25話【ドルイディ視点〜アサ視点】アサVS偽姉《2》
風刃がお腹に突き刺さった偽姉は苦悶の表情を浮かびかけるが、私のことを見た直後、笑顔に。
妹の前でそんな恥ずかしい表情を見せたくないということか? もし、そうなら既に恥ずかしいことをしまくっているのだから今更気にすることないのに。
少しだけ右手でお腹を抑えていたが、塞がったらすぐに外し、その右手を腰に向ける。
何を取るのかと思ったら、腰にあった黒い革製の入れ物から、短剣を取り出してきたよ。
まさか、そんな物まで持っていたとは……
「はァ……強そうな武器たくさん持ってていいなァ。オレにも一つくれよ。ルドフィアさんよォ……」
「……貴方に武器なんて渡したら、私にきっと勝ち目はない。渡すわけないでしょ」
「水を得た魚のようになるってかァ?」
「よくそんな言葉知ってるわね。でも、その言葉の使い方間違ってるわよ。ここで使うには適切じゃない。獅子に鰭とかが適切だと思うわよ」
「マジかよォ。もっとちゃんと読めば良かったな」
「……本で得た知識? 私、貴方に本なんて読ませたことなかった気がするんだけど……どういうこと?」
私も驚きだ。こう言っちゃあれだが、一緒にいて本なんて読むタイプに感じられなかったからな。
リモデルとイディドルですら、少し驚いてる様子。表情でわかる。きっと、私と同じ心境だ。
「……リモデルたちが帰って館に閉じ込められてから、少しは学をつけたいと思ってなァ。体を動かした後にリュゼルスの部屋から本をパクって読んでたんだよ。結構、色々な本をな。エルデの使徒の本とかも」
「使徒……そんな本読まなくていいのに。まあ、いいわ。それより、とっとと戦いなんて終わらせましょ」
「自分から仕掛けてきたくせに本当は戦いなんてしたくないってかァ? ふざけるのも大概にしろ」
アサの殺意が更に高まり、気づいたら彼は立ち上がっていた。彼の体はさっき見たが、どこにも自己修復機能がついていない。
それなのに、何事もなかったかのように立ち上がれるということは軽傷だったのかもしれないな。
その後、アサは私でギリギリ追えるほどの高速で、駆けると……いつの間にか手に持っていた短剣を偽姉に向けていた。あんなもの……いつの間に……
偽姉から奪ったのかと思ったが、彼と同じように高速で動く偽姉の手元を凝視したところ、普通に短剣を持っている、新しく出したのか……?
いや、違うな。
私はもう一度、アサに視線を戻し、その短剣を目を細めてきちんと見る。それによってわかった。
アサの短剣は偽姉の短剣を魔力で真似て創った物だ。同じ武器で相手して負かしたい……のかな。
「らえよッ……! 逃げんなッ! おい!!」
「こっちの台詞!! 私はね! 貴方を殺したいとも思ってるけど! 今は心臓が取れればなんでもいいのよ! 別に殺さないからとっとと渡しなさいよ!」
「……やなこった。もしかして、テメェは今、誰かにオレの心臓を持ってこないと殺すとか脅されてんだろォ? テメェに死んでほしいオレからすると好都合だぜェ。やっぱり、渡さねェ。指図なんざ……受けねェ」
「……っ……もう……っ……っ……本っ当に嫌!!!」
偽姉は地団駄を踏みながら、短剣を投擲。
全く相手であるアサのことを見ずに乱暴に投げていたため、ヤケになったのかと思ったが……
……どうやら、さっきと同じようにアサがそれを避けている間に後ろから攻撃するつもりだったようだ。
しかし、それは失敗する。
「……っ……ダメだったか」
「同じ手が二度も通用するかよォ!」
アサは短剣を視線を向けずに左手の人差し指と中指で掴むと、得意げに笑いながらそう言った。
*****
ルドフィア……オレが最も嫌いな女。
奴は唐突にオレの前に姿を現すと、何故か襲いかかってきやがった。壊すつもりなのかと思っていたが、どうやらオレの心臓が目当てのようだ。
何があったか詳しくはわからんが、奴はきっと何者かに文字通り心臓を握られてんだろうなァ。
いい気味だぜ。
一瞬、放置しようかとも考えた。しかし、そんなクソみてぇな考えをすぐにオレは追い払った。
最も恨みを持つ相手が目の前にいるんだ。壊さずになどいられるかよォ。オレが味わってきた過去の苦痛を……こいつに少しでもいいから、味わわせる!
