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37話【ドルイディ視点】黒装束と妖魔人形たち

 大広間への道はもう罠など一つもなく、簡単に進んでいくことが出来た。


 たくさん罠が仕掛けられていることを覚悟して走っていったために私は拍子抜けだと感じたし……


 喋ってないからわからないが、リモデルとアサも表情的にきっと同じことを感じていたと思う。



「……」



 大広間に入る前に一応後ろ、左右に何もないことの確認をしてから、一歩踏み出していく。


 この広間は最近はあまり通ることがなかったために、私は少し感動したね。


 何も変えた部分はないと思うのだが、前に見た時より豪華になっているように感じてしまう。


 五十人どは余裕で入れるほどの広さで、天井もファルの土塊人形を六体積み重ねてようやく手が届くと思われるほどに高い。装飾もよくわからないが、とても綺麗で壁の模様も特徴的な色使いで目を引く……


 ここが祭事や特殊な儀式を行う際にしか使われないことが惜しく思われるほどには良し。


 そんな内装を目に焼き付けた後、私とリモデル、アサはその真ん中で椅子を置いて優雅にこちらのことを待っていると思われる二人へと近寄った。


 もちろん、その二人というのは先程追っていた謎の黒装束とリュゼルスの二人だよ。


 ……だが、私とリモデルとアサもさすがに気づいている。ここにはそれ以外にもいることに。


 ルドフィアお姉様とフィアルドお姉様のことじゃないよ。いや、二人もいるんだが……


 私が言っているのはその二人じゃない。


 ……丸みのある天井……その部分に何かが隠れている。それも複数。きっと……妖魔人形の類だろう。


 いざという時に助けてもらえるよう、何かの術で透明にした上で隠しているのだろう。


 よくそんなことをやるものだ。


 というか、透明の術(?)が使えるのならなんでアイツらはさっきそれを使わなかったのか……



「……あー、もしかして、香りや気配を辿れる私たちにはそんなこと無意味だと思ったのか……?」



 ……まあ、なんでもいい。


 妖魔人形が何体いようが、私たちは蹴散らすだけだ。三人もいるんだから、大丈夫だよ。


 体力もまだまだ残っているし……ね。



「ドル。どうしたい? アイツらと()りたいか?」


「え?」


「……俺は君のことを危険な目に遭わせたくない。しかし、後ろで待機することを強要するつもりはないんだ。どうしたいのか……答えてはくれないか?」



 そうか。私は普通に戦うつもりでいたが……


 相手はどんなことをしてくるかわからない謎の黒装束と幻術の使えるリュゼルスだからね。


 戦うのは確かにいつも以上に危険だな。


 ……二人の横で戦いたいという思いはあるが、後ろで静かに応援しながら見守っているべきか……?



