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10話【ドルイディ視点】身代わり人形と閃光爆弾

 偽イディドルによって投げられた閃光爆弾……その効果は五秒ほどしか続かなかった。


 床に転がる閃光爆弾、それを私は糸で空中に持ち上げた後、闇属性中級魔法『闇球』にて焼却。


 これが光属性の爆弾でなかったら、火属性でも良かったが、光属性ということなら闇属性の魔法の方が破壊しやすいと思い、そうさせてもらった。


 ちなみに中級なのは下級だと威力が足りないから。壊せはしても、塵にはできないんだよ。


 この爆弾の耐久力は糸で確かめることが出来ていたから、中級の私の魔法なら無事に塵にできる。


 塵にしたことの確認が取れた後、私は振り返った。


 そこには未だ悔しそうにしながらも、必死に頭を回していると思われるリモデルが佇んでいた。



「……」


「……! ドルか。爆弾の処理、済んだようだな」


「うん。今後どうする? リモデル」



 リモデルは私に気づいた途端、首を振って頬を叩いた。きっと、自身に喝を入れたのだろう。


 それにしても、今後か……


 追いかけたいところだが、そんな体力もないんだよな。体にも異常が出てきているようで、『ERROR』の声が首飾りにより、脳内へと響き渡ってきている。


 今の魔法……使わなきゃ良かったかもな。使ってなければ、もう少しは動けていたかもしれない。



「……ドルの考えは尊重したいと思うんだが、俺は今の君に彼らを追うという選択は絶対にさせないつもりだ。壊れさせたくないからな。だから、ここで眠るか、元の俺の部屋で眠るのか決めてくれ。どちらを選んでも、君が快適な眠りにつけるように工夫してみせるよ」



