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3話【ドルイディ視点】『特製サラダ』

 『不思議の館』の帰路、私はリモデルといつどういう状況で接吻をするか決めるため、話し合うことに。


 祭の準備のために外に出ている人がたくさんいたので、路地裏を通りながら話しているよ。



「……リモデル、やっぱり……『丘』だよね……?」


「ああ、一昨日見に行ったあそこだよな。確かに人気(ひとけ)も少ないし、夜は絶景だし、接吻をするのには適しているよな。じゃあ、そうするとしようか」



 一昨日、私はリモデルと共に買い物に出かけた。その店は丘の近くだったので買い物の帰りに紹介しようと思い至り、夜景も見たいので夜に行ったのだ。


 あそこからの眺めは本当に素晴らしい。


 前にお父様やお姉様やお兄様や弟、妹たち……あと、私の製作者の『あの人』と見た時も『素晴らしい』と感じたものだが、あの時より感動させられた。


 好きな人と一緒……だったからなのかな。



「……あ、でも、リモデル」


「どうした? ドル」


「面倒くさいことを言うようだが……折角、もうすぐ祭があるんだ。祭を楽しんで最高の気分になった上で接吻をしたいと思うんだけど……ど、どうだい?」



 自分で言っていて……恥ずかしくなってしまった。


 私は頬を赤らめ、彼から視線を逸らした。


 失言とは思っていない。それ故に取り消したいとは思わないけど、もう少し……違う言い回しにしてみても良かったんじゃないか……


 そう思うほどに、私は恥ずかしいと思っていた。



「……いいな、それ」


「……え?」


「いいと思う。最高だな。そうしたいよ」



 リモデルは笑顔でウインクをした後にそう言った。


 大人の時に感じていた格好良さは依然として感じられるが、そこにかわいさも混じっていて……


 最高だった。更に頬が赤らんでいく。


 鏡を見てないからわからないが、私の顔は今や炎のように赤くなっていることだろうな。



「あ、そろそろ家だな」



 遠回りをしていて、その上歩いていたとはいえ、家までそれほど距離があったわけではないからね。


 数えていたわけじゃないが、きっと十分ほどで着いたんじゃないかと思うよ。


 もっと歩きながら話をしたかったが、まあ家の中でも話は十分にできるさ。


 朝ご飯にしては遅いが、昼ご飯にしては早い。今はそんな微妙な時間帯であるため……


 朝ご飯と昼ご飯を兼ねた……どちらと言われても違和感のない……そんな料理を作って……


 二人で仲良く食べていきたいのさ。


 家の扉を二人で仲良く開けると、私たちはどんな料理を作るのか話し始めた。


 今日はまだ何を食べるか決めていなかったのだ。



「私は……あれ? さっきまで考えていたのだが、出てこないな。朝昼兼用のいい感じのご飯が……」


「迷ってるか。それなら……サラダとかはどうだ?」


「サラダ? ああ、いいね」


「だろう? 健康的だしいいと思って」



 健康的なのも非常に良い点だが……


 この家にある物で作れるという点も素晴らしい。何故、私はすぐに出てこなかったというのか。


 最近、料理にあまり野菜が入っていなかった気がするし……この際、ガッツリ食べておこう。


 ……いや、この際で終わらすのは良くないか。健康的なわけだし……今後も食べようかな。


 そんな感じで色々と考えを巡らせながら、食材を台所に並べていった。


 リモデルは包丁などを出してくれている。



「このトマト、色艶がいいな。いつも以上に。ドルが貰ってきてくれていたのか?」


「……ん? いや、それは違うね。私じゃない」



 うーん、なんだそれ……?


 リモデルが買った物ではない……となると、ファルの可能性があるね。


 野菜系は大好きだから、よく買ってるようだしね。


 でも、ファルだとしたら何故にここに閉まったのか。あの男は自分とイディドルの部屋に保管庫を置いていたんじゃなかったっけ? 壊れたとか……?



「ファルの……かもな」


「そうだね。私もそう思っていた。同じ考えで嬉しい」


「ああ。それにしても、本当に色艶がいいよな」


「うん。どこで買っているんだろうか……」



 本当に色艶がいいと私も思っている。こんな美味しそうなトマトがどこに売っているのか……


 私は嘘ではなく、本気で知りたいよ。


 私が知っている店の物だったらいいが……



「あいつのことだから、きっと店で買ったんじゃなくて誰かから貰ってきたのかもしれないな」


「誰かから貰った? その『誰か』とは……?」


「『誰か』まではわからないさ。あいつは色々な人間や人形と仲良くなっているからな。その一人から譲ってもらったんだろうよ。あいつは多分、一つや二つ使ったぐらいじゃ、きっと怒らないし、使うか」


「そうだね。使ってしまおう。美味しそうだし」



 私はリモデルと頷き合うと、トマトと包丁をリモデルから受け取ってトントンと切っていく。


 包丁捌きは上手くないと思っていたが、何度か兄弟やメイドが使うところを見ていて、リモデルが使うところも目にしたためなのか、今では問題なく切れている。怪我なんて、全くしていないと思うよ。


 まあ、怪我しないなんて当たり前かもしれないが。


 とにかく、トントンとリズム良く切れるようになったのは良かったさ。楽しくなるからね。



「ドル。ちゃんと見て」


「あ、すまない」



 少しだけ視線が外れてしまった。


 その際に包丁を滑らせそうになってしまった。


 直前のリモデルのその言葉によって大事には至らなかったが、良くないから気をつけないと。


 私はまだまだ調子には乗れないね。うん。


 気を引き締めると、トマトをよく見て私は淡々とトントンと切っていくのだった。



「……うん、よく切れた」


「ああ、切っても美味しそうなトマトだな」



 瑞々しいよ。


 中の種が光っていて、まるで真珠のようだ。口に入れることに良い意味で抵抗が生まれる。


 それほどの良さだと……私は思った。


 トマトは切れたので他の食材も私は淡々とトントンと切っていくと……


 リモデルが用意してくれた皿に乗せていく。


 野菜を乗せるだけだが、見た目には気を遣う。


 一人で食べるだけなら別にそんなに気を遣うこともないと思うが、リモデルもいるからね。


 彼に私の盛りつけを見てもらいたい。


 評価してもらいたい。美しいと思ってもらいたい。それ故に私は……美しく盛りつけを行うのだ。



「……よし、完成。かなりの自信作だね、これは。リモデル、どうかな? 並べていくよ」


「うん、ありがとう」



 リモデルはフォークと飲み物、そして手と口を拭くための布巾の用意などをしつつ、そう答えてくれた。


 私こそ感謝したい。貴方のそのキラキラと輝く目は私のサラダを高評価してくれてると伝わるから。


 今にも食べたいと主張しているようにも見える。


 本当にこちらこそ、ありがとう。



「それでは座ろうか」



 私はリモデルと一緒に座ると、しばらく見つめてその見た目に感動をした後、皿を持ち……


 その野菜を口に運んで、横で同じ行動を取る彼と同じように感動に打ち震えていったよ。

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