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6話【リモデル視点】オブセポゼ、その能力

 俺はまず、目の前の乗っ取り能力者に『人操糸』を射出。もちろん、操るためである。


 しかし、それは難なく避けられてしまった。


 なんて速さだ。とても常人の速さではない。


 ……そう思って見ていたら、ラプゥぺの指に何かが嵌められているのが目に入ってきた。



「お、気づいたようだな。嬉しいよ」


「……?」


「アンタが速いことはこれまでしばらくこの家で観察してきていたからな。すぐに捕まらないようにアンタが余所見している間に指に嵌めさせてもらったのよ」


「なるほどな」


「あ、ちなみに指十本分だけじゃ、アンタを越えられないと思って速さを上げるための薬も飲んでいる」



 薬……ねぇ。


 あの指輪はよく魔道具屋で見かける物ときっと同じ……いや、微妙に見た目が異なるし、改造品か?


 なんであれ、あれ単体で速さは通常時の1.5倍近く上昇する。それが指全部に嵌められているんだ。薬なんて飲まなくてもきっと俺を圧倒できるだろうに。どうしても捕まりたくないから……ってことかよ……?


 俺はドルイディを一旦下がらせると、確実に捕まえるために最初から全速力で奴を追いかけた。



「……っ」



 さすがに捕まらないか……


 触れることすら出来なかった。かなり接近することまでは出来たんだけどな。間合いには入ってた。


 間合いに入った瞬間に凄まじい速さで避けられてしまったのだ。


 今は俺の視界に右斜め上あたりに逃げたようだ。


 すぐにそちらへ糸を飛ばすが、しなやかに体をひねることによって躱されてしまった。


 うーん……これは……仕方ないな。



「……っと……おっ……!?」


「残念だったな」



 俺は奴に見えないようにドルイディに創ってもらっていた糸の檻を持つと、それを奴の真上に落とす。


 成功。かなり大きく、硬い檻を落とした。


 逃げることはできないだろうよ。


 乗っ取り野郎は見るからに動揺して、そのうえ悔しそうにしているように見える。


 こんなに簡単に……しかも早く、捕まってしまうとは思っていなかったのだろう。



「ははっ……あー、完敗です。捕まっちゃった」


「諦めるのが早くないか?」


「まあ、力づくで出るのは無理そうだしね。隙間がないし、硬いし、なんかネバネバするし……」



 少し触っただけでそれがわかったか。


 ……何か企んでいる様子はない。まあ、諦めたと思っていいか。


 それより、質問をしていきたい。気になることはかなりあるんでな。聞かないと気が済まない。


 その後に体を解放させるつもりだ。



「さて、君……名前を名乗れ」


「オブセポゼ」


「ん……?」


「だーかーら、『オブセポゼ』だって」


「それが君の名前か?」



 もう少し渋るか……言わないと思っていた。


 かなり、あっさりと名を明かしてきたので、俺とドルイディはほぼ同時に面食らってしまった。



「そう。名前なんて知られても問題ないし、余裕で言っちゃうよ。今まで言わなかったのは単に聞かれなかったからというだけ。隠してたわけじゃない」


「……まあ、いい。それじゃ、他にも色々と……?」


「ラプゥぺの体を乗っ取った理由なら教えるよ。こいつを乗っ取る前、オレは地下空間にいたんだけど、その時に見かけたアンタらの中にいたラプゥぺが結界も張られてなくて、乗っ取りやすかった。だから、乗っ取ったんだ。あんまり深い理由とかはないんだぜ」



 あの時、か……あの時にこいつはラプゥぺのことを……


 俺はそれに気づかずに今まで過ごしてきた自分を恥ずかしく思い、脳内で叱責していく。



「もう一人ドルイディに似たイディドルって人形がいるよね。あれも無防備だったと思うけど、その時はラプゥぺの方が気に入っていてね。これでも、女以外に子供も割と好きなんだよ。だから、今の子供になったアンタも実はオレにとっちゃ好みだったりするんだよねー」


「やめろ。気持ちが悪い」


「わかった。やめるやめる。というか、寝ない? オレは寝るね。一応夜だし。アンタらも眠かったでしょ? 話の続きとかは明日に回さない? いいでしょ?」


「……」



 俺が眠ったら結界が解けるとでも思っているのか? そんなわけがない。


 何か脱出のための魔道具を持っている? それとも、何かしらの能力が……?


 それなら、なんで目の前で使わない? 誰かに見られていたら使えない魔道具や能力なのか……?


 魔道具で誰かに見られていたら使えない物は聞いたことがないし、それならきっと能力だよな。


 一体どんな能力なんだろうか。見られていたらいけないという縛りがあるのだとしたら、そこらの能力と比べたら遥かに強力な能力のはずだが……


 もしかして、それが『乗っ取り』だったりするのか?


