27話【オブセポゼ視点】『カコイ神』
リュゼルス様は何故にオレたちの目的を手伝おうとするのか……その答えは……今、明かされた。
「えっと……もう一回、頼める?」
「聞こえませんでしたの。仕方ありませんわね。もう一回説明いたしますわ。今度こそ、聞き逃すことのないよう、お願いいたしますよ? あ、メモ帳に書き留めるようにしたら覚えておけるかもしれません」
「別にそんなことはしないって。聞こえなかったから聞き直すわけでも、覚えられないほど難しいことを言ったから、聞き直したわけでもない。あまりにおかしなことを言ったから、もう一度聞きたいだけだよ」
「……それは……聞こえなかったというのと何が違うのでしょう? 聞こえなかったのですよね? ちゃんと説明しますよ。わかりやすく、滑舌良く……」
リュゼルス様はそう言うと、全く同じことを宣言通り滑舌良く説明してくれた。
どうやら、聞き間違いではなく、本気でこんなに……おかしな……笑ってしまうようなことを……
言っているんだと、オレも、きっと……ラクーヌも思ったよね。まさか、こんなことを本気で……
……彼女がオレたちを手伝う理由、それは『神様がそうすべきだと言ったから』だそうだ。
くだらないよね。そりゃ、ラクーヌもビックリするよ。あまりにおかしなことを彼女は言った。
それも、更にビックリなのはその『神様』とやらが彼女の出身国であるルィスティヒの神様じゃなくて、オトノマースの神様……『カコイ神』なのだと。
「なんで……アンタは他こ……」
「説明した通りですわよ? 理解できませんでした? 理解力が低いのではありませんか?」
「いやいや、そういうことじゃないよ。理解力低いのはそっちでしょ。リュゼルス様」
「では、どういうことでしょう?」
「ルィスティヒの王族人形を創ったのはカコイ神じゃなくて、カサネ神でしょ? なら、信仰してるのもカサネ神なのが普通。他国の王族人形を創った神を信仰するなんて普通じゃないでしょ。なんで信仰しているのか……その理由をオレは聞かせてもらいたいんですよ」
リュゼルス様は『なるほど』と納得のいった顔でポンと手を叩くと、少し思案した。
言葉を選んでんのかな。選ぶようなこと?
「それはですね。彼女がその言葉によって私を救ってくれた救済主だから、ですわ。簡単でしょう?」
「言葉……? 神の言葉を聞いたってこと?」
「はい。そうですわ。お祈りすれば聞けます。あと、さっき王族人形は神が創ると仰っていましたが、それは間違いです。神様と神様が選出した神の手を持つ人間のお方ですわ。ご存知ではなかったのですね」
「へえ……そんな簡単に聞けるなら助かるなぁ。あと、別に知ってるよ。その人間っつーのはあくまで神の製作補助じゃなかった? わざわざ言わなくていいと思って言わなかっただけ。もしかして、その手伝いをした人間の方もアンタは信仰してるの? 凄いねぇー」
「……」
だんまりか。人間の方も信仰しているのかどうか答えてほしかったが、答えてくれなさそう。
まあ、無理に聞こうとして怒りを買い、酷い目に遭ったら最悪だし……まあ、もう聞かないよ。
「……あ、そういえば、オブセポゼさん。貴方たちはどのような目的でここにいらしたのでしょう? 前にも教えていた抱いたのですが、忘れましたわ」
「……アンタ、オレたちがそれを言ったらここに来るであろう第二王女様たちにそのこと伝えたりしない? ちょっち信用できないというかさ……なんかね」
「あら、信用していただけていなかったとは……」
「さっきまで信用してたんだけどね。今は違う」
「……オブセポゼ、別にいいぞ。言っても」
ラクーヌが唐突に口を開いたよね。
オレのちょうど真後ろから言ってきたっぽい。
「あ、言っちゃう? ラクーヌ」
頷いてきたので、オレは少しだけ迷った後、渋々とだけど、答えることを決める。
ま、知られてもオレ達の力なら問題ないよね。
こちらがどれだけ準備してきたと思ってる。行けるさ。オレなら……いや、オレたちなら。
