17話【リモデル視点】妖魔人形の邪魔《2》
妖魔人形の一体が抱きついてきた。
当然、求愛行動などではなく、拘束するためだろう。
近くでドルも同じく拘束されたようだ。俺より少し後に拘束されたようだが、すぐ教えてくれた。
「イディドル! そちらは大丈夫か!?」
「……」
「イディドル! 聞こえてるなら返事をしてくれ!」
気配、らしきものは感じるんだが、声が聞こえない。
これでも耳を澄ませているのにな。俺の耳が悪くなっているのか、口を封じられていて上手く声を出せないのか、気絶などでそもそも聞こえていないとか?
なんであれ、心配だ。気配のある方向に行かねば。
「リモデル、私は今助かった。気にしないで」
「ああ!」
俺はそう言ってくれたドルイディの声が聞こえる方向に振り返ってウインクをすると、イディドルの気配の方向を再び見つめ、全速力でそこへと向かった。
念の為、強めの結界を全身にきちんと張っているよ。どんな危険がやってくるかわからんしな。
今も散布されているのか段々と濃くなっている霧をかき分けて、俺は突き進んでいった。
だが、俺が近づいた瞬間に気配が凄い速度で離れていく。俺のことが敵だとでも思ったのか……?
それとも、よく見えなかったが、何かに引き寄せられたとか? わからないが、心配だから追う。
「イディドル! 逃げているのか!?」
「……」
幻術を見せられていて、実はこの先にいるのはイディドルじゃないという可能性もあるのか……?
くっ……色々な可能性が浮かんでくるな。
「……この霧……邪魔すぎる」
魔力を使うのはもったいないということで使用を避けていたが、風属性の魔法で払うしかないか。
俺は手に力を込め、大量の『強風刃』を辺りに放った。
風属性の上級魔法で、その上に二十枚は放った。そのおかげで霧を払うことに成功し、辺りにいた絡繰人形も殲滅することに成功していた。
「ドル、無事か!?」
近くにいないことはわかっていたが、一応尋ねる。
すると、ドルイディは元気な声で「ああ、心配いらないよ!」と声をかけてくれた。
その方向を向くと、痺れ状態によってあまり動けない状態でありながらも、そのことを身振り手振りによって必死に伝えようとするドルイディがいた。
「いや、本当に君が無事でいてくれて良かった」
「私もだ。リモデル」
そう言って笑うドルの顔からは疲れも感じ取れた。
ドルは今、薬を持っていないことがポケットの膨らみのなさからわかる。俺の薬を渡すとしよう。
麻痺治しに関しては持ち合わせがないからすぐは無理だが、疲労はそれですぐに回復してくれよ。
「あ、ありがとう……」
「気にすることはないさ。それより、ドル」
「……?」
「……君、アサはどこにいるかわかるか……?」
見た時からずっと気づいていた。いないことには。
聞くのが遅れてしまったがな。
「……それが、私もわからないんだ。抱えていたはずなのに、いつの間にかいなくなっていて……一瞬妖魔人形の攻撃で意識を失いかけたから、そのせいで気づけなかったのかもしれない。不覚だったよ。申し訳ない」
「いや、別に大丈夫さ。あんな大量の人形を霧の中で相手することは難しいからね。仕方ないことさ」
「……そうかい? でも、悔しいな」
「ああ、俺も悔しい。だから、見つけよう。ファルだけじゃなく、いなくなったイディドルとアサも」
ドルの頷く姿を見ると、俺は彼女の腰と背中に手を入れ、優しく抱き上げた。
傷は見たところないが、これ以上無理してほしくなくてな。
ドルは一瞬「自分で歩……」と言いかけたが、気が変わったのか、すぐに「なんでもない」と言い直した。
「……実はイディドルがアサを連れ去っていて、二人とも今頃リモデルの家でゆっくりしていたりして……」
「……」
「たら、良かった……と思ってる。リモデルは?」
「俺も思うよ。一回、家に戻るか? どうやら、動きまくっているうちに家に近づいていたようだからな」
近いとは言っても、まあ五分ぐらいはかかるが、魔力はともかく、体力はまだ少し残っている。
五分ほどで着ける距離なら、問題はないさ。
俺は息を吸って家の方向を見やると、ドルに負担をかけない程度に速く、家に向かって走る。
さっきの霧で驚いた人間が落としたのか、それとも妖魔人形が故意に俺たちの邪魔をするために落としたのかは不明なのだが、食べ物や子供のおもちゃなどが地面に落ちていたため、それを避けて進んだりした。
「……ふぅ」
まあ、問題はそれくらいなもので、今度は何かが襲ってくる……ということはなかったため、俺とドルは五分で家に着くことができたよ。良かった。本当に。
嘆息した後、二人で顔を見合せ、部屋の中の気配などを探っていくと……警戒心をきちんと持ったまま、部屋の取っ手に手をかけ、思い切り開いた……!
中に侵入者がいて、罠などがあったら大変。ないことを祈っていたが……
……うん。良かったよ。見る限りでは、ない!
入って結界を張ったままの手で壁を触ったり床を踏んだりもしたが、罠の発動は感じられなかった。
「あ、ご主人様!」
「ラプゥぺ! ……と、イディドルとアサもいるな。良かった。やはり、先に帰っていたんだな」
「ああ、先に帰らせてもらった」
「なんで俺の声に応じなかったんだ? 聞こえなかったか?」
「霧のせいなのだろう。そもそも聞こえなかったが、それを抜きにしても絡繰人形によって口を塞がれることが多かったから、応じることはできなかったね」
「そうか。よく逃れられたな。さすがだよ」
「褒めはいらないよ。何故だか照れる」
少しだけ顔を赤くして俯くイディドルを見て、俺も釣られて恥ずかしくなってしまった。
きっと、顔も赤くなっていることだろう。
まさか、イディドルにこんなことを言われるとはな。思っていなかったよ。全くね。
ドルのことも見たが、彼女も俯いていた。
何なら、近くにいたラプゥぺまで俯いている。意識のある者はみんな恥ずかしがっているな。
「……イディドル、それで連れ帰ったアサの修理は……まだ終わってなさそうだな」
「ああ。だが、順調だ。ラプゥぺが手伝ってくれていることもあり、そんなに時間はかからない」
「麻痺治しは済んだか?」
「済んでいないね。家にはなかったと思うし、私たちが治している間に買ってきてくれないか?」
俺がウインクした後に頷くと、イディドルは軽く嘆息した後に……さりげなく、笑ってみせた。
「イディドル、あんなに反対してたのに、アサのことを治そうとしてくれてありがとうな。感謝してる」
「……別にいい。私もなんだかんだ言って放っておけなかっただけなんだ。それより、早く買ってきてくれ」
イディドルのその言葉を聞いてすぐに、俺とドルイディは家の外に再び出るのだった。
ドルイディも麻痺状態だったから休んでもらおうかと思ったが、軽い麻痺だからもう問題ないらしく、本人の強い希望によって一緒に向かうことになった。
「リモデル。本当に大丈夫だからね?」
「そうか……でも、まあ、あまり無理するなよ?」
アサのことだが、彼は麻痺治しの他に少し呪いもかかっていたことが近くで見たことにより、わかった。
ゆっくりと進行しているようだから、今なら解呪用の道具を買うことでどうにかなるだろう。
俺はそれも薬の後に購入すると決めると、ドルイディに案内されながら、ここ(家)から三分ほどで着く場所にある薬屋に向かうことになるのであった。
少しでも面白いと思ったら、広告下の評価ボタン(☆☆☆☆☆)のクリックをお願いします。
ブックマークもしていただけると作者は嬉しいです。




