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34話【ドルイディ視点】それはあの子ではなく……

 結界のせいで派手に転んだ黒装束とリュゼルス……ではなく、妖魔人形はすぐに立ち上がると……


 こちらを見て、派手な舌打ちをした後、何度か結界のことを足で蹴っていった。


 しかし、これはリモデルが創った上級の結界。


 そう簡単には壊れなかったよ。


 だが、奴らもこういう時のために用意していたみたいだね。あれは……爆弾だろうか……?


 三つもある。一つや二つじゃ足りないとの判断か……



「……っっ……!」



 こちらに舌打ちをしながら向かってきた。


 爆発の衝撃を食らわないようにか。


 離れたのはほんの少し。人間二人分の身長ほどの距離。それぐらいなら、爆発の衝撃を受けるのでは……?


 そう思っていたら、すぐに自身の周りに結界を張る。まあ、そりゃあそうするか。


 というか、奴らも結界を張れるのか……


 見た感じ、かなり弱そうな……中級の結界だが、確かに距離があるし結界にヒビが入るだけで、体には何の衝撃も伝わらないだろうね。よくわかってる。


 私たちが近づいてきているのを確認した後、黒装束は妖魔人形の手を引っ張って走っていく。


 物凄い速度だ。かなり速いんだな。



「ドルイディ、あれならまだ追いつける」


「うん。私もそう思ってる」


「当ッたりめェだろが。あの程度の速度、追いつけないわけがない。だろ? イディドル」


「なんで私に振る? まあ、私もそう思うよ」



 なんか、ほんの少ししか二人でいなかったろうに……物凄い二人の距離が縮まってるように感じる。


 もしかして、恋人にならないよね……?


 いや、でも、イディドルはファルのことが好きだし……まあ、そうはならないかな。



「ぼ、僕もそう思います」



 遅れて、ラプゥぺがそう言ってきた。


 ラプゥぺのことを忘れていたわけじゃないんだが、さっきまでずっと黙っていたために、唐突に口を開いたことで私はほんの少しだけ驚いてしまった。



「……っふぅ」



 私たちはそれからすぐに全速力で走る。


 リモデルは一人でも追いつけるだろうが、私たちのことを考えてくれているのか、少し遅いように見える。


 いや、少し顔に曇りがあるようにも感じるし、単純に精神や肉体が疲れているのかもね。



「はいィ! 罠ァ!!」


「いちいち声に出さなくていいよ、アサ」



 アサが走り出してから、床に仕掛けられた罠を壊す度に自慢げにそのことを伝えてくる。


 大声じゃないからまだいいが、それでも鬱陶しいし、イディドルの言う通りやめてほしいね。


 かなり、テンションが高まってるよ。この男……


 はぁ……それにしても、よくこんな短時間でたくさん罠を仕掛けられるものだ。


 ほとんどの罠が見る限りでは逃げながら仕掛けた物だ。仕掛けるのがめちゃくちゃ早いところを見るに、元々何をするにも速い人間(人形)なのだろう。


 あの黒装束も……妖魔人形のどちらもね。



「……一気に距離を離そうと速度を上げたな」


「ほ、本当だね……っ、リモデル……はぁっ……」



 疲れて倒れそうになるが、すぐに私は持ち上げられる。


 驚きと……照れが生まれる。


 驚きは突然に持ち上げられたから生じたものだが……照れは、持ち上げてくれたのがリモデルだから。


 ちなみにアサはともかく、この時に同じく息苦しそうにしていたイディドルも持ち上げられている。


 アサは大丈夫そうだ。まだまだ……


 ラプゥぺも疲れていた様子だが、彼はアサがリモデルの真似をして持ち上げていた。ありがとね。



「……ちょっ……!」



 黒装束に近づいた……目前というところで何者かが現れる。


 あれは……ファル……!?



「うっ!?」


「えっ……僕もっ……!?」



 突如、現れたファル(?)はリモデルからイディドルを奪い、アサからラプゥぺのことを奪うと……


 彼らのことを傍に待機させた木製人形に持たせて、どこかへと走り去っていった。


 あそこは……魔力充填室がある方か!



「ファルは多分、まだオブセポゼに乗っ取られているんだろうな」


「ああ、私もそう思うよ。リモデル」



 すぐに追うつもりでその道を進んでいくが、その途中でたまたまあった部屋から、メイドが出てくる。


 あの部屋は……ディエルドの部屋か。給仕をしていた……という感じなのだろうか……


 なんでこんな時に……? 運が悪いな。



「……あれ? 第二王女……様ですか?」


「よく見たら、貴女は……マルア……か。久々だね」



 マルアとは地下空間での一件以来、全く会っていなかったからね。かなり久々だよ。


 ペルチェから話を聞くことはあったけど。


 見た目は全く変わっていないが……なんか、雰囲気が違う……ように思えてならないな。


 成長したから……ということなのかな。


 いや、なんか違う気がしてならない。なんだ……?