「わかった。じゃ、言うよ。オレたちはこの国の王族人形の高貴な人工心臓を手に入れ、カコイ神様に捧げることで願いを叶えてもらおうとしている」
この国の王族人形を選ばれし人間と共に生み出した存在であり、彼らや国民が信仰する神……
それが『カコイ神』。そんなカコイ神様に実際に願いを叶えてもらった人間、人形をオレもラクーヌも見てきてね。自分も叶えてもらおうと思った次第。
最初は信じてなかったんだけど、ムキムキになりたいとか金持ちになりたいとか……
すぐになれるもんじゃないでしょ? そんなものに彼らはたった一週間でなっちゃった。
行って帰ってくる時間も含め、一週間で。
城に上手く忍び込んで叶えてもらったんだって。凄いねぇ。奴らの隠密能力もだけど……
城の警備があまりに緩すぎることも……な。
心臓の調達方法に関しては……よく聞けなかった。どいつもこいつもケチなんだよ。まったく。
……まあ、でもみんな叶うって言ってたわけだしさぁ。そりゃ……信じるしかないよねぇ。
「……はい」
「願いに関しては黙っていてもいいよね? オレもラクーヌもそこまでは流石に話せないから」
「構いませんよ。お話しいただきありがとうございました」
「いやいや、満足したなら良かった良かった。それじゃ、オレ……腹減ったし食べ物取ってくる」
「……他人の体でもお腹が空くのですね。不思議ですわ」
「そんなことはないだろう。これが人形ならまだしも、人間の体だしね。そりゃ空くさ」
オレはそう言うと、お腹を擦りながら食材の保管庫に向かった。
この部屋にはないっぽくてわざわざ部屋を出ないといけないのが面倒くさいね。
まあ、といっても三分で着く距離にあるけど。
「ラクーヌは何か食べる?」
「今は腹に何も入れたくない」
「つまり、食べないってことね。了解。じゃ、リュゼルス様は何か食べたいものとかある?」
「いいえ。ありませんわ。お腹は空いておりませんの」
「そ。なら、自分の分だけ持ってくるよ」
オレはそう言うと、手を振りながら退室した。
ラクーヌはともかく、リュゼルス様は腹減ってそうに見えたんだけどな。たまに腹抑えてたし。
もしかして……痩せ我慢だったりするか……?
我慢する理由としては部屋を離れたくないとか……ラクーヌと話したいから……とか……?
わからないが、気になる。
オレは取り敢えずこの体を利用して、木製の人形と土塊人形を生み出すと、そいつらに食材保管庫から食べ物を取ってくるように命令しておいた。
知能はなさそうだったし、たくさん食べ物を持ってくるように、とだけ命令している。
保管庫ごと持ってこないといいけど……
「それより、今は部屋の中を見るか」
そう思って部屋の中を覗くと、リュゼルス様がラクーヌに近寄って何かを言っているのが見えた。
一体、何を話しているのだろう。
「……だ。これでいいか」
「教えていただき、感謝いたします」
どうやら、狐狸の国に関して聞いてきただけっぽいね。
大したことじゃなかった。わざわざ人形創って食材保管庫まで行くようなことではなか……
「……?」
これは……足音か……?
こちらに向かって歩いてきているな……
「……」
誰かは知らないが、メイドや執事だったらまずい。無断で使っているわけだからね。
今までは人払いの道具を使っていたから寄らなかったけど、多分壊れてしまっているね。
扉の隅に置いていた設置型魔道具なんだけど、中の部品が少し飛び出た状態で倒れている。
誰かが歩いている時に間違えて蹴飛ばして壊したのか?
こういうことがあるから、扉の上の方に設置した方がいいってオレ言ったんだけどな。
「……ま、別にいいよ」
……それで、どうしようか。
中のリュゼルス様たちに伝えてもいいけど……
んんー……面倒くせぇ。
折角、能力があるんだ。乗っ取るとしようか。
オレはそう考えると、笑いながら……その足音が聞こえる方向へと向かって駆け抜けていった。
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