14話【ドルイディ視点】『ミツケラレーダー(改)』《1》
入室した瞬間に……プララの寝顔が目に入った。
私はそれを見て『かわいい』と思いながら、ラッシュが用意してくれた椅子に座った。
もちろん、私だけでなく、リモデルもイディドルも。
「三人とも、ご飯はもう食べているの?」
「あ、食べてきたよ」
「それなら、良かったのだよ」
「じゃあ、早速用件を……」
「ん? ちょっと待つのだよ。ねーたんもぼくもなーんにもご飯を食べてないのだよ。起きたばっかだし」
ご飯を食べていない……?
「えっ、ご飯って朝ご飯かな? 昼ご飯?」
「どっちも食べていないのだよー。ずっと寝てたし」
「そ、そうか……」
きっと怠けていたわけではない。よく見たら、どちらも目の下に隈があるからな。
徹夜で何かしらを作っていたのだろう。何かはわからないが、大変だったのだろうな。
「食べるのは別に構わないが、話は聞いてもらっていいかな? 私たちは用事があるからここに来たんだ」
「了解なのだよ。飲んだり、食べたり、ねーたんのお世話をしながら、話を聞かせていただくのだよ」
ラッシュはそう言うと、欠伸をしながら、同じように欠伸をするプララの体を揺すって起こしていく。
やっと、体を起こしたプララは目を擦りながら、ラッシュに抱きついていた。
何故に抱きついたのだろうね。わからない。
しばらく見つめていると、プララは再び欠伸。それが終わると、まばたきを何度かした後にこちらを見る。
「あれ……? なんか第二王女様がいるように見えるのですよ。まだ夢を見ている感じなのです……?」
「あ、今いることに気づいたのか……」
「喋ったのです。すごいのです」
「そりゃ、喋るのだよ。ねーたん。目の前にいるのは本物の第二王女様なのだから」
「プララ。ちなみに私以外にも人と人形はいるからね。リモデルとイディドルって言うんだが……」
私はそう言って二人のことを手で示してみせた。
プララは軽く首を傾げ、目を擦りながらじーっとリモデルとイディドルに視線を向けていた。
リモデルはともかく、イディドルに関しては特によく見ていたね。私と外見がそっくりだから?
怪訝そうな目でイディドルを見た後、私にまで視線を向けると、話しかけてきた。
「えっと、失礼なのですが、第二王女様の本物は……」
「ああ、私で合ってるよ」
私は手を挙げてそう答える。
すると、「んー、まあ嘘をついてなさそうな顔をしていますし、信じるのです」と言ってニッコリと笑うと、近くの机の方までトタトタと歩いていった。
「複製人形なのですよね?」
「そ、その通りだ……」
そんなふうに信じてもいいのか? まあ、信じてもらえるのはありがたいから、いいんだけどね。
机まで行って何をするのかと思って様子を見ていたら、プララはそこに置いてあった謎の縦に長い透明の容器(瓶?)を手に取っていた。
少し振っていたのだが、その際にピチョピチョと内部から音が聞こえたために、中には液体が入っていると思われる。ふむ、水筒といったところかな。
中に充分な液体が入っているとわかったのだろう。更に笑みを強くすると、容器の蓋を開け、内部の何やら不気味な緑色の液体を体内へと流し込んだ。
「なんだ、それは……?」
思わず、声に出てしまった。水が入っていると思ったら、緑色の不気味な液体が入っていたわけだからね。かなり驚いてしまったんだよ。
どんな液体なのかは知らないが、見た目だけで言うなら、私には毒にしか見えなかったよ。
隣のリモデルも引いているのがわかる。きっと、彼も私と同じような考えであったはずだ。
プララは少し、首を傾げた後に私の視線が容器に向いていることに気づいたようだ。
『なるほど』とでも言うような顔で口を開いた。
「これは『すごすご瓶』っていって、中に液体を入れて蓋を閉じれば、その液体の品質をずーっと保持できるのですよ。温度も変わらなかったりするのです。だから、お湯を入れたりもよくしているのですよ」
「へえ、それは確かに便利な瓶だ。一つ欲しいものだ。まあ、でもそれはそれとして……」
『私が聞いたのはその瓶のことではない』と続けようとしたが、プララが「いいですよね! お気に入りなのです!」と興奮気味に言ったために言えなくなる。
しまったな。『なんだ、それは……?』などという曖昧な尋ね方をするべきではなかったよ。面倒くさい。
「……えっと、プララちゃん。ちょっといいかな?」
「ん……? なんなのです?」
「ドルイディは瓶のことじゃなく、その中身のことを尋ねていたんだよ。一体、あの緑の液体はなんだったのかな? 俺も知りたくてね。教えてほしい」
リモデル。助け舟を出してくれてありがとう……
私はリモデルの手を握って感謝の想いを伝えながら、彼のことを見つめ続けた。