 うーん……どうなんだろうか……?


 ……能力は一人がバンバン持てるものじゃないし、それは『乗っ取り』だと考えるべき……かもな。



「……リモデル」


「ドルか」



 ドルイディは俺の耳元に口を当て言ってきた。



「……多分、こいつはただ眠りたいわけじゃない。何かしらを企んでいると思うんだ。私は」


「やはり、ドルもそう思っていたか。俺もだ」



 同じ考えを持っていてくれて良かった。


 地下空間での一件や『不思議の館』での経験から、俺もドルも疑り深くなっている。


 見るからに怪しいこの乗っ取り野郎(オブセポゼ)の言うことなど、何の根拠もなく信じることなどできない。



「……寝るよ?」


「まだ寝てなかったか。良かった。寝るなよ? 俺たちは早くラプゥぺの体を返してほしいんだ」


「ああ、そうだったね。じゃ、返すよ」


「……え? 今、君……なんて言った?」


「だから、この体は返すって言ったんだ。嘘じゃない。もう飽きたし、身体能力もアンタらと比べたらそこまでじゃないからね。凄い方だとは思うけど」



 もう飽きた……だと?


 イライラさせてくれるものだな。こいつは。


 返すというのが本当のことなのか、少しドルと共に腕を組んで見守っていると……


 オブセポゼは「うんしょ……」と言って座り直した後……唐突に体を横に倒していった。


 最初は眠るつもりかと思った。眠りたいとか言っていたわけだしね。耐えられなくなったのかと。


 でも、違ったようだ。


 生気のようなものが唐突に彼から感じられなくなったと思ったら、檻の外に何者かが現れる。



「なっ……なん……だと……?」



 きっと……いや、確実にオブセポゼだ。


 ラプゥぺの体を乗っ取っていた時と同じように俺とドルに対して嘲笑をしてきた後、こちらへの煽りと思われるウインクと手振りをしてきたからな。


 わざわざそんなことをしたということを逃げられる自信があるということなんだろうな。


 俺は同じように全速力で追ってやろうと思い、ドルイディと手を繋ぐのだが……


 そんな時に奴の指を見て、俺は動揺した。



「……君、それ……まだ持っていたというのか?」



 オブセポゼの指には……先程までラプゥぺの指に嵌められていた物と同じ指輪が嵌められていた。


 偽物でないことは見てわかった。


 ……こうなることも予測して予備をたくさん持ってきたということなんだろうな。やられた。



「いいや、これはさっきラプゥぺが嵌めていた物と同じ物だけど、どうした? リモデル・スキィアクロウ」


「……いや、そんな……いや……えっ?」



 俺は念の為に確かめておこうと思い、檻に近づく。


 中で倒れているラプゥぺの……それも指を俺は凝視した。


 すると、確かに指輪が嵌められていない……


 いつ取り外したんだ……いや、よく考えろ……俺はドルイディと相談するためにこいつから一度視線を外している。もしやその時に既に乗っ取りを解除して……指輪を本体の方に嵌めさせていた……?


 そんなことが……できるのだろうか。


 俺は乗っ取り能力について何も知らない。



「……アンタら、一度余所見してたろ? その時に指輪を外しておいたんだよ。気づかなかったか」



 ……気づかなかった。その通りだ。



「……糸の檻から出られたのはどういう原理だ?」


「オレは乗っ取る時と乗っ取りを解除する時に幽霊と同じような状態になれる。こんな檻をすり抜けることぐらい余裕よ。幽霊と違うのは任意の物には触れられるってところぐらいかな。幽霊じゃ、無理でしょ?」



 任意の物……なるほど。指輪か。


 とんでもない能力だな。


 しかし、こいつはそんなことを明かしても……



「……って待て!!」



 そう言った瞬間に奴の姿が一瞬にして見えなくなる。幽霊状態になったのか……高速で逃げたのか……


 気配は微かに感じる。きっと逃げたんだろうな。


 くっ……急いで追いかけねば、まずいことになる。


 ラプゥぺは解放できたが、この家にはイディドルとファルもいるんだ。


 あの二人だって一緒に共同生活する大事な仲間……体を乗っ取らせたくなんてないんだよ。


 俺はドルイディと頷くと、部屋の扉を全力で開けた。



「……」



 それにしても、あいつはなんであんな茶番を……?


 幽霊状態になれるのならば、最初からなっていればすぐに逃げることもできていただろうに……


 もしかして、見られていると幽霊になれないとか……そういうことなのか……?


 ……確かめたいし、次に会えたなら、あいつからは絶対に目を離さないようにしなくちゃな。

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