 そうだね……


 元より自身の体の損傷率からどう頑張っても追うことはできないし、追いたくないと思っていた。


 リモデルはそれをわかっていた上で、きっと釘を刺したのだろうな。絶対にしてほしくないから。


 こんな時に自己修復機能が壊れていなければな。


 先程の攻撃の際なのか、私にあった自己修復の機能が少し壊れてしまっているようなのだ。


 いつもならもう治っているような傷が未だに治っておらず、『ERROR』の音が脳内で鳴り響いているからな。まるで、獣の鳴き声のように騒々しく。


「……追うつもりはない。今は無理だからね。自分の部屋で眠りたいのだが、抱えてもらっても……いいかな?」


「もちろんだ。抱えさせてもらうよ。ドル」


「ありがとう」


「……俺の部屋が居心地いいと思ってくれてるんだろ。だから、わざわざそちらまで連れていくことを望む」


「……うん。とても快適だからね」



 それもある。リモデルの寝室はとても快適だから、ここよりそちらで眠りたいという思いも強い。


 でも、実はそれが本理由ではない。


 私がそう言ったのは彼に抱かれたかったからだ。この部屋のベッドはここからそんなに離れていない。


 抱いてもらえるのはほんの十五秒といったところ。


 しかし、リモデルの寝室まで連れていってもらうということになると、何分も堪能ができる。



「ふふ……」


「どうした? ドル」


「いや、ごめん。なんでもないよ」



 私は無意識に笑った自分を心の中で軽く叱責すると、リモデルが抱きかかえてくれるのを待つ。


 もう本当に顔の部品ぐらいしか動かないからね。手までは先程まで動かせたが、もう動かない。


 『ERROR』の音も段々と大きくなってきているし、危ない状態だ。


 リモデルもそのことはわかっているのだろう。私が目を閉じた瞬間にすぐに抱きかかえてくれた。



「本当にここじゃなくていいんだな? ドル」


「……うん。大丈夫……じゃなくて、お願い」



 リモデルは私の首飾りのことを見て言った。


 かなり気にしてくれているのはよく伝わる。出会ったばかりの頃とは違い、本当によく……


 私がリモデルの部屋でどうしても寝たいのだという思いを尊重したいと思ったのだろう。


 リモデルはそのまま早歩きで部屋を出ると、歩みながら私のことを精一杯道具を使い、治してくれた。


 いつ持ち出したのか見えなかった。ファルの部屋で取ったのか、追いかける前に取ったのか……


 まあ、なんであれ嬉しいね。良かった。


 完全に修復機能が死んでいなかったおかげでもあるのか、危機は脱したようで、頭の中で響いていた煩わしい『ERROR』の音はもう収まってきている。



「……リモデル、ありがとう。もう良くなってきた」



 私はその小さな体で無理して私を抱きつつ、せっせと治療してくれたリモデルにそう言った。


 戦うだけで相当な体力を消費しているのに、その疲れをそのまま、子供の体で私のことを背負っている。


 そう思うと、非常に申し訳なくなったんだ。実はまだ辛いのだが、もう歩けるほどだし、問題なし。



「……リモデル、体は大丈夫かい?」


「ああ」


「……少し、休んでね。更に疲れちゃったようだし。本当に申し訳ない。これでも自律人形故、そういった変化には人よりも気づきやすかったというのに……」


「いや、本当に気にするな。ドルイディ。こうして元気よく話せている時点で体力はまだ残ってるんだ」


「……そ、そうかい……?」


「なんか、話したいこと……あるか?」



 リモデルからそう質問された時に、ちょうど寝室に到着。私は問いに首肯しながら、部屋の扉を開ける。


 もう部屋に着いてしまったが、寝付くまで話したい。


 私はリモデルと共に部屋を出る時に持ち出した物を全て元の場所へと戻していくと……


 ベッドへと仲良く飛び込んでいった。


 この時にも優しいリモデルにそんなことして大丈夫かと心配をされたが、私は大丈夫と答える。



「……で、リモデル。話なんだけど……」


「……」


「さっきのオブセポゼの偽装人形のこと、どう思う?」



 偽ファルや偽イディドルが逃げていなかった時に、部屋に転がっていた抜け殻らしきオブセポゼ……あれは実は偽装人形だということがさっきわかった。


 寝室に向かう途中で生気の全く感じられない人形的な目で倒れ……いや、落ちてるのを見かけたんだ。


 私もリモデルも気になって少し触ってみたところ、それが木製の絡繰人形だと明らかになる。


 あそこで私は逃げた二人のどちらか……もしくはどちらも狐か狸のどちらかであると思ったよ。


 特徴的なんだ。あの人形はね。狐狸のみが持つ特殊な人を惑わす効果を持つ魔力が練り込まれている。


 リモデルも私もよーく知っている。これに関しては人形も人形師もみんな知っていることだからね。


 まあ、あの人形は狐狸に作らせた……もしくは盗んだだけで二人はただの人間という可能性もあるが……


 狐狸っぽい香りも逃げる瞬間だけだが……一応したわけだし、狐狸だと思っておくことにするよ。



「……あんな本物そっくりの見た目で呼吸などもできる人形を創れるなんて凄いと思ってるよ」


「そっか。私もそう思ってる」



 ちなみにその人形は今後の人形作りの参考のために利用したいと考え、勝手に動き出さないように糸でぐるぐる巻きにした後に空き部屋に置いてきた。


 この部屋の近くの空き部屋だ。忘れないように。


 罠じゃないといいな。ただ落としていっただけの可能性もあるが、そう思わせて罠なのかも。


 危険の可能性はいつだって考えたい。



「……そうだ。ドル、言っておきたいことがあるんだった。ちょっと聞いてもらっていいか?」


「……? なんだい……? なんでもいいよ。その感じだと……かなり、重要な内容かな……?」



 リモデルは私の疑問に対して即座に頷く。


 なるほど。それならば、間違えて眠らないように少し体を起こして傾聴するとしようか。



「……あの閃光爆弾……市販の物じゃない。前に見る機会があった。あれは狐狸の国に伝わる特殊な閃光の爆弾。だから、多分あの二人のどちらかは……狸、もしくは狐だと俺は考えている。ドルは……どう思っていた?」


「……閃光爆弾……ああ、あれね」



 覚えている。あれか。


 あれも狐狸の物だったか。そこまでは知識がない故にすぐにわからなかったな。


 確かに普通の閃光爆弾とは見た目が異なっていたよね。よくよく思い出してみれば……


 もう壊したからないと思うが、あれも使える物なのだとしたら壊さないで取っておいても良かったかも。


 

「リモデル、今度一緒に作ろうか」


「そうだね。一緒に作ろう」


「……ふぁーあ」


「……」



 沈黙。それは五分ほど。



「……そろそろ、眠るか」


「そうだね。おやすみ」



 気になったことはそれぐらいだし、眠気も強まってきた。もう……今が眠り時だよね。


 私は子供らしく小さく欠伸するリモデルのことを見つめてかわいいと思った後、目を閉じた。

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