20話【ドルイディ視点】アサの質問と頼みごと
アサの解呪は簡単に終了した。
道具の使い方は頭に入っているのだ。以前に私の製作者が同じ状態になった時にその製作者によって、脳内にその情報を入れられていたのだ。助かるね。
ちなみに折角、呪いの進行を遅らせる薬を買ったために解呪の道具を使う前にそれを飲ませた……
……のだが、すぐに解呪が終わってしまったために、あんまり意味がなかったな。
使わないで、とっておくべきだったかも。
同じことを思ったのか、リモデルが私の解呪が終わって少しした後にそのことを言ってきたよ。
「……ッ……あァ……なんつーかよォ……感謝してるぜェ。リモデルと……第二。テメェらには」
「素直に感謝してくれて嬉しいよ。アサ」
「へッ……」
「そうだ。アサ。俺は君に聞きたいことがある」
「……聞きたいことだァ……? 気持ち悪ィなァ。一体なんだよ。何かしてほしいことでもあんのか?」
アサは露骨に嫌そうな顔をしながら、そう言った。
「……なんで君は、あの草むらであんな酷い状態で放置されていたんだ? 一体何があったんだ?」
「あァ……そういう質問かよォ……なら、答えてやる」
……それで答えるかと思ったら、アサは突然に無表情になると、リモデルへと詰め寄っていき……
「……が、その代わり、オレがそれに答えたら、テメェもオレの質問に答えろ。あと、オレがそれを答えたことを決してルドフィアやリュゼルスに伝えるな。その二つが答えてやる条件だ。絶対に破るなよォ?」
と言い放つ。どうしても、聞きたいことがあるようだな。声音の力強さからそれが伝わる。
「君が、俺に質問……? わかった。答えるよ。リュゼルスたちにもそのことを伝えないと約束する」
「それなら良し」
……それだけでいいのだな。もっと何か了承しにくい条件を出してくるかと思っていたのでね。
じっと話を聞こうとしていると、アサの視線が私にも向いた。
えっと……口パクしてきたな。うーん……? 『さっき言ったことはテメェもちゃんと守れよ。忘れんじゃねぇぞォ。他人事じゃねェからなァ……』?
な、るほど……わかった。
私は首を何度も下げることにより、それが伝わっていることを示す。
それによって、アサは舌打ちをした後に納得したのかリモデルに視線を戻し、話を再開する。
「……じゃ、話をしてやるよォ。ちゃんと聞けよォ?」
「あぁ、じっくりと聞かせてもらう」
リモデルはそう返すと、アサの隣に座った。
「……リュゼルスの奴が面白いことがあるから、と言って外に出て買い物をしたら、その帰りに唐突に襲われたンだよ。あのよくわからねェ人形によォ……」
「よくわからない人形ね。うーんと……それは妖魔人形か? 腕がたくさんついている妖魔人形が、君を助けようとした時に襲いかかってきたんだよ」
「あァ、それだァ! 間違いねェ! テメェらもオレの意識がない時にアレに襲われてたってのかよ!」
胸ぐらを掴みそうなほどの迫力と共にリモデルに詰め寄ったが、ただ気分が高まっただけのようで……
詰め寄った後にハッとすると、すぐにベッドに座り直した。ちょっとかわいいな。こいつ。
「……なんで襲われたんだろうな」
「オレも知りてェよ。だが、一緒にいたリュゼルスの奴が何かをしたんだろうなァ。アイツ、ぜってぇに許さねェ。次に会ったらァ……どうしてやろうかァ……」
口から息を漏らし、獣のように歯を剥き出しにして憎々しげな表情で上を見る。
私に向けられた殺気ではないが、あまりに強い殺気であるために冷や汗が少し出てしまったね。
リモデルも、少し冷や汗が出ていた。今のは凄かったし、さすがにリモデルも冷や汗をかくか。
「……ありがとうな。答えてくれて」
「大したことじゃねェ。そんじゃ、オレの質問時間だ。きっちんと答えてもらっからなァ?」
「ああ、構わない。すぐにしてくれ」
「……テメェらはなんでオレのことを見つけた?」
「ファルという同居人が連れ去られてな。救出するために街を捜し回っていたら、偶然に君を発見したんだ」
ファルのことはアサは知らない。
それ故に首を傾げてきたので、リモデルと私は協力してファルという人物の情報。
そして、昨夜に起きたことを簡単且つわかりやすく、説明していった。五分ほどで説明終了。
「ほォ。まァ、いいわ。信じてやるよ。それで、質問はまだまだあるんだが、いいかよォ?」
「おいおい。あと、何回する気なんだ?」
「……一回じゃ、済まねぇなァ」
「そんなに答えるなんて言ってないぞ」
