33話【ドルイディ視点】妖魔人形の変化の術
私は困惑していた。
……ルドフィアお姉様が二体いることは知っていたが、今まで本体だと思っていた方が複製でもう一つが本体だったなんて……衝撃の事実を伝えられたから。
そのことばかりが……頭を巡ってしまう。
頭を突然に鈍器で思い切り、殴られたかのような……衝撃を度合いで表すなら……そうなるね。
「……驚きすぎる」
「あ?」
「いや、気にしないでいい。アサ。前を向け」
声に出てしまった。はぁ……
あの女……偽あ……いや、ルドフィア……お、お姉様は嘘を言っているようには見えなかった。
私が本体だと思っていた複製人形の……フィ、フィアルドお姉様も合っていると言っていたし……
まあ、本当なんだろうけど……完全に信じることは……まだ……出来ないなぁ。
私がよく知っている方が……複製人形だったなど……信じたくない……そんな思いが……消せない。
「……っ……と」
かなりの速さで走っていたため、反応が遅れた。
前に……障害物があったのだ。壁との間に取り付けられた突っ張り棒のような物である。
もうすぐで躓くところだった。危ない。
こんなところに再び罠が仕掛けられているとはね。
これまでの場所に全然罠が設置されていなかったから、もう罠はないものと思っていた。
……無意識的にね。その心理を相手も読んでいたのだろう。リュゼルス、もしくはその仲間が……
ここからは罠が仕掛けられてないといいな。
まあ、そう思っていたら来るかもしれないが。
「……みんな、ルドが部屋に入ったぞ」
そう言ったのはリモデル。
本当だ。部屋に入ったようだね。あれは確かメイドの部屋。中には……気配があるが……
これは……メイドのものではない……?
そこの特定は気配だけでは無理そうだな。ただ、一つしか感じないから一人しかいないだろう。
ああ、もちろんルドフィアの気配を除いてね。
私は迷っている暇などないと考え、即座に部屋へと突入した。
すると、目の前には……リュゼルスがいた。
「いたのか……!」
「……はぁっ……リュ、リュゼルス……わ、私は……貴女の言う通り、ちゃんと……私は心臓を持ってきて……あ、会いに来てあげたわ。これでいいのかしら?」
「……」
「……リュゼルス……? 何を黙っているの?」
話しかけても、リュゼルスは笑っているだけで何も答えようとしない。
精巧に作られた動かない人形……? そう思って近づいた瞬間にキョトンと表情を変え、首を傾げる。
コイツ……動くね……
いや、動いたから人形じゃないということはないね。動く人形ということは十二分にある。
私たちが近づくまでずっと硬直していたわけだし、自律ではなく、誰かが操作している……?
「皆さん、こんにちは。いえ、もう遅いですし……この場合はこんばんは……でしょうか。まあ、いいでしょう。皆さん、遠路はるばるよく来てくれましたね」
「しゃ、喋った!? や、やっぱりリュゼルスなのかしら……? ビ、ビックリした……」
ビックリして心臓を抑えているのはルドフィアお姉様。
やはり、貴女も目の前の存在を人形だと思ったか。
私もそう思っていたから同じだ。ちなみに、その後の驚き様も同じである。
私の心臓もバクバクと鼓動しているとも……
「喋りますとも。わたくしのことを何だと思っていますの? ふふ……もしかして、置物とでも?」
「まあ、そんな感じだわ。話しかけても、あまりに喋らないもの。そりゃ、そう思うわよ」
「……失礼いたしました。少々考えごとをしていまして、反応が遅れてしまっただけなのです」
疑ってしまう。どこか……彼女は違う。
前に見たリュゼルスより、人形的なんだ。彼女も自律人形の中では……かなり人間っぽかった。
……と少なくとも、私は感じているんだ。
それ故、彼女か彼女の仲間が操る人形だと思う。
「リュゼルス、ここに来る道中、罠がいくつか仕掛けられていたのだが、あれは貴女の仕業か……?」
「罠……ああ、用意していた仕掛けですね。ああいうのがあった方が楽しめると思いまして……そうですね。私が設置させていただきました。お気に召しまして?」
私の質問に対して、リュゼルスはそうやって即答する。
仲間のせいにするかとも思ったが、しなかったね。まあ、それほど予想外ではないがね。
だから、今のは別に驚いてはいない。
「……まあ、それなりに楽しめましたわ」
私が言おうとしたことを……ルドフィアお姉様が先に言う。
邪魔したようには感じない。たまたま言おうとしたことが被ったということなのだろうな。
横を見ると、リモデルとイディドル、アサも口を抑えている。ラプゥぺ以外はみんな同じことを言おうとしていたのかもしれないね。面白い偶然だ。
心の中で少し笑うと、リュゼルスの返事を待つ。
「それなら、良かったですわ。あ、そろそろですわ」
「は? 何がよ……?」
「面白いことが始まりますわよ」
リュゼルスはそう言うと、唐突に恍惚そうな笑顔になると「ふっふっふふふふ……」などと気味悪く、笑い始めた。まるで、壊れた人形のように。
そのあまりの気味悪さにドン引きして後退したところで、とんでもないことが起きてしまう。
「なっ……!?」
目の前に降り立った者たちがいた。
黒装束で全身を覆っていて、顔もわからず、それどころか肌の色すら、一切見ることができない。
そんな者たちが一、二、三……十人。
なんなんだ、こいつらも妖魔人形なのか……?
