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11話【リモデル視点】イディドルのお願い

 ふ……あ……よく寝た……な。


 昨日は色々なことがあったが、取り敢えずドルイディとラプゥぺが無事で良かった。どちらも壊れて動かなくなっていたら……俺はどうなっていたか。


 二人とも、本当に無事でよかった。


 もう時間的には……朝の七時か。


 時間をベッドから起き上がったらすぐに目に入る壁に設置した時計石によって把握した。


 それが終わると、オレは横に眠るドルイディとラプゥぺのことを起こしてあげるために顔を向けるが……



「な、な……なんで君が……!?」


「ん……んん……」


「君は……イディドル……」



 すぐに見てわかった。


 当たり前だ。恋人だからな。見た目が少し似ていても、間違えたりなんて絶対にしない。


 なんでイディドルがここで……俺の隣でぐっすりと眠っているんだ。そこはドルイディの場所だぞ。



「イディドル……」


「……んー……誰……だい……?」


「……どうするか。これ」



 『まだ眠りたいんだから、起こすな』とでも言うかのように眉を下げ、口を曲げ、不服を顕にするイディドルのことを見て、俺は起こすことを一旦やめる。


 これ以上、やったら彼女が何をするか……


 ……なんで、ここに来たんだよ。本当に。


 うーん……もしかして、何かを取りに来たとか……? それとも、伝えたいことでもあったか……?


 というか、この女……昨日はどこにいたんだ? 偽イディドルが部屋にいた時に一体どこに……



「……えーっと……まず、悪かった。何も言わずにやってきて、何も言わずにベッドに入り込み、何も言わずに君の隣で眠ってしまっていたわけだからね」


「別にいいよ」


「あと、昨日の夜、私がどこにいたのか気になるだろう? それも言うよ。クローゼットに閉じ込められていた。ファルの寝室のクローゼットにね」


「クローゼットに……?」


「ああ、眠らされた上でね」



 そうだったのか。てっきり、あの偽物二人が既にどこかに連れ去った後なのかと思っていた。



「他に聞きたいことは?」


「……君がここに来た目的の方を聞かせてくれ。何もないのに来たわけじゃないんだろう?」


「ほう。その通りだ。よくわかったね」


「……褒めてくれてありがとう。それで?」



 俺はベッドから完全に身を起こし、座りながらイディドルが口を開くのを待った。


 ちなみにこの時にドルイディがイディドルの横に居ることに気がついた。


 気配や香りがあったからいるとは思っていたが、まさかイディドルの横にいたとは。


 さっきまでは隠れて見えていなかったよ。


 眠る時は確実に横にいたし、ドルは寝相が悪い人形ではないから、イディドルにどけさせられたな。



「ファルが連れ去られた」


「……」


「……二人組がここに来たのは知ってるはず。そのうちの一人は乗っ取りの能力を持っている。目の前でファルの体を乗っ取るのを見たからね。間違いない」



 ああ、そのことはよく知っているさ。


 私は彼女のその言葉に対し、静かに頷く。



「ファルを助けたい。だが、あの二人はどちらも速度上昇の魔道具や爆弾など、厄介な物を複数所持している。とても、私一人では救えそうにない。それ故……」


「助けを求めた……ということだな? イディドル」


「ああ、それもその通りだよ。何も間違いないさ。リモデル」


「……わかった。じゃあ、一緒に行こう」



 イディドルが来ようと来なかろうと、俺は元々ドルと二人でファルのことを探すつもりでいた。


 そこにイディドルが加わったところで特に問題はない。むしろ、人手が増えたから助かるな。


 ファルを助けられる確率が上がる……それを思うと、精神が高揚していくのを感じられるな。


 俺がそれで次の言葉を口にするためにイディドルを見ると、彼女はドルイディの顔を覗いていた。



「ちょっと待て。何をするつもりだ……?」


「起きるのを待っているだけだ。視線を向けていれば、起きるはず。人間にかなり近いとはいえ、こいつは私と同じで自律人形なんだからね。敏感なんだ」


「確かに起きるだろうし、暴力で起こすよりはそちらの方がいいが、あまりに近いと起きた時に頭がぶつかるかもしれないぞ。距離を取った方がいい」


「ああ、それもそうだね。助言ありがとう」



 イディドルはそう言われて、立ち上がる。


 少し離れたところから視線を向けるつもりなのかと思ったが、面倒くさかったのか横に寝転んだ。


 先程と同じだ。


 そして、囚人を監視する看守かと思うほどに目を見開き、じっと見つめている。怖いわ!


