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29話【ドルイディ視点】大量の罠と妖魔人形

 アサから渡された飲み物の味は私が大好きな果実……アップラの香りと味がしたよ。


 ファルとの初めてのお茶会で飲んだあの果実茶に似ているよ。こちらも物凄く美味しいと思う。


 あの時に似た多幸感を私に与えてくれる……とても香りのよく、美味しい飲み物であった。


 彼はなんでこれが私の好きな物だとわかった?


 いや、わかったとは限らないか。彼には失礼だが、何となくで渡したとか……そういうことかな。


 私が考えを少し読むためにアサのことを、チラチラと見ていると、彼に睨まれてしまった。



「なんだ? やっぱり、不味かったとかかァ?」


「いや、逆だ。とても美味しかった。こんな美味しい物をどうやって手に入れたのか聞いてもいいか?」


「……わざわざどっかの秘境やら遠い国に行って手に入れたわけじゃねェぜ。別に見えねェだろ?」


「ああ、正直に言わせてもらうと……そうだね」


「これはなァ。前にリュゼルスが飲ませやがった時に意外に美味かったから自分で飲めるようにいくつか保管庫から持ってきてたんだ。好みの味だったかよ?」


「……ああ、だから、気になったんだ。とても美味しい物を飲ませてくれてありがとう」


「……礼はいらねぇよ。第二。まァ、少し嬉しいが」



 アサはそう言うと、少し俯いた。


 表情に変化はない。これは多分、だが……隠してるな。


 ……というか、この感じだとやっぱり私の好みを知っていて渡したという感じじゃなさそうだな。


 でも、たまたま好みの味の飲み物を渡せるというのも運命を感じて中々悪くないか……


 ……って私にはリモデルがいるだろう。


 浮気するなど……してはいけないよ。



「……ドル、アサ、ラプゥペ、イディドル。それより先は進んではいけない。直感でわかる。罠だ」


「……え? 本当に……?」



 よく見たら、床が一部変色している……


 凝視しないとわからないほどではあるがね。その上、魔力の痕跡もある。魔力の罠かな。


 取り敢えず、私たちは糸を天井に貼りつけると、それを使って床を踏まないようにして進む。


 床に仕掛けられている以上、踏まなければ発動するということはないはずだからね。


 ちなみに天井に仕掛けられているかどうかはイディドルが先んじて確認してくれた。助かる。



「……まさか、罠があるとはね。偽姉はあんなことを言っておいて私たちを寄せつける気がないのか?」


「偽姉……? ああ、ルドさんのことか。ドルは彼女のこと、そう呼んでいたんだな。凄い呼び名だ」


「うん」


「……ドル。これ、多分だが、彼女のものではないぞ。アサ、君もそれはそう思っていたよな?」



 リモデルのその問いに、アサは前に一歩踏み出しながら、全く迷わずに頷きを返した。



「じゃあ、誰の物だと思うんだい?」


「……俺はリュゼルスだと考えている。根拠は罠が仕掛けられている床のところ、凝視するとリュゼルスの名前が書いてあるからな。筆跡を知らないから本人でない可能性もあるが、彼女なら書きそうだし……俺は本人だと思うんだ。アサも……同じ理由で思ったよな?」



 アサはリモデルのその言葉に即座に頷く。


 へぇ、本当に凄いな。リモデルも、アサも。


 私は偽姉やリュゼルス、ファルの体を乗っ取っているオブセポゼが強襲してくる可能性の方ばかりを考えていた気がするよ。そちらも考えないとね。


 罠はまだまだ仕掛けられている。リモデルたちはその後にすぐそんなことを言ってきたが……


 私もさすがにそれは既に思っていたよ。


 罠が一つしか仕掛けられていないなど、そんなことがあるわけがない。まだまだあるはずだ。


 ……もし、ないにしてもある可能性がある以上、私たちは今まで以上に慎重に動く必要がある。


 そう思って数歩後、罠発動。


 全員が即座に退避したため、被害はなし。どうやら、槍が壁から飛び出す罠だったようだ。


 槍が一本ならまだしも、人数分飛び出してきたために、かなりヒヤッとさせられてしまった。


 踏んだことにより、発動したというより、特定の場所を越えたことによって発動したのだと思う。


 罠が発動した場所は空気が違い、身体中にピリッと静電気が流れるような感覚もあったからね。



「もっと速い罠が来たら困るね」


「俺たちは罠を張っているから、さっきほどの槍であれば飛んできたとしても大丈夫だが……確かに来てほしくはないな。結界を直す手間が発生するし」



 手間って……そんな簡単に私たちの結界は壊れないと思……いや、確かにこの槍は貫通力が高いな。


 刺さった壁を凝視し、私はそう考え直した。



「霧系の罠なら全然問題ないよね。結界あるし」


「……そうだね。結界があるならそういう系は問題ない。だが、彼女だってそれぐらいわかっているはず。多分そういう罠は仕掛けてないんじゃないかな」


「まあ、そうだよ……ね」


「……テメェら、考えが浅いぜ。結界を貫通してくる霧を噴出されたらどうすんだァ?」


「……貫通、か。そんなものは聞いたことがない。本でも読んだことがないため、思いつかなかった。まあ、でも、そう来たら不味いかもね」



 結界を二重に張ろう……そう思ったところで……


 ……何かが飛んでくる。それは再び槍のような罠かと思ったが、違っていた。


 どうやら、それは……人形。それも前にあった物と同じ……妖魔人形とかいう特殊な人形だ。


 前と同じく……いや、前ほどじゃないな。今回は少ない。それでも、十五体もいるよ。



「悪いな。ドル、ラプゥペ。少し揺れるが、我慢してほしい。数秒の辛抱だ。数秒で……逃れられる」



 リモデルはそう言うと、あっという間に私とラプゥペのことをひょいと持ち上げると……


 イディドルとアサのことを見て、彼らに言う。



「君らは二人で逃げられるか? 申し訳ないが、俺は腕が二つしかなくてな。君らは抱えられない」


「……舐めんなよ。テメェなんぞに助けてもらわんでも、こんな状況ぐらい何とかなるッてェの!!」


「ああ、私もこれは彼と同意見だ。何とかなる。貴方(リモデル)たちは気にせず、逃げてくれ」


「……わかった。二人とも、無事な姿で再会しよう」



 リモデルがそう言った瞬間に……背後に忍び寄る影があった。


 警戒を全くしていなかったわけではない。普段のように警戒していたのにも関わらず、奴らは一瞬……ほんの一瞬でリモデルの背後へと距離を詰めた。


 一瞬、脳裏に『絶望』の二文字が浮かびかけるが……



「……まだ遅いぞ。妖魔人形共」



 リモデルはそんな妖魔人形に一切の動揺を見せることなく、高速で奴らの隙間を抜けると……


 取り敢えず廊下を全力で真っ直ぐ……走り抜けた!


 このまま真っ直ぐ行ったらあるのは……空き部屋か。ルドフィアお姉様の部屋はその部屋の直前の角を曲がって真っ直ぐ進まないといけないんだけど……


 今はまだ三人しかいないし、精神的にも肉体的にも疲れている上、考えもまとまっていない。


 故に一旦、気持ちの整理や落ち着き、イディドルやアサと合流するための作戦を考えるため、お姉様の部屋に行くのは後回しにして、空き部屋に入ろう。


 私がそのことを伝えると……


 彼は無邪気な顔でウインクして、私とラプゥペに「じゃ、そうするよ」と返すのだった。

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