13話【リモデル視点】茶葉を譲ってほしい
俺はファルによって、椅子に座らされると奴が用意した茶の容れ物に手をつける。
……確か、ティーカップというものだったか。
飲むことで何かあったら困る。毒なんか最悪だ。そのため、口をつけるフリだけしておくさ。
「……」
「……」
沈黙状態。ファルは蔦の方をチラチラと見ながら、何やら思案しているようだ。
俺から喋るべきだな。
俺はドルイディの安否確認のため、軽く扉の方を見やると、ティーカップをもう一度傾けた後に一言。
「土塊人形を捨てろとは言わない。だが、ちゃんとしつけて二度とドルにあんなことをしないようにしておけ。もしくは近づけるな。絶対にな」
「それを誓えば、お前は許すのかい?」
「ああ、ひとまずはな。嫌いなのは変わりないが」
「そうかいそうかい。じゃあ、近づけないようにする」
予想外だな。普通に前者を選ぶものと思っていたが……
「何故だ?」
「お前が言ったんだろう。土塊人形がなんで暴走したのか原因を探すより、ドルに近づけない方が簡単だ」
「……まあ、ドルに危険が及ばない選択であるのならいい。言った通り、許すさ」
こいつはさすがにここまでして嘘をつくような奴とは思わない。それなりに話したことのある相手だからな。仲良くなかろうとそれぐらいはわかっているよ。
ファルの顔を軽く見ながら、俺は再びティーカップを持ち上げる。そろそろ減らないと違和感があるため、もし毒があっても体に影響がなさそうなぐらいは飲もうと思う。
「……リモデル、さっきから飲んでるフリしてるだろ」
「……っ」
「バレてるから。あのさ、言っておくけど、そんな毒とか仕込んだりなんてしないし。普通に飲んでよ」
毒が入っていると思っていたのが、飲まない第一の理由ではある。
……だがしかし、実際に毒が入っていようが入っていまいが、飲み干すのには抵抗がある。
ガッツリ茶を飲むことでこいつの茶会に参加してやっているという気分が強まるからだね……
俺は少し考えた後、ため息をつきながらも飲む。飲まないとイラつく視線が今後も向けられるだろうから。
口に近づけるごとに当たる湯気が毒霧のように感じられてしまうが、それを無視して俺は口に液体を流し込む。
「……っ!?」
仕込まれていないにしても、あまり良い物ではないと思っていた。
しかし、その印象はティーカップの液体が喉を通り過ぎた時には変化しきっていたように思う。
だって……美味しかったから。
「……意外と美味しかった?」
「ああ、正直美味いよ。偽るつもりはない。悪かったな」
「いや、いい」
「これをドルも飲んだのか?」
ファルは首肯する。
……そうか。これを飲んだのか。
瞬間に俺はドルの飲んでいる姿を幻視する。
そして、目の前の幻の彼女がティーカップを傾けた時……嫉妬の感情が少しだけ湧き出てきた。
茶に身を震わせる彼女に、幻とはいえ美しさを覚える。その姿を見たいとも、その姿を近くで見ていたと思われるファルにも嫉妬するが、俺はその感情を発露しない。
「あのさ、ファル」
これは質問だ。
だが、嫉妬が故の物ではなく、愛故の物だから、嫉妬の感情なんかが少しでも滲まないように……言う。
「……このお茶の茶葉、俺に譲ってくれ」
「……っ……ふふっ……ぐっ」
「……何がおかしい? この野郎」
「すっ……ごめん、ごめん……少しばかり、いや結構意外なことを口にしたから、思わず笑っちゃったよ。えっと、茶葉か。いいよ。彼女に出したいんだろう?」
「ああ、そうだ」
「わかった。なら、彼女を絶対に喜ばせるんだよ? それが条件だ。同じお茶でも雰囲気や心の状況次第でただの液体……もしくは怒りの起爆剤になりうるからね」
怒りの起爆剤か。俺が茶をそんなものにしてしまう可能性など低いとは思うが、まあ気に留めておこう。
彼女を絶対に怒らせたくないという思いはあるからな。喜ばせたいという思いも、同時に。
俺が体を前に乗り出して待っていると、ファルは立ち上がり、部屋の奥の方に向かっていく。
意外だな。こいつのことだから、蔦や土塊人形にすぐに頼ると思っていたが……
そう思われることを見越してやったんじゃないか……とも思うけど、まあ好印象だよ。
「ありがとう」
「うん、満足したならいい」
ファルが丁寧にも紙袋に入れてきて渡してきたので、俺はそれを受け取って礼を言った。
ここに来るまではこんなことになると思っていなかったよ。ずっと口論するつもりだったしな。
……ドル、連れてくるべきか?
いや、あいつはまだだな。それより、土塊人形も持ってこよう。あれも待機させてるんだ。
「ファル、ちょっと待ってろ」
「……? ああ」
俺は部屋から出て、不完全な土塊人形を持ってくるとそれをファルに手渡した。
否、手渡そうとした。さすがに重すぎるために手放していたよ。
その後の土塊人形はファルと蔦と他の土塊人形が協力して部屋の端に追いやっていた。
最初からそうしろって? なんか、そうする気は起きなかったんだよね。あ、でもそれだけじゃなく、あいつがどうやって運ぶか見たかったというのもあるよ。
運ぶ時は苦笑いしていたよ。まあ、これに関しては予想通りだったかな。俺でもそうなる。
「残りのパーツは?」
「金庫」
「了解……まあ、いいよ」
ファルはため息をついた後、それ以上追及することはしなかった。
怒りがないわけではないが、今からまた口論をするのは面倒くさかったというだけだろうな。
それなら、わかるよ。俺もだから。
「じゃあ、これからどうする? 君は」
「僕は何も。ここでダラダラしてるだけだよ。お前はどうするのさ。ドルイディと何かするわけ?」
「……いや、まあ決めてないが……決めてないが……」
頭の中で何かしておきたいことがないか考える。
折角、この部屋に来たわけだからな。何かここでしかできない特別なことでもしたいと思ったんだよな。
茶会をやったって? あれだけじゃまだ、な……
「あ、そうだ」
「なんだよ?」
「俺はドルと一緒にあそこに行く。いいよな?」
「あそこ、ねぇ……まぁ、いいよ。許す」
許可取る必要なんて別にないけどな。一応、この部屋から行ける場所だから取っときたかったんだよ。
俺は一旦部屋から出て、ドルを背負ってくると彼女と共に部屋の最奥へと向かっていった。
少しでも面白いと思ったら、広告下の評価ボタン(☆☆☆☆☆)のクリックをお願いします。
ブックマークもしていただけると作者は嬉しいです。