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13話【ドルイディ視点】プララとラッシュに会いに行こう

 リモデルとラプゥぺの話し合いが終わるまで、私は少しだけイディドルと会話することにした。



「イディドル、貴女は何もされていないんだよね?」


「大丈夫だ。自身で確かめている。問題はない。ドルイディこそ、昨夜にあいつらに何かを仕込まれてはいないか? 確認してないならした方がいいと思うが」


「ああ、それなら、リモデルが大丈夫だと言っていた」


「リモデルに確かめさせたのかい?」


「いや、知らないうちに確かめてくれていたようだ。入眠から一時間後ぐらいに一度目が覚めてしまってね。その時にたまたまリモデルも起きていたんだが、私のことが心配で体をもう一度見てくれていたらしい」


「へえ、いい恋人だね。リモデルは」


「そうだろう? 素晴らしい恋人に出会えて良かった」



 そう思いながら、部屋の中を見つめると、話が終わったのかリモデルは外に出てきた。



「リモデル、結局……どうなったんだい?」


「ラプゥぺは中にいるよ。留守番させるつもりだ。あの子は俺が創った自慢の人形。頭がいいし、きっとわかってくれると思う。気にしなくて大丈夫だ」


「そうか。それなら、良かった」



 危険な目には私も遭わせたくないと強く思っていた。それ故に留守番してくれるのは助かるよ。


 家が誰もいない状態になるのも困るしね。そういう意味でも彼は留守番してくれていた方がいい。


 そんなわけで、私たちは道中で軽く話をしながら街を歩き、無事にオトノマースの王城に到着する。


 何かに途中で襲われることを考え、辺りを見渡したりしたが、全く来なくて拍子抜けだった。


 まあ、いいことなんだが……ね。



「リモデル、ここはいい庭園だろう?」


「ああ、本当にな。こういうところで茶会を開いたら、きっと楽しいものになるのだろう。想像できる」


「うん。絶対に楽しいものになるだろう。というか、実際にここで茶会を開く者はいたよ」


「へえ。妹や弟か……?」


「そうだね。私は誘われなかったから、その様子を見ていないけど、兄の話などを聞いて知ってるんだ」



 ちなみに盗み聞きではない。たまたま通りがかった時に聞こえてきた会話によって知ったんだよ。


 兄の方から話してきたこともあったっけ。



「兄というと……第一王子か?」


「そうだね。第二王子だとは思わなかった? 第二王子ってあのディエルドだよ? 話好きな印象はリモデルを持っていたよね。なんで第一王子だと思った?」


「ディエルドだとも思ったが……今回は違うんじゃないかと思っただけだ。勘だが、合っててよかった」


「リモデルは本当に勘がいいね。凄いよ」



 ディエルドは城内をよく歩いているからね。そういう情報は確かに彼もたくさん得ているだろう。


 でも、よく教えてくれるのは第一王子であるギュフィアお兄様だ。彼はそういうことを教えたがる人形でね。


 ディエルドと違い、単純に知識をつけてほしいから教えてくれるんだそうだ。前に言っていた。


 そのおかげで得られた知識も多く、ディエルドと違ってきちんと尊敬の念を抱くことができている。


 非常に優秀な自律人形だよ。彼は。


 ……っと、彼のことを考えていたら、柱にぶつかりそうになってしまった。


 リモデルが手を引いてくれなかったら、確実にぶつかっていた。結界があるから、ぶつかっても大丈夫とはいえ、不用心だった。気をつけねばな。



「あ、ドル!」


「なんだい? リモデル」


「これって前に教えてくれた花じゃないか?」



 リモデルが指し示す場所には淡い青紫色の花……アガプンスが一輪咲いていた。


 見事な大きさと美しさ……他の花も十分に大きく、且つ美しく育っているというのに……


 それらよりも圧倒的に目立っている。


 『あの綺麗な花』という抽象的な言い方で言われても、どの花のことを指しているのかわかる。



「ああ、そうだよ。正解だ」