「……っ」
「らァッ……!! ああッらァッ!!!」
短剣をオレは思い切り、振り回していく。
魔力で創っているから、奴の短剣と見た目は同じでも耐久力は全然こっちの方があるんだぜ。
テメェの心臓を奪い取って、壊す前に……その短剣をオレの短剣をぶつけることで壊してやんよォ!
「う……っ……!!」
「押されてんぞォ! 最初の勢いはどうしたよ?」
思ったよりは耐久力がありやがる。
オレの方が速いからなァ。避けきれずに短剣でオレの攻撃を何度か受けてやがんだが……
五回は受けても壊れてねェ。見た目以上に丈夫な短剣みてェだな。ちょっと壊すのが惜しくなる。
まあ、だからと言って壊さないなんて選択肢が生まれることは……もうないんだがなァ!
「割れた……っ……ふざけんな……っ」
「次は取りに行くぜ! 心臓ォ!」
「それは私の台詞!」
お、少しだけ勢いが戻ってきたなァ。それでこそ、やりがいがあるってもんだぜェ……!
壊れた短剣の一部を投げてきやがったから、オレはそれを叩き落とすと、距離を詰めようとする。
……が、距離を取られちまった。手を後ろに回しているが、何かまだ武器でも隠してんのかァ?
「……んッ!! らァッ! ッらァッ!!」
「……」
「……?」
黙ったかと思いきや、ルドフィアは唐突にオレに背を向けて逃げ出しやがった。
万策尽きたってかァ……? だが、そっちは館の方角じゃねェ。一体何を企んでいる……?
……全力で追いかけると、ルドフィアは横にあった路地裏に入りこんでいきやがった。
狭い空間なら倒せるとでも? 甘ェよ!!
「……? ってまさか……おい! 逃げんな!」
攻撃してくるんじゃねェのかよォ!! アイツ、普通に逃げやがった。くっそが……
興醒めだ。どこまでテメェはオレをイラつかせる。
距離は一瞬で離された。腕に速度上昇の腕輪を巻いているのは知っていたが……もしかして、今まで使っていなかったのか? さっきより速ェぞ……?
ただ、全力で走りャあ追いつけんだよなァ。
……オレなら。
まあ、あのリモデルというムカつく人形師……アイツでもきっと、オレのことを離せるだろうが……
……って、なんでオレはルドフィアとの戦闘中にそんなことを……後で考えりャいいことだろうが……
頭を振って、追いかける方に思考を向けようとした瞬間、オレの目の前に何かが飛んできやがった。
「はぁ……はぁ……良かった。上手くいったようね」
ルドフィア……いつの間にこっちにやってきた。逃げたと思ったが……魔法の準備でもしてたか……
オレに放たれたのは……かなり大きく、威力も通常の数倍に高められた『強風刃』だった。
元の『強風刃』はオレの『強風刃』に遠く及ばない威力だった。
しかし、コレはオレの『強風刃』の二倍近くの威力はあんだろうなァ……貫通してやがるし。
「ッそが……! ぶっ壊してやる……ッ!」
睨みながら、言葉を吐く度に同時に血まで口から吐き出せれちまう。厄介な体に創ったもんだ……
変なところをなんで……人間みてェに創ってんだよ。気持ちが悪ィな……ふざけんな……よ……
魔法を放とうと、手に魔力を溜めたところで、オレの胸に本気でルドフィアが手を伸ばした。
オレの胸の中に奴の手が侵入してきやがる。死ぬほど……気持ち悪ィし……その上……
……痛覚が……あるせいで痛む。それ故に苦悶の表情を……不覚にも浮かべちまったが……
それは程なくして……元に戻ったぜ……ェ……
「君とはまだ話したいことがある。ここで壊れてほしくないから、助けさせてもらった」
「……ッ……チッ……ッ……ありがとなァ……」
胸に突っ込まれたルドフィアの手を引き抜いた奴がいる。
リモデル・スキィアクロウ……オレが唯一認めた人形師。前にもオレを負かしやがった輩……
ここで救われるのは癪だが、救われなきャあ心臓取られて、壊されていただろうからなァ……
……仕方なく……仕方なく、感謝……
みてェな、ことを言ってやったよ……ッ……チッ。
「取り敢えず……休んでいてくれ」
「私と戦うつもりかしら? 人形師」
「リモデルだ。そう呼んでくれ。あと、俺は君と戦うつもりはないよ。体力は残しておきたいんでね。俺が君とするつもりなのは対話だ。気になることがあってね」
ムカつく顔を見せんな。
オレは自分よりも遥かに小せェガキ姿のリモデルに軽々と持ち上げられた後……
「……ッ……ッ」
地面を見ながら……思い切り、舌打ちをした。
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