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15話【マルア視点】マルアの初めてのお給仕

 わたしの名前は……マルアと、言います。


 人形国の第二王女であらせられるドルイディ様に仕えているメイドで……


 あ、でも……昔から仕えていたわけじゃないんです。仕えるようになったのはごく最近。


 ペルチェ・ダブルという元々ドルイディ様に仕えていた執事の男性に拾われてここで働くことになったんです。


 元が平民だったということもあって、当初は先輩のメイドの方々には嫌われていたのですが、ペルチェ様が何かしてくれたようで今は仲良くできています。



「……ふんふん」



 ちなみに今のわたしはドルイディ様のために淹れたお茶を運んでいるところです。


 彼女の部屋までの距離はあと少し。走ったらいけないので、早歩きで向かっていきます。



「いてて……」



 ちょっと躓きそうになりましたが、大丈夫です。


 靴が壊れていないか、あとメイド服が破けていたり汚れていないかだけ確認をしておきます。


 はぁ……わたしって本当にドジだなぁ。


 軽くため息をついていると、部屋に到着。すーはー、と息を吐きながら、緊張でドキドキする胸を抑える。


 実はお給仕はこれが初めてなんです。彼女には何回か会ったことがありますが……メイドの先輩の方々とは違い、まだまだ仲がいいとは言えない関係だと思います。


 なので、実はこれを機に仲良くなれたらなぁ……なんて思っているんですよね。


 ドキドキが収まったので、胸から手を離すと、わたしは意を決してトントンと扉をノックしました。



「ド、ドルイディ様……っ! あ、あの……えっと……」



 ダメだ。大丈夫だと思ったのに、扉の向こうにドルイディ様がいると思うと緊張して……上手く言葉がっ……


 折角、胸のドキドキを抑えることができたのに……全然ダメだ、わたし。



「はぁ……えっと、何を言えば……っ!?」



 わたしがあたふたと慌てふためていると、後ろから肩を叩かれました。


 優しい叩き方……それだけでわたしはそれが誰によるものかすぐに気づくことができました。



「マルア、肩の力を抜きなさい」


「は、はいっ。ペルチェ様!」


「声が大きいですよ、マルア。それより、姫様を……」



 ペルチェ様が扉を見やった瞬間、ガタッと部屋の中で音がしたように思いました。


 物が落ちた音、にも似ていますが……ドルイディ様が部屋の中で何かを落としたのでしょうか。


 わたしはまだ部屋の中にどんなものがあるか把握できていませんし、音にそれほど詳しいわけではないので、何の音なのかまでは特定できませんね。



「姫様が何かを落としたのでしょうか……」


「そうですね……」


「部屋の中にいることは確定だと思いますが、やけに静かですね……」


「え、元より一人ではそんなに喋る方ではないのでは……?」


「そういうことではありません。あのお方はお一人の際は人形製作かそれに関係する作業に取り組んでいることが多いのです。ここまで、静かなことは少ない」



 あるにはあるんですね……その感じ……


 人形製作ですか……まあ、ここは人形の国、人形国オトノマースですからね。


 国で現在も活躍している素晴らしい自律人形の方々は皆、姫様がお造りになられたとの噂は耳に挟んでいましたが……ペルチェ様が仰るということは本当に……


 わたしがドルイディ様に尊敬の念を抱いていると、ペルチェ様はドアをノックして彼女を呼びました。



「姫様! 中にいらっしゃるのですか? いらっしゃるのなら、一声頂けると助かります!!」



 ペルチェ様はそのように何度か呼びかけましたが、反応は一切なし。


 お眠りになられている可能性も考え、わたしとペルチェ様と交互に何度か呼びかけたりもしてみましたが、効果はなし。


 わたしはともかく、ペルチェ様の声はよく通るのに返事がないということは眠りが深いのでしょうか?


 それとも、居留守? 姫様が? 少ししか会ってないけど、あの人はそのようなことをするのでしょうか。



「居留守の可能性はありますが、普通にいる可能性もゼロではありませんね。少し隙間から覗いてみます」


「は、はいっ」



 わたしはペルチェ様の後ろからこっそり隙間を盗み見てみます。少し、こういうのはいけない気もするのですが、ここでじっとしていてもどうにもなりませんからね。


 隙間から覗く景色には少なくとも、誰もいないようです。人の姿も人形の姿も見えないので。


 きっと奥の方にいらっしゃるんでしょうね。何かがいることは確定でしょ……



「あ、でもっ!! ペルチェ様、鼠とかの可能性もっ!!」


「マルア、少し声が大きいですよ。あと、動く時は慎重に。貴女は現在、給仕の途中なのですからね?」


「は、はい……すみません……」


「いえ、別に。それで、鼠ですか? 鼠はないと思いますね。あれは人形から出る音。ドルイディ様と断定は出来ませんが、少なくとも人形が出したものではあるかと」



 何で判断しているのでしょう……鼠でなくとも、何かそれに類する小動物や魔物の可能性はあるような気がしてしまいます。


 人間とも言わなかったということはその可能性もないということでしょう。なんでわかるんですかね?


 まだ、わたしが色々と未熟だからわからないんでしょう。そこら辺はまだまだ研鑽あるのみですかね……!



「そういう音はここでずっと働いていれば、わかるようになります。なんと言ったってここは人形国なのですから」


「な、なるほど……わかりました……っ!!」



 わたしはまだまだこの国のことも、お姫様であるドルイディ様のこともよく知らない。


 今日を機にもっともっと勉強して……ドルイディ様のメイドとして、恥ずかしくないようになります。



「マルア、もう開けましょう。埒が明かないので」


「は、はい……っ」



 それは果たしていいのかと思いましたが、ここでずっと働いている大先輩のペルチェ様が仰るのならきっと大丈夫なのだと思います。


 信じていきますよ。ちょっと怖いけど……不安だけど。



  「……!」



 心の中で『頑張ろう……』と気合いを入れた後、わたしはペルチェ様と一緒に扉の戸に手をかけます。


 ペルチェ様の上に手を乗せてしまったことで彼の男性らしく大きな手にウットリしてしまいます。


 ……が、ペルチェ様がすぐにじろりと厳しい視線を向けてくださったので、正気に戻ったわたしはパンパンと顔を叩いて更なる気合いを入れておいてから……


 ……扉を開けるのでした。



「……!?」


「……なんてこと……!?」



 部屋自体は何ともありません。事前に聞いた通り、色々と人形製作関連の物がありますが、それらも整えられているので、衝撃することはないです。


 衝撃したのは、この部屋の主であるドルイディ様が……



「こ、こここれは……なな、何が!?」



 床に無表情でただの人形のように倒れていたからです。


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