14話【リモデル視点】泥棒はマオルヴルフ?
今から行こうとしている場所は誰にも行かせたくない場所ということで、蔦によって隠されている。
隠すために極端にたくさんの蔦に覆われているので、蔦が特に多いと感じた壁に向かえばいい。
あ、でも、蔦が多いと言ったが、これに関しては行ったことのある者でないとあまり違いがわからないと思う。
誰でも違いがわかるのなら、意味がないからな。
「よし、特に変わってないな」
現れたあそこへと通じる道。俺はそこを眠っているドルを背負いながら進んでいく。
何度か迂回する必要はあるが、ちゃんと灯りになる草、灯火草があるので、暗すぎて先が見えないということはない。
灯火草はきちんと固定するため蔦によってぶら下げられているので、通路は蔦だらけ。それを見ながら進んで数分、俺は振り返る。
……はぁ。
「……おい、なんで君も来てるんだよ」
「いいだろ、別に。危害を加える気はないって。てか、気づいていたのな?」
「とっくのとうにな。君の方から声をかけてくるのを待っていたが、中々かけてこないんでな」
なんなんだよ、本当に。
「別にいいだろ、声をかけなくても。勝手に着いてきてるだけなんだよ? 僕はさ」
「まあ、いいんだけど。来ないと思ってたから、来ててビックリしたんだよ。どうしたんだ?」
「いや、まあ久しぶりに行くのもいいかと思って」
「ふーん……」
そんな行って楽しい場所というわけでもないけどな。こいつもそれはわかっていると思うんだけど……
まあ、いい。今から行く場所の管理は元々こいつがやっている。管理人が行っちゃいけないなんて決まりはないからな。
……むしろ、それは普通のことだ。
「……」
見えてきた場所……そこはあそこと俺が呼んだ場所。とある人形を置いている場所、なのだが……
「なん、だと……」
入った瞬間に俺も、ファルもその部屋の状態に驚く。
たくさんの人形のパーツやファルの私物などが入っていた五つの箱は全て倒され、天井に付いていた灯り代わりの光を放つ魔道具は落とされただけでなく、中の魔石が抜き取られていた。
灯火草と違って光属性の最高級の魔石を活用した魔道具なので、金を払ってもいいほどの極上の光が辺りを満たしてくれる。
とても高級で中々手に入ることがないから、この中の魔石は簡単に抜き取れないように結構厳重なロックがかけられていた。取られていることは非常に不思議でならないな。
だが、それ以上にここに誰かが侵入したということの方が不思議で……かつ驚きも大きい。
何故なら、ここに繋がる道は先程通ってきたあの通路しかなく、そこに至るまでの道というのは蔦や土塊人形によっていつでも監視されているからだ。普通なら通れない。
「……っ」
ファルが悔しそうに唇を噛んでいる姿を俺は見る。そりゃそうだな。蔦や土塊人形に任せてばかりではなく、もう少し自分も注意をしておけば、また変わったかもしれな……
「……いや、そうでもないか?」
……そう思ったのは、数歩先に小動物一匹が通れそうなほどの小さな穴を発見したからだ。
それは近づくことでしか発見することの難しいほどの小さな穴。ここから侵入したと考えると、誰も気づかなかったことには納得がいくよ。地下にまで意識を向けることなんてできないし。
「大きさ的に考えると、マオルヴルフか?」
「十中八九、マオルヴルフだろうね」
マオルヴルフとはモグラの魔物。下位種と上位種で、穴の出来に違いがあるというのは有名だな。
「これは上手に見えるし、上位種かもな」
「ああ、それよりリモデル。この感じだと……」
「……あいつは連れ去られているだろうな」
あいつというのは俺が作っている途中で、一時的にこの部屋に置いていたとある人形のことを指している。
ここはその人形の置き場所でもあるのだ。本来は金庫に入れておきたくない頻繁に使用するパーツの予備や、ファルが個人的に気に入ってよく使う私物などを保管する場所なんだけどな。
近々、その人形というのは完成させようと思っていたんだが、完成前に盗まれてしまうというのはショックだ。
「……落ち込んでるけど、まだ盗まれていると決まったわけじゃないだろう。行ってみよう」
とファルが言ってきた。ほぼ確実に盗まれているとは思うが、断言はできないしな。見てみるとするか。
倒れた箱などを部屋の脇に寄せて、その裏にあると思われる人形を見つけようと試みる。
そんな重いわけでもないので、すぐに終わったよ。
「……やっぱり、いないな」
箱の裏は見た。箱の中も見た。
……その他、部屋の何かを隠せそうな場所など全て探したが、その人形はどこにもいなかった。
「……はぁ、どんなマオルヴルフだろうね」
「警戒すべきはマオルヴルフというより、そいつに命令して盗ませたと思われる飼い主の方だろ」
「まあ、そうだね」
マオルヴルフは上位種だろうと下位種だろうと、知能は人間や一般人形などと比べ、低いという。
だから、誰か飼い主がいる可能性は高い。自分で盗むなんてことをマオルヴルフがするとは思えない。
「……これは飼い主を見つけるしかないな」
「ああ、僕も少しイライラしてきた。協力しようか」
俺はファルと共に倒れていた箱や魔石のなくなった魔道具を元の場所に戻すと、ドルのことを背負い直す。
まだしばらくは寝かせてやるつもりだったが、その時の背負い方がよくなかったのか目覚めてしまった。
「……ふ……あれ、リモデル?」
「……起きてしまったか。悪い」
「いや、別に気にしていないさ。それより、ここはどこだい?」
俺は仕方なく、ドルに事情を説明する。
彼女にはできるなら嘘をつきたくないというのもあるし、わざわざ嘘を考えるのも少し面倒くさいと感じたのもあるな。
説明が上手かったかどうかはわからないが、何とか伝わったようでドルは少し頷いて思案した後……
「……わかった。私も探させてくれないか?」
はぁ、不本意だな……
……だが、どうにか行かせないようにしてもドルは行こうとするだろうし、恋人関係である以上、その相手である彼女の意思はできる限り、尊重してやりたい。
俺は少し顔を顰めながらも首肯することで、一緒に行くことに賛成するとファルと共に穴を見下ろした。
「……降りるのか?」
「罠だと思うから、普通に出よう」
どうしても、もう危険な目にはあわせたくない。そんな思いがあっての言葉だ。
理解してくれると嬉しいが……
「……わかった。そうしよう」
笑顔で頷く彼女の笑顔に、俺は釣られて笑う。
一緒にいるファルが不服そうな表情を浮かべてしまうほどには俺と彼女は笑っていたらしい。
ファルがつつきながら、小声で不満を述べてきた時に気づいた。中々見れない顔だよ。
俺はドルの笑顔だけでなく、ファルが不服そうに眉を顰める顔まで見れたことで、それまで起きていた不幸な泥棒事件によって一気に下がっていた気分が戻っていた。
……じゃ、捜索開始だ。絶対に見つけてやる。
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