「ああ、なるほど。そういうことなのですね。じゃあ、その解説はラッシュに譲ってあげるのですよ」
あ、面倒くさくなったな。
私はわかる。一瞬見せた表情で読み取れたのだ。
前の私ならこのように簡単に表情で読み取るなんてことはできなかったから、進歩と言えるね。
「これはただの……いや、少し効き目が強いだけの栄養剤なのだよ。第二王女様たちにもあげるのだよ」
ラッシュはそう言うと、トテトテと歩いていくと、その先にあった保管庫と思われるところから瓶を三つ取り出し、再びトテトテと走り、持ってきた。
それを受け取り、ポケットに仕舞うと、私は『ようやく話せる』と思いながら、口を開いた。
「それじゃあ、用件を話したいのだが、構わないね?」
プララとラッシュはそれを見て、頷いた。
しかし、それから何かを話すことはなく、何故か一目散に食材保管庫の方へと歩いていった。
食材保管庫に向かっていて、尚且つ口元からはヨダレが垂れかけている。
十中八九、食べ物を取りに行っている。
……そこまでお腹が空いていたのだな。貴女たちは。
「プララ、ラッシュ。私たちは貴女たち二人にとある人物……いや生物二匹を捜すための道具を造ってもらいたいと考えている。『ミツケラレーダー』のような」
「おうう?」
『道具?』と尋ねたのだろうな。
私が頷くと、プララは喉に詰まったのか苦しそうにしながら、ラッシュに泣きつき始めた。
確かに返事は早くほしかったが、そんなになるぐらいならラッシュに返事を任せても良かったのに。
ラッシュは話せそうだからね。すぐに食べ終わっていたから。
プララは食べるのに時間のかかる爆弾のような大きさのパンの塊だったが、ラッシュは長方形の箱に詰められた野菜炒めのようなものを食べていたんだ。
非常に健康的そうで良い食事である。
「そうだ。昨日、私たちの家にそいつらがやってきてね。ファルが連れ去られてしまったんだ。絶対に救出するためにも、道具を造ってもらいたいんだ」
「……なーるほど……なのだよ。それで、見つけるのに必要な物持ってきた? 名前と顔だけで何かを捜すのは無理なのだよ。香りが染みついた手布とか、ない?」
言われると思っていた。
「もちろん、ちゃんと持ってきている」
私はそう言うと、壁に立てかけたオブセポゼの身代わり人形を取りに行こうとする。
「あれ?」
壁に立てかけておいたはずなのに、消えている。
そう思ったら、リモデルの陰で倒れているオブセポゼの身代わり人形を発見した。
なんで移動しているんだ……?
不思議に思いながら、リモデルとイディドルを見ると、イディドルが申し訳なさそうに言った。
「私が倒してしまったんだ。悪かった」
「いや、別に大丈夫だ。気にすることはない」
……良かった。もしかして、身代わり人形が自律的に動き出したのかと思った。
ヒヤヒヤして汗が少し垂れてきていたので、私はそれをリモデルから渡されたて布で拭くと……
オブセポゼの身代わり人形を抱いて、プララとラッシュの目の前へと置きに行った。
「これは奴らが落としていった身代わり目的の複製人形だ。これを使って捜すための道具を造ってくれ」
プララとラッシュは私が机に置いた身代わり人形を怖がりながら少し見た後、近くの壁に立てかけてあった細長い工具を手に取って軽くオブセポゼをつつく。
動き出したら嫌だからね。意識がないかどうか、確かめるためにやっているのだと思われる。
「プララ、ラッシュ。大丈夫だ。俺が透明の薄くて硬い糸でそいつを縛っている。もしも、意識があったとしても、君らに危害が加えられることはないはずだ。安心してもらっていいよ。言うのが遅れて悪かった」
「わ、わかったのだよ。それじゃあ、ねーたんと一緒に造るのだよ。ご飯食べながらだけど、『ミツケラレーダー』をちょっと改良すればいいだけだから、すぐ終わるのだよ。そこの椅子でゆっくり休んでて」
「うん、了解。三人で座って待っているよ」
ラッシュの目が真剣なものに。寝ぼけていたプララの目もすっかり開いているよ。
これは期待できそうだ。
私はプララとラッシュが改良のために工具を出す姿を見ながら、三人で椅子に座った。
「……ドルイディ、リモデル。私は今、少しソワソワしているかもしれないが、あまり気にしないでくれ」
「あ、ああ……」
イディドルは確かに言う通り、ソワソワしていた。
この感じ……きっと、ファルのことが心配で、それによりソワソワしてしまっているのだと思われる。
彼女のためにも、『ミツケラレーダー』の改良が済んだら、すぐに捜しに行かないといけないな。
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