 あまりにじっと見つめるもので気になったので、私は少し体を後ろに引っ張ることでドルから遠ざける。


 イディドルが不満げな視線をこちらに寄越すが、それは気にしない。


 彼女がドルに視線を再び戻したのと同じタイミングで俺も彼女へと視線を向けていったよ。


 すると、それから、二十秒ほど後に「ふあぁ……」と欠伸をしながら、ドルは起き上がった。


 昨日は俺に心配をかけないように大丈夫だと言っていたが、やはり疲れていたんだよな。ドルイディ。


 じゃなきゃ、もっと早く起きるだろ。君は。


 俺はドルの顔を更によく見ながら、彼女の視線が自分とイディドルの方向へ向くのを待つ。



「ドル、おはよう」


「あ、リモデルと……っと……? ……な、なんで……イディドルがこの部屋にいるのか……聞いても?」


「……イディドル。君の口から説明しような」


「わかった」



 イディドルはそう言うと、コホンとわざとらしく咳をした後にドルイディに向かって説明を始める。


 まあ、俺に対して行った説明と大方同じだ。


 何かしら、誤解させるような説明をするかと思って警戒しながら見守っていたが、大丈夫だった。


 安心だ。はぁ……疲れさせてくれる。


 それで、状況を理解したドルは眠気を完全に消し去るのと、気合いを入れるためだと言い、頬を叩くと、俺とイディドルと同時にベッドから立ち上がる。



「じゃあ、行こうか」


「そうだな。何も食べなくては力も出ない」



 ファルを救いたいが、俺もドルもイディドルもお腹が空いているからな。


 全員、ほぼ同時にお腹が悲鳴をあげたからな。間違いない。


 さて、今日は何を作ろうか。


 そう思って尋ねようとしたのだが、その前にイディドルが口を開いてきた。


 俺も驚いたが、ドルイディも何を作ろうか尋ねるつもりだったのかもしれない。なんか俺と同じように口をパクパクと動かして、少しだけ驚いている。



「……私に作らせてくれ。メニューはシチューだ」


「シチューか」


「……嫌かい?」


「いや、非常に嬉しい。ありがとうな」



 台所までイディドルは迅速に向かうと、わざわざエプロンを台所の棚から取り出して……


 手伝おうとする私たちを抑え、具材や包丁などを一人で用意してしまった。やる気満々だな。


 どうやら、どうしても一人で作りたいようで、俺とドルは食器を出すことしかできなかった。


 最近、俺たちが料理作ることが多かったからな。


 でも、昨日もあの後に作っていたんじゃないのか? それとも、あれはファルが作ったのか……?



「昨日の料理はファルが作ったんだ。彼の料理が上手くなっているのを見て、私も上手くなりたいと……そう思ったんだ。あと、単純に私の料理を作る速度は早い。貴方たちに任せるよりいいはずだと……そう思った」



 イディドルは俺の思考を読んだかのようにそう言いながら、野菜を切っていた。早いなー。


 見た感じ、もうほとんどの食材が切り終わっている。


 ここまで料理ができるとは……知らなかったよ。


 今後も作りたいというようなら、任せてみてもいいかもしれないな。楽しそうでもあるしさ。


 それから、およそ三十分ほどが経過したあたりで、イディドルはエプロンを外した。


 そして、包丁を片付け、具材のあまりを保管庫に仕舞うと、出来上がったシチューを運んでくる。


 美味しそうなシチューだ。いいね。



「……出来上がった。食べようか」


「食べ終わったら、作戦会議するか?」


「そうしようと思ってる」



 イディドルがそう頷いた直後に匙を持ってシチューを食べ始めた。早いな。俺らも食べよう。


 俺はドルと頷き合うと……


 互いに匙と器に触れていった。


 作戦は……食べながら、考えて……食べ終わったら、準備をしつつ話していく。これでいい。

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