「一回で質問が終わるとも……オレは言ってねェよなァ」
よくも、そんな屁理屈が出るものだ。
こいつ、きっと自分がリモデルに同じことを言われたとしたら、怒ると思うよ。
はぁ、口を挟みたいけど、リモデルが別にいいと制止してくるからね。我慢するよ。仕方なく。
「……わかった。じゃあ、答えるさ」
「リモデル。テメェはなんで、ガキの姿になってる。ガキになる薬でもリュゼルスに作らせたか?」
「……っ……そういう質問かよ。予想外だな」
私も予想外だった。それ故、顔に驚きが出る。
鏡に自分の顔が反射しているのがたまたま見えたために、自分が如何に驚いてるかわかったんだ。
「リュゼルスによるもの、というのは間違いじゃないが、俺は望んでこの姿になったんじゃない。リュゼルスが館から出る前に渡した箱、それを間違って開けてしまった結果、こうなってしまったんだ」
「ハッハッハァ! 馬鹿かよ。開けちゃいけねェとか、念を押されてなかったのかァ?」
「押されていたよ。でも、まあ色々あってね。開けられてしまったんだよ。笑ってくれていい」
「ちょっ、アサ。箱はリモデルが間違って開けたわけじゃなくて、近くにいたファルやイディ……」
「ドル、別にいい。庇う必要はない」
私の口に指を置いて、続きの言葉を出させてくれない。
なんでだ? それぐらい訂正してもいいだろう。
「……まァ、いい。笑って悪かったな。なんか色々あったんだろ。それで、三個目の質問……いくぜ?」
「ああ、いってくれ」
リモデルがそう言うと、アサは頭を掻く。
そこまでなら普通だったが、掻いてすぐに何かに気づいたのか、五秒ほど驚き顔で停止する。
そして、五秒後に私とリモデルの視線が刺さっているのを見ると、口を開いてきた。
「……悪ィ。これ、質問じゃねェ。頼み……だな」
「……? まあ、いい。言ってみろよ」
「テメェのさっきのファルとやらの説明に出てきた『ミツケラレーダー』を使わせてくれ。それがあれば、オレのことを妖魔人形とやらに襲わせた犯人……そいつを突き止めることができるはずだからなァ……」
「……なに? なんでそう思った……?」
私もリモデルと同じことを思っていた。
リモデルの問いへの答えを待っていると、アサはニヤリと笑って、自分の頭から毛を一本抜き取る。
一体何をしているのかと思って呆れながら見てしまったが、私のその顔は毛の根元についている丸い物体を見た時に……元の真顔へと戻っていった。
アサがその丸い物体をリモデルに見せると、リモデルはそれをじっくりと見ながら、言った。
「これは一体……」
「何かはわからねェ。今しがた、頭が痒くて掻いていたら見つけたばかりでなァ。しかし、わからずとも香りが付着しているから、突き止めるのには使えるはずだァ。違うか? リモデルと……あと、第二王女」
「なるほど。違くないよ。突き止めるのは確かに使えると思うし、使わせてもらうことにする」
リモデルが受け止ろうとすると、アサはその物体を唐突に握り潰した。
そして、握り潰してぺしゃんこになった丸い物体を渡してきた。
いきなりのことだったので、ビックリはしたが……どんな意図でこんなことをやったのか……
それにはすぐに気づくことができた。
これは盗聴器、もしくは奴らが彼の居場所を知るためにつけていた魔道具の可能性が高い。
どちらであっても、こちらの情報があちら側に知られてしまう事態に陥る。それを避けたくて……
先に壊しておいた……ということだろう。
「……渡してくれ」
「あァ。別に壊れていても問題ないよなァ?」
「問題ないよ。全然ね」
聞かないところを見ると、リモデルも私と同じような考えに至ったのだろうか。
そのまま、リモデルはそれを少し見つめて危険性が無いことを確認すると、『ミツケラレーダー』の中に入れていった。小さいが故に入れやすかったね。
入れて一秒も経たずに、位置情報は出てきた。
どうやら、奴らはオトノマースの王城の中にいるようだ。
どうやって入ったのかは知らないが、王城の中なら問題ない。私が元々暮らしていた場所だし。
それに、リモデルとアサという優れた運動能力を持っている二人がいることも自信に繋がる。
きちんと作戦を立てれば、捕まえられるね。
私は『ミツケラレーダー』を握りしめると、リモデルとアサと共にイディドルを呼びに行った。
少しでも面白いと思ったら、広告下の評価ボタン(☆☆☆☆☆)のクリックをお願いします。
ブックマークもしていただけると作者は嬉しいです。




