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12話【リモデル視点】ラプゥぺのお願い

 ……それにしても、朝ご飯にシチューか。


 悪くはないが、何故なのか気になる。


 朝ご飯の定番ではないし、作るのにも、食べるのにも非常に時間がかかってしまう。


 こんな急いでいる状況下で作るものでも食べるものでもない気がするのだが、本当に何故なのか。


 これで卵焼きや目玉焼きなら、定番の料理であるゆえ、このような疑問は浮かばなかったろう。



「……リモデル」


「準備できたか? ドル」


「うん。私はできた。リモデルは?」


「ああ、俺もできたよ」



 笑いながら、頷く。ウインクも忘れず。



「何か考えてる様子だったけど、何か思い出した? それとも、ファルを救うための名案でも思いついた?」


「……ごめん。どちらでもないわ。さっきの朝ご飯のことだよ。なんでシチューだったのかなって思って」


「ああ、そういうことね。確かに、なんでだろうね」



 ドルイディも同じように疑問に思っていたようだ。



「あ、そんなに真剣に考えなくていいぞ」


「そう?」


「ああ」


「リモデルの言う通りだ。深い理由はない」



 食器の片付け、洗い物、準備……全てを終わらせ、涼しい顔でやってきたイディドルはそう言った。


 問い返すように俺とドルがその顔を見つめると……


 イディドルは答えるつもりのようで、話し出す。



「シチューにした理由はね。ファルが昨日作ってくれた物もシチューだったからだ。彼が作ってくれたシチューとどちらが美味しいか、知りたくてね」


「それで、どうだったんだ?」



 俺が尋ねると、イディドルは意外そうにモゾモゾとすると、少し考えた後に言った。



「私としては……美味しく出来てはいたが、まだファルが作るものには少し及んでいないと感じた」



 へぇ。あいつって見ない間にそんなに料理が上手くなっていたんだな。全く知らなんだよ。


 ドルイディも「へぇ……」と呟いていた。同じか。



「それで、イディドル。もう行けるか?」


「ああ、うん。行けるとも。逆に聞くが、貴方たち二人も完全に準備が出来ているんだろうね? 後で忘れ物があって騒いでも戻れないと思うぞ」


「何度も確認したから問題ないさ」


「私もだ。それじゃ、行こう。リモデル、イディドル」



 作戦会議は食べ終わった直後に済ませたので、問題なし。


 行う作戦名は名付けて『プララとラッシュに捜索用魔道具作ってもらおう作戦』。そのままな作戦名。


 ちなみにこれはドルイディとイディドルの二人が名付け親であり、作戦の発案者でもある。


 プララとラッシュというのは俺はちゃんと話したことがないが、凄い技術を持った子供らしい。


 ドルイディから教えてもらってはいたが、イディドルの口から名前が出るまで、その存在をすっかり忘れてしまっていた。二人(プララたち)には申し訳ないな。


 俺も魔道具を作れないことはないが、プララとラッシュの方が話を聞くだに技術は高いと考え、少し情けなくはあるが、頼るということにしたのだ。


 本業が人形師ということもあって、人形製作ばかりやっていたが、今後……質の高く、有用性のある魔道具を創れるよう、二人が創る姿をよく観察しようと思う。



「よし」



 俺は荷物を背負うと、入口に向かった。


 ちなみに荷物には、もしもの時のための金と回復薬がここにいる人数(三)+(ファル)×二個入っている。


 あまり大荷物になると、捜索が長引いた時や偽ファルが逃走した場合に追うのが大変になるからね。


 ドルイディも同じ荷物である。


 ちなみにイディドルは金だけ持っている。薬はそれだけあれば、十分とのことらしいね。


 俺は扉に手をかけて、開けようとするが……



「ん……? ドル……じゃないな」



 なんで止めようとするのか……? 止めたのは誰だ。


 そう思って振り返ると、驚きの人物……いや、人形がいた。俺が創り出した人形で、昨夜までずっとオブセポゼに体を乗っ取られていた悲しき人形でもある。


 もちろん、ラプゥぺのことだ。起きていたのか。


 ラプゥぺは連れていけない。そう思い、部屋に食べ物と書き置きを置き、鍵をかけておいたんだが……


 出られてしまっていたか。残念だ。



「ラプゥぺ……どうやって出たんだ?」


「えっと……扉、閉まってませんでしたよ?」


「……え? いや、俺はちゃんと……」


「鍵はかかってましたが、扉がきちんと閉まっていなかったので普通に……出られました。えっと……失礼だと思うのですが、確認はきちんとした方がいいかと」


「そ、そうだったか……すまなかった。気をつける」



 恥ずかしい……まさか、ちゃんと閉まってなかったとは。


 俺は思わず、顔を赤くしてラプゥぺに背を向けた。ドルイディたちに見られたくない思いもあったため、顔を一瞬だけ片手で覆うと、それから五秒停止。


 顔の赤みが引いていくのを……静かに待った。待とうと……した。


 だが、その時間が無駄だと思ったのかイディドルは遠慮などなく、普通に口を開いていく



「リモデル、恥ずかしがるのはいいが、外に出よう」


「……っ……あ、ああ……そうだな。わかった」


「ご主人様、ちょっと待ってください!」


「……ラプゥぺ……もしかして、君……俺たちに着いていきたいと言うつもりじゃ……ないよな?」



 顔の赤みが引いてきた気がするので、俺は片手を下げた後にラプゥぺの顔を見ながら、尋ねる。


 ちなみにドルイディとイディドルには先に外に出てもらった。ソワソワしていたからな。



「そ、その通りです……! 僕も……ご主人様たちに同行させてください。お願いします……!」



 ペコリと頭を下げて、お願いするラプゥぺの姿はとても可愛く見えた。自分の創った人形だしな。


 でも、可愛い姿を見せてくれたから、特別に連れて行ってあげようかな……とはならない。


 俺が連れていかせたくないのは、意地悪をしているからでも、可愛い姿を引き出したかったからでもなく……彼の体を再び乗っ取らせたくないからだ。


 怖い。また乗っ取られてしまうかと思うとな。


 それに、そちらに気が取られて何かミスも起こすかも。とにかく、連れていく気は一切ない。



「ラプゥぺ、わかってほしい。君が乗っ取られる姿を俺はもう見たくないんだよ。留守番しててくれ」


「……」


「いや、本当に申し訳ないけどな。今度、何もない時に一緒に外を散歩でもしような。ラプゥぺ」



 俺はそう言うと、落ち込むラプゥぺを見て、胸を痛めながらも家の扉を閉めるのだった。

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