1話【ドルイディ視点】再び『不思議の館』へ
リモデルが子供の姿になってから四日が経った。
リモデルが少しだけこのまま過ごしてみたいというので、その意見を尊重したんだよ。
人形操技や魔法の修行、筋トレや一緒に買い物などをして過ごしたが、二つ困ったことがある。
……子供の姿だと体力は下がっているから修行はすぐ疲れてしまうということ……これが一つ。
もう一つは……リモデルが私の恋人に見られない……ということだ。こっちの方が困ってる。
リモデルも困るって口にしていたよ。
まあ、見た目が完全に子供だからね。子供らしからぬクールさも備えてはいるが、手を繋いでいたら街の人から見た場合には姉弟に見えるようだね。
リモデルが私の子供に見られるということも……あったよ。私もリモデルもそれなりにショックだ。
「はぁ……やっぱり、行こうよ」
「ああ、もう行かないとな」
行こうと思っているのはもちろん、『不思議の館』だ。『不思議の館』でリュゼルスに貰ったとある箱のせいでリモデルはこうなったわけだからね。
リュゼルスに抗議した上で……彼女にリモデルの戻し方を教えてもらうのだ。
あの女のことだ。きっと、何かしら戻すための方法を知っているはずだ。絶対に戻してもらう。
私はリモデルと顔を見合わせると、勢いよく家を出て……『不思議の館』へと向かっていく。
もちろん、戸締りは忘れていないよ。
ちなみに今はまだ朝の六時。早いかもしれないが、この時間に出た方がいいと思ってそうした。
何故なら、あと五日後に大規模な祭がこの国にて行われるということで、こんな時間でもなければ、街には人がいつも以上にたくさんいるのだ。
……祭の準備をする人とか。
そうなれば、行くのが困難になってしまうと思ってね。まあ、糸を使って空中を舞えば早く着けるが、そんなことをしたら目立って恥ずかしいし。
「……こんな時間に事前に連絡もせずに来るのは非常識だとあの女に言われてしまうかな?」
「非常識だとは思う。だが、俺はあの女なら何だかんだ言いつつもちゃんと上げてくれる気がするよ」
「ま、そうかなぁ……うん。そうかもね」
眠っていると思うが、開けてもらうこと自体は正直に言って可能だと私は思っている。
何故なら一昨日に館を見に行きたいというイディドルとファルを館の近くに連れていった時に、たまたま館から外に出ていたリュゼルスがどこにいても呼び出せるボタンを扉の前に設置したと言っていたから。
その時に聞けたらと思ったんだが……あの時は他にも用事(食材の買い物)があったし、イディドルとファルが人混みのせいではぐれそうだったからやめたんだ。
買い物を後回しにして、イディドルやファルとはぐれたとしても、それを気にせず……あそこで戻り方を聞いておくべきだったよね。後悔しているよ。
そうやって私が心の中で後悔して、心の中でため息をついている間に『不思議の館』に到着。
「は、入るか……」
「緊張してるな。ドル。少し肩の力を抜こう」
リモデルはそう言って私の肩をさすって、肩の力を抜こうとしてくれる。優しいな。
それだけだとその感想が出るだけで済んだが、その後に物凄くかっこいい顔でウインクされたので、私はほんの……少しだけ……頬が赤くなってしまった。
私はそれで少しだけ顔を俯かせつつ、館の庭を二人で手を繋ぎながら歩いていったよ。
リモデルは今も子供の姿なのに……なんでこんなにドキドキするんだろうな。私もリュゼルスや偽物ルドフィアお姉様と同類ってことなんだろうか……
私は少し悲しくなりながらも、庭を歩いていき、玄関の扉の前に着いたよ。
リュゼルスが言ったように確かに玄関にはボタンのような物が意外にわかりやすく設置されていた。
色は目立つ赤で大きさも小指くらいはある。その上、私の目の高さと同じくらいのところにある。
「……押すよ?」
「ああ……」
私はそれでリモデルと顔を見合わせた後に同時に指をそのボタンへと持っていき……押下する。
緊張はしたものの、それは押した瞬間に少し消えた。逆に増すものと思ったから少し驚く。
私はそれでリュゼルスが反応するのを待つ。
どういう仕組みかはわからないが、本人がこれで呼び出せると言ったんだ。
私は……私たちは静かに待つしかない。
扉を開けた時にいきなり目の前にいると危ないかと思った私は念の為にリモデルと後ろに下がる。
すると、それとほぼ同じタイミングで館の中から音が聞こえてきた。走ってくる音である。
「……はぁっ……はぁっ」
息を切らす音も私の耳に届いてきた。
リュゼルスだろうね。急いでやってきてくれたのか。意外だな。
あの女は私たちのことなど待たせても怒らないだろうと思ってノロノロと来ると思っていたよ。
息切れの音が聞こえなくなったと思ったら、今度は扉の取っ手に手をかけたような音がする。
「あ、やっぱり……貴女たちですか。随分、遅かったですわね。開けてすぐに来ると思っていたのですが……」
「まあ、そうしようかとも思ったんだが……ま、子供の姿でやってみたいこともあったんでな」
リモデルは彼女の質問にそう答える。
「やってみたいこと……ですか。なるほど。まあ、それはそれとして……入りたいんですよね? 入ります?」
「……もちろん。入らせてもらいたいが」
「ふーん……」
「もったいぶるな。私はリモデルを元の姿に戻すためにその方法を聞きたいんだ。早く館に入れてくれ。いやまあ、この玄関で教えてくれてもいいんだが」
「いえいえ、玄関で話すとなると寒いでしょう。中でゆっくり話しましょう。歓迎いたしますわ」
歓迎……ねぇ。
貴女に歓迎されても私は喜べないし……リモデルだって喜べるとは到底思えないけど……
ま、取り敢えずはいいとしよう。
それより、廊下を歩く際の罠だ。この『不思議の館』では罠を警戒していないときっと痛い目に遭ってしまうことになる。ちゃんと結界を張らないとな。
私はリモデルと共に結界を張る。
リュゼルスはそれを見ると、わざとらしさの強い悲しげな声で……何やら呟いてきたよ。
「悲しいですわ。わたくしは何も罠など仕掛けていないのに。貴方がたが急いでいることはご存知ですし、今は罠なんて一切仕掛けていませんわ」
「そんなことを言ったところで信じられるとでも? 貴女は私のような人形にもリモデルのような人間にも信頼されるような人物ではないんだよ」
「……ひっ……そんな……酷いですわ」
嘘泣きはよしてほしいな。腹が立つ。
リモデルのことだから、私と同じように彼女の涙が偽りのものであると見抜いているとは思うんだけど、それに関して一切口を出してこないね。
さすがリモデルだ。精神年齢が私より高いと……本当に思うね。見た目では私の方が上なのに。
私はそんな彼を見ることで怒りを沈めると……リュゼルスに案内されて、館の廊下を歩き続ける。
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