「……いや、やらせてよ。貴方が私のことを心配してくれるのと同じくらい、私だって貴方のことを心配しているんだ。支援ぐらいなら……できるしさ」


「……わかった。アサも……いいよな?」


「問答無用だっつーの。一緒にやろうぜェ……」



 アサがそう言ってウインクをすると、リモデルが珍しくムッとしたような表情になる。


 その表情は見た目に合うような子供っぽさを感じ、私は癒されてしまった。


 そして、その表情のまま、彼の頬を軽くつねりながら、小声で何か言う。


 私に聞こえないようにしているようだが、普通に聞こえてしまったよ。ウインクをしようと思ったら彼に先にやられてしまったから不満なんだと。


 ちょっとかわいい理由だったね。


 そんなやり取りを見た後、二人は一瞬だけ抜けた気を取り戻すためか、頬を叩いている。


 私も頬を叩いて気合を入れると、進む。



「……中々こちらに進んで来ないので、何を話しているのかと気になってしまいました。皆さん、どんなお話をしていたのか教えていただけませんか?」


「……また時間稼ぎか? いらないよ。そういうのは本当にいらない。戦うか、ルドフィアさんたちの身柄をこちらに引き渡すか……二択だ。選んでくれ」


「ふふ。そんなの一択に等しいですわ。だって、こんなことをわざわざしておいて、わたくしたちがルドフィアたちのことを引き渡すわけ、ありませんもの」


「だよな。じゃあ、やることになるわけだが……」


「構いませんわ。素手で相手いたします。ねえ、貴方もよろしいですわね? 戦うそうです」



 『貴方』……話しかけたのは隣の黒装束のようだから、『貴方』というのは黒装束のことか。


 やはり、黒装束を着ているのは、正体を隠すためのようだな。だから、名前を明かさないと。



「……おい、リュゼルスゥ……オレらが勝ったら、質問がある。絶ッッッ対に答えろよなァ……?」


「アサですか。はい。構いませんよ。お答えします」



 アサはリュゼルスが頷いたのを見ると、それを鼻で笑ってから風の魔力を手に生成し始めた。


 私は右手に闇属性の魔力……隠している左手に『人形操糸』のための糸の生成を行っている。


 リモデルも私と同じことをやってるね。


 対して相手側である黒装束とリュゼルスは用意した椅子に座ったまま微動だにしない。


 こちらを舐めているとしか思えないね。


 アサはそれが原因か額に青筋を浮かべていたが、意外にもそれだけで怒りの言葉は出てきてない。



「……ッ」



 アサは風属性の魔力を十連続で放った後、それを避けた瞬間の黒装束のことを蹴り飛ばそうとする。


 しかし、それは避けられた上、足を掴まれて振り回され、壁へと投げ飛ばされてしまった。


 その勢いは物凄く、風のような速さで飛んでいき、壁に隕石でも落ちたかのような窪みを作り出した。


 アサはその後、痛みを感じる素振りを見せながらも、窪みから出てきて、壁に叩きつけられた時に服に付着した汚れを払うと、再び近寄っていった。


 しかし、それはまさかの妖魔人形に塞がれる。



「今出てくるのか!?」



 ビックリした。いざという時のためにとっておいているのかと思ったのに、こんなに早く出すとは。


 アサも驚いているようだ。


 ちなみに私たちの前にも妖魔人形は出てきていた。


 故に生成して放った魔法攻撃は全て黒装束やリュゼルスに届かず、妖魔人形へと着弾した。


 仕留められれば、良かったが……今回の妖魔人形は全て重騎士のような重装備で尚且つ今のリモデル(子供っぽ)の身長より大きな盾を装備している。


 それが一体ならいいが、十体も。厳しいな。



「おい! リュゼルス! こんなことすンのかよォ? 卑怯だとは感じなかったッてかァ?」


「妖魔人形に命令をしたのはわたくしの隣にいらっしゃる方です。わたくしは関係ありません」


「……フッ、まァ、何であれ、ぶッ壊してやるだけだから、別に構わねェんだけどよォ……」



 腕が鳴る……そう言うかのようにアサは首を横に曲げてポキポキと鳴らし、拳もポキポキと鳴らす。


 まるで人間楽器……いや、人形楽器である。


 格好をつけすぎだ。いや、まあ、そんなことを言ったら私の恋人のリモデルもよく格好つけるけどね。


 まあ、でも、リモデルは格好いいからいい。


 アサはちなみにその後、足の指も動かすことでポキポキと鳴らしていたよ。楽器になりたいの?



「……ッ……邪魔だよッ!!」



 溜まりに溜まっていたと思う怒りの矛先は思い切り、目の前の妖魔人形へとぶつけられた。


 もちろん、鎧も盾もとても硬く、ビクともしない。


 ……アサは一瞬それを見て悔しそうに顔を歪めるが、諦めることなく蹴り続けていった。


 しかし、妖魔人形がずっと蹴り続けることを許すはずもなく、アサは再び足を掴まれ、壁に飛ばされる。


 ……が、あくまで飛ばされただけだ。


 今回は壁に衝突する前にアサが瞬間的に生成した風の魔力……それによって勢いが最大限殺される。


 その状態でアサはニヤリと笑うと……


 まさかの空中を蹴るという神業を見せ、妖魔人形の頭上をスーっと越えていくのだった。


 さすがのリュゼルスもポカーンとしている。


 そんな隙を見て、今日一番と思われる笑みをアサは浮かべると、再び風属性の魔力を手に生み……


 凄まじい速度で跳躍しながら進む。



「……ッ……!? 避けきれんか……」



 初めて黒装束が口を開いた。


 アサの蹴りが……見事に体に当たっていたのだ。骨が折れる音がして……黒装束の体は吹っ飛ばされる。


 そして、アサと同じように壁にめり込んだ。


 ……今回、奴がアサの攻撃を防げなかったのはきっと、アサが自身の風属性魔力によって加速したこと……


 そして、いつの間に盗ったのかはわからないが、奴の腕には……黒装束が付けていた腕輪があった。


 あれはきっと……速度上昇の腕輪だ。


 ……いや、まあ推測なんだけどね。



「さーて、その顔……見させてもらうぜェ……」



 ……顔、見たかったようだな。


 私とリモデルも見たいと思っていたため、目の前の妖魔人形の相手も忘れずに行いつつ……


 彼が目の前の者の装束を剥がすところを見る。



「……」


「……抵抗しねェのか……いや、出来ねェのか」



 俯く黒装束の顔をアサは何故か一発殴った後、凄まじい速さで剥がし……壁へと放り投げた。


 黒装束がヒラヒラと舞い……


 それが、地面に着いたところで私はその正体が狸であると知ることが出来た。


 妖魔人形ではなかったか。やはり……ね。



「……?」


「どうした? リモデル」


「リュゼルスが……」



 そんなふうに胸を撫で下ろす私たちを見て……


 リュゼルスが笑っていたことを……


 リモデルが私の横で……教えてくれた。



「……ふふ」



 今度は私にも聞こえた。確かに笑っている。


 何のつもりかと思い、私たちは近づこうとするのだが……それは適わず……




 突然に生じた大きな穴に……落下した。

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