神々しいしわかるわな。
誰のことを神様と言ってるかなど……
「……アンタ……んんっ、失礼。もしも、本当に神様なのだとしたら今のは失礼だった……でしたね。僕はファルナーメって言います。あなたの名前は……?」
ファルは恭しく頭を下げ、カコイ神に対して名を問う。
まだ神なのかどうかは俺と同様に疑っているようだが、もしも本当に神だったら神罰が下るかもしれないし、一応礼儀正しくしたという感じか。
「この国に顕現してる神という時点で理解しろ」
「……なるほど。理解しましたよ。カコイ神ですか」
ファルはうんうんと頷いた後……周りを見渡し……
俺とドルイディとアサが磔になっていることに気づく。『あっ』と言いそうな顔をしていたからな。すぐわかる。さすがに気づくのが遅すぎだろ。
ため息をついて、俺のもとへ向かうファル……
……だが、その足はすぐに止められる。
「カコイ神様! オラの拘束を解いてくれ! それが一つ目の願いです! 出来ますよねぇ!」
「偉そうだな、貴様。何様のつもりだ?」
「ふっ……今はただの狸ですが、いずれは甦った狐狸の国を治める者となる予定ですよ。それより、叶……」
「……貴様は馬鹿か? 我は一回も貴様が意識を落とさなかった場合にのみ願いを叶えると言ったはずだが……その矮小な脳みそには記憶されていなかったか?」
「……っ」
「まあ、良い。我は優しいのでな。きちんと三つ……いや、四つだったな。叶えてやらんことも……ない」
カコイ神(?)がそう言った瞬間にラクーヌの拘束は一瞬でシュルシュルと紐が解けるかのように解けていき……
自由になったラクーヌは笑みを浮かべながら、俺たちのことを見下しつつ、喋り出した。
「他にも色々願いは考えていたんだがな。願い事の一つを消費させたこと……許しはしない」
「……アンタが勝手に言ったんだろ」
ラクーヌのことを再び拘束するため、ファルはもちろん、イディドルも手に魔力を込めて……
かなりの速さで奴へと近寄るのだった。
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