「第二王女様、お久しぶりに会えて嬉しいです。あの……横にいらっしゃる方々は一体……」


「ご、ごめん。マルア。今は私たち、そんな話をしている場合ではないんだ。後で余裕があったら説明するから、今はそこをどいてはもらえないかな?」


「……す、すみません」


「……? いや、わかったなら……どいて?」



 マルアは動こうとしない。


 意味を理解できていない? いや、全く難しいことなど言っていないし、滑舌も悪くはないと思うが……耳に異常がある……なんて馬鹿なことあるわけないか。


 彼女とは特段親しいというわけではないものの、それでも前に見た時とあまりに違いすぎている……


 もしや、妖魔人形か……? いや、人形にしては何というか、人間っぽさも感じてしまう……



「……まあ」



 どっちにしろ、先に行くには倒さないと。


 私はどこうとしないマルアに手を突きつける。


 ちなみにこの時にリモデルとアサも私と同じ行動を立ちはだかるマルアに無言で取っている。



「マルア……もう一度だけ言う。どいて……」


「……」


「私は言ったからね。どうしてもどかないというのなら、無理やりにでも通ってみせる」


「……はぁ。面倒くさい。邪魔すんなよ」


「……! 本性を表したか……!」



 声は変わらないが、口調で心当たりがある。


 こうして本性を表すまでは妖魔人形が化けている可能性を強く考えていたのだが……


 オブセポゼ……奴がファルの体を捨て、彼女の体を乗っ取っていると……そう考えるべきだろう。



「あれ……いや、でもそれならさっきのファルは一体……? あれは妖魔人形だったのか……?」


「そうだろうな、ドル」



 リモデルのその返事を聞いてすぐ思う。奴はいつ、ファルの体を捨てて、マルアを乗っ取ったのか?


 そして、なんで選んだのがマルアなのか……


 物凄い気になってしまう。何があった……?



「貴女はやはり、マルアではなかったんだな。オブセポゼなんだろう……? 違うかい……?」


「……合ってるよ。隠しても意味ないだろうし、答えてやる。その通りだ。だから、どうする?」


「それはその体を取り戻すに決まっている。その体は貴女が好きにしていいものではないんだ」



 メイドも執事も私にとって家族と同じく、大切な存在……そんな存在に手を出すなど許せない。


 ラプゥぺやファルの体だけでは飽き足らず、マルアの体にまで手を出すとはね。


 絶対に取り戻して、もう二度と誰の体も乗っ取ることのできないようにしてあげよう。



「……ッふゥ〜……」


「!?」



 アサが唐突に私たちの横から跳躍。奴に対して飛び蹴りを仕掛けていったからビックリした。


 オブセポゼは寸前で見事に躱したから当たっていなかったが、当たったら吹っ飛ばされていただろう。


 それも、かなりの距離を。


 黒装束たちが設置したと思われる突っ張り棒の罠が少し遠くに見えるが、それにぶつかったかも。



「あっぶな……本っ当に危ないよ。狂犬か……? 飼い主は誰? 躾がなってないだろ……」


「飼い主なんざいねェよ。いたとして、従う気なんざサラサラねェ。それより、その体渡せや……」


「……多分、お前が『アサ』だよね。お前とこの体に関わりはないと思うが、なんで助けたい?」



 アサはそれに鼻で笑った後……



「仲間が助けたい奴はオレも助けておきたい。それだけだ。そんなことよりとっとと渡せや」


「……意味わからないね」



 オブセポゼはそう言ってアサの方へ向かってくる。


 かなりの速さだったが、それでも私は全く焦ることはなかった。


 奴は……周りをあんまり見ていないから。



「……は? ……速っ……!? 前会った時よ……」



 奴がアサの目前まで迫り、その手に込めた魔法をアサに解き放とうとした瞬間……


 リモデルが奴の横に周り、後ろ手で創っていた糸を巻き付け、奴のことを地面に叩きつけた。



「ぐはっ……」



 叩きつけたといっても、弱めたようで床に窪みなどはできていない。


 奴に対する情けがあってそうしたというより、単純に王城の神聖な床に窪みなど創ってはいけない……という配慮だと私は思う。リモデルのことだから。


 私はその後、リモデルの横に立つと、彼と一緒にオブセポゼの体を糸で簀巻き状態にしていった。

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