23話【ドルイディ視点】ラプゥペの隠密能力
イディドルはちゃんとファルの部屋にいた。
狸寝入りとやらかとも思ったが、そんなことはなく、ガッツリと眠っていたよ。
近寄っても起きないし、つついても顔を顰めるだけ。口に耳を近づけると、寝息が聞こえてくる。
「……イディドル! そろそろだよ」
「……!!」
「うわあ!? ビックリしたな。いきなり起きるね」
「それはそうだ。だって、私はずっと待っていたのだからな。それで、ファルを助けに行く準備はできたと……そういうことでいいのかな? 三人とも……?」
私とリモデルとアサは同時にその問いに頷いた。
その頷きを見てベッドから降りようとしたイディドルに何故かアサが近づいていった。
何をするつもりかと思ったら、ジロジロと全身を見つめた後、彼女の顔を見ながら口を開いた。
「テメェがオレを治したんだっけかァ?」
「正確には私とラプゥペという人形が、だな。それで、そのことがどうしたというのかな? アサ」
「ほう。オレの名前を知っているんだなァ」
「私は複製人形だからね。それは知っているさ。で、何なのさ。答えないのか?」
「ああ、悪ィ。特になんでもね……いや、あー、礼は言っとくかァ……治してくれてー……ありがとな」
目を逸らしている。
礼を言うのが恥ずかしいことの表れだろう。かわいいところもあるよね。彼。
まあ、表情が全くかわいくないのだけれどね……苦虫を噛み潰したような表情……をしている。
「……どういたしまして。そんなことより、早くどいてくれないか? 私は早くファルのもとに行きたい」
「ファルっていうのが、テメェの恋人かァ……? そこのリモデルのことは好きじゃあねェのかァ?」
「……ああ、リモデルか。かっこいいとは思うし、初対面時より確実に好きにはなっているが、恋愛感情はない。私は……そこのドルイディとは違うんでね」
「ほォ……」
「それで……どけと私は言ったと思うが」
「……そうだったなァ。失念……しちまったよ」
アサはイディドルのことを見つめた後、すぐにベッドから飛び去り、私たちの隣に並んだ。
こいつ……何がしたかったんだろうか。
興味があって質問がしたかったなら、わざわざあんなところで立ち止まらなくても、ファルを助けに行く道中で歩きながら聞けばいいと思うんだが……
彼の考えは読めないが、害意のようなものを表情から……『私は』感じていない。
リモデルは少し怪訝な表情をしていたが、特に何かを言うということもなく、イディドルが寝間着から外出用に用意していた私服に着替えるのを待った。
アサはそれも見るかと思ったが、そこに関しては特に興味があるわけではないようで、視線をキョロキョロと照明や家具、壁や床などに向けていた。
「終わった。行くぞ。貴方たちは当然、準備ができているんだよね? 改めて確認するけど……」
『貴方たち』とは言っているが、視線はアサにだけ向いている。アサが手ぶらであるのを見て、忘れている可能性があると思って、そう言ったのだろう。
だが、アサは「んなこと気にすんな。早く行きたいんじゃねェのかァ? 同じこと聞いてんじゃねェよ」などと返してくる。非常に挑発的に、ね。
その言葉がきっかけで、二人が互いに敵意のようなものをビシバシとぶつけあっていった。
こんな時に喧嘩なんてしないでほしいんだが。
「……はぁーあ」
私が思わずため息をついたことでハッとしたのか二人は物凄く顔をしかめながら、部屋を出た。
もう、無駄な時間を過ごさせるなよ……
それにしても、ラプゥペは一体どこに行ったのだろう。アサと一緒にいるかとも思ったが、いなかったわけだし……ファルの部屋にもいなかった。
もしかして、リモデルたちが『あそこ』と呼んでいたあの部屋か……? ファルの部屋から行ける、この家の最奥。地下空間からの帰宅後、使わなくなった場所。
使わなくなった理由は単純に可哀想だからだね。あそこは埃が溜まりやすく、空気も悪い。
私たちの寝室から遠いから目覚めた時にすぐに会えない。色々と可哀想だと考えた結果、使わなくなった。
でも、どこにもいない以上、そこなのか……?
……と、思っていたのは……十秒前まで。
「ご主人様、もしかしてもう行くところですか?」
「ラプゥペ!」
「はい。ラプゥペです。もうファルさんの救出に向かうということなら、自分も同行させてほしいのですが」
「ちょっと待ってくれ、ラプゥペ。君は今までどこにいたんだ? 香りも気配もなかったぞ?」
「え、ああ……驚かそうと思って、アサさんの部屋の隣の天井に張りついていました。気がついていなかったんですね。僕の隠密能力凄いですか?」
「す……凄い。俺、そんなことができるように君を創ってはいなかったと思うんだが……」
私も同じ考えである。正直、凄い。凄すぎる。
「ああ、えっと……僕って体を乗っ取られていたでしょう? その時に体が変化したんじゃないかなって……あの……わからないですけどね? 推測です」
「そうだろうな。それ以外考えられない。ラプゥペ、君は自身のその高い隠密能力、どう思ってる?」
「……えっと、まあ……良かったと、思ってます。ご主人様たちを思惑通り驚かせられましたし」
本人形が気に入っているなら別にいい。そう思ったのかリモデルはその答えを聞いた後に笑顔に。
「そうか。俺は自分の人形の優秀なところを見れて嬉しい。それで、君は……どうしたい? やっぱり、今も俺たちに着いていきたいと……そう思ってるか?」
「……はい。今でも……ダメだと仰いますか?」
「……相手は強い。つまり、かなり危険なんだ。正直、俺は君を連れて行きたくない。でも、三つ約束してくれるのなら……連れていくこともやぶさかではない」
「三つ……?」
「ああ、一つ、俺たちから離れないこと。二つ、相手には乗っ取りの能力を持つ奴がいることは君も知っていると思うが、そいつには近寄るな。理由はわかるな?」
ラプゥペはそれに即座に頷いた。
「乗っ取られるから……ですね?」
「ああ、その通りだ。それで、三つ目。これが終わったら……君の体を少し見せてくれないか……?」
「え……?」
そのラプゥペの驚きの声はまるで、私の心の声を代弁したかのような声であった。
まさかの言葉……え、まあ悪いわけじゃないが。
ラプゥペは少し恥ずかしそうに頬を染めた後、「いいですよ。ご主人様になら」と答えた。
そのかわいい姿を見て、私の頬も染まっていく。
「……すまん。性的なことをするつもりはない。体内の部品などを……少し見せてほしい、というだけだ」
「……あ……そ、そうなんですね。なる、ほど」
それから、恥ずかしさのせいと思われる五秒ほどの硬直の後、私たちは家の入口に向かって歩く。
横を見たら、イディドルの頬も少し赤らんでいるように見えた。やはり、貴女も同じだったか。
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