「やっぱりな。どれも美しいが、その中でも特に目を引くし、綺麗な大輪の青紫色の花だからな」


「うん」


「本物をこうして目にできて、嬉しいよ。君と共に」


「そんなによく思ってくれているのなら、諸々の用事が終わった後にまた二人で見に来ようね」


「そうだな。そうしたいよ」



 ウインクしてから、彼は笑顔でそう言った。私もウインクをして、笑みを浮かべようとしたら……


 その横で冷ややかな視線が飛んでくるのを感じ、横目でその視線の主のことを見やる。


 まあ、一人しかいないよね。イディドルだ。


 すっかり存在を失念し、置いてけぼりにしていたからね。不満が爆発してしまうのも仕方がない。



「……確かに綺麗な花だが、今はそれを見るより優先すべきことがある。早く行こう。ドルイディ、リモデル」


「そうだね。申し訳なかった」


「俺こそ悪かった。それでは、行こうか。城へ」



 さすがに目指す場所まで失念してはいない。


 向かうはプララとラッシュの部屋。あのディエルドのように回り道や時間稼ぎなどは一切せず、真っ直ぐに私たちは部屋へと向かったので、すぐに到着。


 部屋の中に二人がいるのか先に知るために私は扉に耳をくっつける。


 すると、中から子供の欠伸の声が二つ。小さいが、これは間違いない。プララとラッシュだね。


 私はそれがわかって、安心した上でノック。



「プララ、ラッシュ。私だ。ドルイディだ。中に入れてもらってもいいかな? 用事があるんだ」


「……む……にゃ」


「……ねーたん、誰か来たのだよ」



 ちゃんと内容は聞こえてなかったようだな。私が来たということをわかってない様子だ。


 でも、誰か来たということがわかったならいい。



「……ラッシュ! 私だ、ドルイディだ。開けてほしい」



 少し大きめの声で部屋の中に呼びかけると、「ふぁっ」という女の子の声が聞こえてきた。


 まあ、プララだろうね。今の声で起きたんだろう。



「あ、第二王女様っぽいのだよ」


「……んー」


「ねーたん、起きるのだよ!」



 ラッシュが頑張って起こしているのが伝わってくる。わざわざ起こさなくても別にいいんだがな。



「ラッシュ、プララのことは起こさなくても構わない。取り敢えず、扉を開けてはもらえないか?」


「わかったのだよ! ただ、ちょっと顔を見せてほしいのだよ。入れるのはその後決めるのだよ」


「……? ……ん……あ、そういうことか。私が本物のドルイディであるのか疑っているんだな。わかった。それなら、じっくりと見てもらっても構わないよ」



 私は扉に顔を近づけて、ラッシュが出てくるのを待つ。


 二分もすると、扉の隙間からかわいい男の子の目が見えた。ラッシュが隙間からこちらを見ているんだ。


 十秒ほどじっくりと見ると、私の他にリモデルたちがいることに気づき、誰なのかと質問してきた。



「この人が私の恋人、リモデル。そして、私そっくりなこの人形がイディドルだ。二人とも怪しくない」



 リモデルは今は子供の姿。それ故か……リモデルのことをラッシュは再び十秒間、じっくりと見つめる。


 強い……疑いの目で。


 まあ、そうなるよね。子供の姿になってしまったということ、説明していなかったからね。


 これは、説明しないとダメかもしれないね……


 そう思って私が口を開こうとしたところで、ラッシュは口を開いてこう言ってきた。



「……わかったのだよ。じゃあ、三人とも、入っていいのだよ。ちょっと散らかってるし、ねーたんはまだ寝たままだけど、気にしないでくれると嬉しいのだよ」



 笑顔のまま、扉を開いた。


 あれ、もう警戒していない様子だな。良かった。これなら、説明をしなくても良さそうだな。



「……じゃあ、リモデル、イディドル。入ろう」



 私は頷く二人と手を繋いで、部屋の扉を通った。


 ……もちろん、近くにファルたちの偽物が潜伏している可能性を考え、周りを見渡した後にね。

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