28話【ドルイディ視点】偽姉を追いかけて城へ
……リモデルに彼女、偽姉に対する恋愛感情がないことはわかっている。わかっている……つもり。
だが、彼女がリモデルと話しているところを見て、嫉妬してしまっていた。腹が……立っていた。
胸を見ているところも……性的な視線でないことはわかっていたが、物凄く嫉妬の感情が湧いてきた。
私は胸なんて見られたことないからね。まあ、だからといって今から存分に見られたい……というわけでは別にないのだがね。見られたら……恥ずかしいし。
「ドル……不安か……?」
「あ、うん……じゃなくて、ううん。大丈夫さ」
「そうか。でも、オレには緊張しているように見える。緊張のしすぎは後に疲労を招くぞ」
「……だね。わかった。肩の力を抜くよ」
不安で緊張していると思われたか。
まあ、別にそれでい……いや、良くない……か。
彼にそういう意図がないにしても、他者の胸に視線がいっていたことは事実。
もう、二度とそういうことをさせないようにするため、こちらが嫉妬していることは、リモデルにちゃんと伝わっていた方がいいのではないか……?
考え直した私はリモデルに向け口を開こうとする。
しかし、その直後に偽姉が向かったと思われる城にたどり着いたため、言うことは適わず。
「警備が厳重だな」
「祭が近いからだね。リモデル、前に外壁の煉瓦を弄って通り道を作り、そこから通ったのは覚えてる?」
「ああ、もちろん覚えているさ」
「その時の道を使っていこう。リモデル以外に一応聞くが、そこから通ることに異論はないよね?」
私が尋ねると、皆は一様に異論などないことを口にしてきた。良かったよ。
異論が出る可能性は少しは考えていたからね。
私は右手をリモデルと繋ぎ、左手をラプゥペと繋ぐ。
そして、その真後ろにアサとイディドルを連れ、通り道になる特殊煉瓦がある場所まで歩く。
前に少し、ペルチェらと一緒に改良し、私や一部の認めた者以外は通れないようになっている。
「見た感じ、他の煉瓦と変わんねェなァ。本当にここの煉瓦の一部を押し込んだら、扉になんのかよォ?」
「まあ、変わっていたらここに隠し扉があると、バレてしまうからね。それは当たり前というもの」
イディドルのその言葉とその時の表情にアサは少しムッとしかけたようだ。顔が歪んでいた。
……だが、すぐに怒りを抑えて表情を戻す。
凄いね。前までなら怒っていたはず。
イディドルもその後の言葉が彼の怒りに繋がるかもしれないと考えているのか……
それからは特に何も言わなかった。良し。
私はそれから、みんなのことを見回し、誰一人欠けていないことを確認すると、一つの煉瓦を押し込む。
それが扉化させるための方法だからね。
押し込んですぐ、煉瓦だった物は変形し、ちゃんと三秒以内に扉の形を成していった。
よし、何も異常はないね。入ろう。
「……意外とよく出来てんだなァ」
「だろう? でも、意外は余計だな」
「ああ、それは悪ィな。不思議の館にはありそうでなかった仕掛けだ。こういうのもいいな」
「……? まあ、褒めてくれるのなら嬉しい」
扉にここまで興味を示してくるとは。しかも、ラプゥペではなく、アサが。
一体、何故だろうか。不思議でならないね。
アサが扉を抜けないで突っ立っていたので、私は引っ張ることで内側に引き入れると……
誰も来ていないことをリモデルと一緒にじっくり確認した後、迅速に元の状態に戻していった。
ふぅ。良かったよ。ペルチェみたいに気配なく突然現れる者とかもいるから、かなり警戒した。
「……」
もしかして、今も彼がいるかな……と思って辺りを見たが、さすがに今はいないね。
まあ、いたところで今の彼なら戦闘になることもないし、簡単に入ることを許すだろうから……
別にいてくれても……構わないんだがね。
私はそんなことを思いながら、城の入口に向かってそーっとそーっと進んでいった。
アサが私がどんなことができるのか、聞いてきたので戦闘にて使える技、作るのが得意な料理、作るのが得意な人形などをその道中で教えたりした。
……『人形操技』に関しては教えるか迷ったが、言ってよかったよ。言って嫌悪感を見せることは一切なく、意外と興味深そうに聞いてくれたからね。
「……ん」
そういえば、偽姉のことだが……
彼女は一体どうやって中に……城内に入ったんだろう。あの変形扉は使われた形跡がなかったし……
よじ登った……?
いや、ルドフィアお姉様ならそんなことはしないし、いくら偽物でもそれはないよね……
もしかして、リュゼルスみたいに幻術を使ったとか……? でも、幻術なんて元のルドフィアお姉様は使えなかったよね? 違う……かな。
いや、幻を見せる魔道具の可能性もあるか。
「ドル、そちらは違う道だ」
「あっ、すまない」
ちゃんと周りを見れていなかったため、間違えてプララたちの部屋へと向かってしまっていた。
違うね。今は別にそちらに用事ないし。
……私たちは、偽姉のことを追わないと。
「……」
それにしても、速いものだ。私たちは少し急ぎめで向かっているのにまだ背中すら見えない。
まあ、彼女はきっとルドフィアお姉様の部屋に行くだろうから、場所がわかっている以上、背中なんて見えなくても……別に何の問題もないのだけれど。
「ドル、すまないね。急ぎすぎたか」
「そうだね。少し疲れたから速度落とさせてくれ」
「ああ」
「……そこ、イチャイチャすんなよォ。イライラする」
「悪い。確かにくっつきすぎたね」
無意識にリモデルにくっついていた私は、アサにそう言われたことで恥ずかしいと感じつつ、リモデルから少しだけ離れた。手は離していないよ。
別れたくないからね。前みたいに。
ちなみに、ちゃんとラプゥペとも離れていない。まあ、だからなんだという話ではあるが。
私は頬を叩くことで気合いを入れ直し、恥ずかしさを払い落とすと、ルドフィアお姉様の部屋へと歩く。
「喉が渇いてきた……」
「ッほい。持ってきてやったぜェ」
リモデルが渡そうとする前に、私の手に飲み物を握らせてきた者がいたよ。
……まさかの……アサ。何なんだ、貴方は。
「イチャイチャは阻止させてもらったぜ。リモデル」
「阻止されてしまったか。残念だ」
リモデルは確かに残念そうだ。でも、私もそれと同じくらいに残念で……その上、困惑した。
まあ、困惑していても、飲むんだけどね。
一応、アサへ感謝するためにぺこりと頭を下げておくと、私はグイグイと飲み物を飲んだ。
あ、美味しい。こんな物どこから調達して、今までどこに隠し持っていたんだか。気になるな。
私は妙に自慢げなアサを見て、そう思った。
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