「っ……っわっ」
襲いかかってくる者が二人いたので、私は糸を絡ませると、その二人を上手いこと衝突させる。
衝突させたことによって顔が見える。あれは……執事の姿をしている……が、きっと化けているだけ。
その証拠に、倒れた瞬間に術が解けて元の妖魔人形の姿に戻った。良かった。
この感じだと……他の奴らも妖魔人形なんだろうな。
一体、どれだけ人形を持っているのやら。軍隊を作れるほどにはいるのかもね。鬱陶しい。
「おお、咄嗟にやるじャねェか。第二。というか、ハハッ、オマエら……笑うわ。似てるとこもあンだな」
「……? どういうことかわかるかい? イディドル」
「ああ、多分……私もさっき、襲いかかってきた妖魔人形を貴女と同じように糸を使って衝突させたからさ。そこを見て、似てるとか言ったんじゃないかな……」
「ああ、なるほど。そういうこと……」
まあ、そりゃ、色々なことがあってかけ離れた部分も多いが、イディドルは元は私の複製だからね。似ているところがあるのは普通だ。
……そんなに笑うことか? まあ、笑ってくれても、そこまで不快でないから別にいいが。
その後、アサは私とイディドルの顔を交互に見て、再び笑う。何も言ってないんだが……
もしかして、顔が面白いとか? 失礼だな。
私は少しイディドルと共に顔を歪めながら、また襲いかかってくる妖魔人形を倒していく。
今度は魔法でね。どちらも『強闇刃』だよ。
「三人とも、危ない!」
私とアサ、そしてイディドルの頭に向かって謎の武器が飛ぶ。奇妙な形の小型の剣……だ。
あれは多分……東方の国、ケンヴィナの武器……だよね? 見たことはある。名前は知らない。
リモデルとラプゥぺが協力して落としてくれたため、無事だったが、かなり鋭利で……
その上、大量の魔力を帯びていた。当たっていたら、危なかったかもしれないね。
私とアサとイディドルはそれに感謝をして、残りの妖魔人形のことを倒そうと周りを見る。
「……っ……マジかい」
……しかし、今の隙にどうやら逃げたようだ。
周りには私とアサとイディドル、少し離れたところにリモデルとラプゥぺだけがいた。
どうやら、狙いはルドフィアお姉様とフィアルドお姉様だったようだね。いなくなってしまった。
不覚だった。悔しい。悔しすぎる。
「ドルイディ、まだ遠くじゃない! 諦めるな!」
「え?」
そう言われて開けられた部屋の外を見ると、ルドフィアお姉様とフィアルドのことを抱えた黒装束の男とリュゼルスが。少し遠い場所で倒れている。
「なんであんなところで?」
「俺は部屋に入る前にこういうことがあるんじゃないかと考え、結界を張ったんだ。奴らはそれに勢いよくぶつかり、倒れてしまっただけ。すぐに壊して、逃げられてしまうだろうから、早く追いかけるぞ」
「……本っ当に凄いよ。リモデル」
リモデルは私たちにウインクすると、我先にと黒装束の男たちの方へと駆け出していった。
私たちも全速力で追わないと。
少し息を整えると、私はアサとイディドル、ラプゥぺの三人と顔を見合せた後、走り出す。
「ふふっ。やっぱり、人形だったか」
「だなァ……おかしいと思ッたぜェ……」
私とアサは交互にそう言って笑った。
結界にぶつかって転んだ時に当たりどころが悪かったのか、変化の術みたいなのが解けたようで……
先程のリュゼルスだと思っていた者がリュゼルスを真似ているだけの妖魔人形だとわかったから。
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