57話【ドルイディ視点】宝箱を開けたら……
帰路で、私たちはとある物を食べてきたよ。
『キコナモッチ』という黄色い見たこともない粉のかかったモッチだよ。これがあまりに美味しそうだったからさ。ついつい買ってしまったんだ。
お代はリモデルが出してくれた。私が出そうとする前に彼が出していたんだ。
私の恋人、やはり動きが早いよ。
それで、キコナモッチの味についてなんだけど、かなり良かったと思っている。
モッチ自体はリモデルが最初に出会った時に私にくれたあのモッチに少しだけ似ていて……
そこに甘い粉をまぶした感じだね。
「けほっ……」
「大丈夫か?」
モッチではなく、粉の方が喉に詰まってしまったようで噎せてしまった。
予想外だった。少しぐらい考えればわかることだよね。次からは気をつけていかないと。
リモデルに背中をさすってもらっていたから、すぐに楽になった気がしている。
さすり方が優しく、思いやりを感じた。
私はリモデルに感謝をすると、モッチを咀嚼。
「……っむっ……ぁむ」
「美味しそうだな。ファルやイディドルにも買っていって良かったよ。文句は言われないだろう」
「……っえほっ……そうだね……同意だ」
そう、私たちは彼らのためのモッチも買っているのだ。どちらも同じ大きさの物である。
たくさん買いたい気持ちもあったが、お金の節約も大事だし、これから食事も取るつもりでいるので、あまりたくさん食べるべきではないという結論に至り、私たちの物を含めて四個に抑えているよ。
そんなキコナモッチの入った紙袋を右手で持ちながら楽しげに会話して歩いていると……
時間を忘れてしまっていた。
体感としては五分ぐらいなのに、門の近くからもう家の目の前へと来ていたよ。
私はリモデルと共に降りてくる紐を伝って家の扉の前まで行くと、二人で扉を開けた。
ファルもイディドルもいるかな?
「ねーえ、誰かいるかい!!」
大声で呼びかけてみるのだが、返事はない。
まあ、この部屋にいるとは限らないからどこかの部屋にいるかもしれないね。鍵は開いてたし。
リモデルもこちらを見て頷くから、同じ見解だろう。
私はキコナモッチの紙袋を近くの机に置くと、リモデルと一緒に台所へと入っていった。
今日は二人で作ろうと思っているんだ。
「えっ……」
台所に入ったら、ファルとイディドルがいた。
奥の方だったために見えなかったが、そんなところで一体何をしていたというのか。
何かの話をしていたのか? 台所で?
「二人とも、料理の話でもしていた感じかな? 待たせて悪かった。今から、作るからどいてくれ」
「あ、うん。ありがとう」
「ちょうどどちらが作ろうかと話していたところだったんだけど、それなら二人に任せる」
イディドルの口から『任せる』という言葉が出てきたことに驚きを感じてしまった。
彼女なら……いや、でも……これぐらいは任せるか……な。正直、予測できない行動ばかりするために、自分の複製人形なのに、何もわからないね。
悲しいことで、恥ずかしいことだとも思う。
じきに、ちゃんと予測できるようにじっくりと行動観察でもしていくとしようかな。
私たちが服の袖をまくって手を洗い、食材を保管庫から取り出しに行こうとしているところで……
待っているファルたちが何かに手を伸ばしているのが見えてしまった。
「あれは……」
「……あれ、俺たちが持って帰ってきた……」
た、宝箱……!
そうか。あの辺りに置いたんだった。
二人に触られて開けられる可能性を考えたら、もっと見つけられないような場所に置くべきだった。この家ならそういうところがいくつもあるのに。
……っ……冷や汗が出てくる。
私が「ダメだっ!!」と言って呼びかけた時には二人は宝箱を少し開けてしまっていたから……
多分、少し中身が気になったからということで開けてみることにしたんだろうな。
でも、何か物凄く嫌な予感がしているんだよ。
リモデルもそれは同じだと思っていたようで、二人のことを糸で簀巻き状態にすると放り投げた。
そして、宝箱の蓋を閉めてくれていた。
……冷や汗が止まる。
「はぁーっ……助かった」
「なんか、嫌な予感したものな」
「神業だったよ。糸だけであんなことを……」
「褒めないでくれ。大したことじゃない」
照れている。でも、やっぱりすごいよ。
リモデルは完全に宝箱を開かないようにしようと思ったのか糸を巻きつけようとした。
だが……何故か巻きつけようとした瞬間に、宝箱が意識を持っているかのようにガタガタと動き……
蓋が開きそうになってしまっていた。
リモデルは仕方ないと思ったようで、押さえつけるためか宝箱の目の前に行った。
その上で私とファルとイディドルに危険がないようにということで、結界を張ってくれた。
「リモデル、貴方も結界を張った方がっ……!」
「それも、そ……うっ!?」
彼が結界を張ろうと魔力を手に溜めようとした瞬間のことであった。
宝箱の動きが収まっていたから安心して力を緩めてしまっていたのだろう。
宝箱が完全に蓋を開けてしまい、中から洩れ出てきた光を彼は一身に浴びてしまっていた。
あの光は……きっと良くないものだ。
私は別れる少し前の宝箱に関する話をした時のリュゼルスのことを思い出して、そう思う。
光によって、視覚が機能してくれていないが、じっとしていられなかった私は目をつぶりながらも彼の名前を呼びながら、真っ直ぐに歩いていった。
「……ドル……イディ」
リモデルの声が……聞こえてきた。
でも、何故か……少し、高いような気が。
まるで、子供のような……そんな感じの声である。
不思議の館……あの不思議さの塊であった館の中にある宝箱……その中にある物はきっととてつもなく不思議な物であるということは予想ができていた。
しかし、まさかこんな……そんなことが……
光が消え、視界が機能するようになった途端……私の目に入ってきた彼の姿は……
「リモデル……」
やはり……子供の姿であった。
年齢としては……十二歳くらいか。
私は膝から崩れ落ちて、自分の無力さに嘆きながら彼のことをただ……ただ、見つめた。
リモデルも……自分の体に起こった変化を確かめて……動揺しているのが……見て取れた。
ごめん……そんなことを思いながら、私はそうなる原因を作った二人のことを見て、睨みつける。
「……悪かった。申し訳ない」
「悪かった! 僕も本当に悪かったと思っている」
二人は申し訳なさそうに頭を下げてくるけど、そんなことでは私の気持ちは収まらないよ……
きっと、リモデルだってそうだよ。
死ななかった……もしくは病気にかかるとかではなさそうだから、まだ良かったが……もし、そうなってしまっていたのなら……二人はどうしていたかな。
ダメだ。これ以上は良くないね。
これ以上、二人に悪感情を抱きたくない。抱くことに意味もないと思うし、やめないと。
私はリモデルの驚く顔を見ながら、彼に抱きつく。
失意に暮れる彼のことを慰めたいというだけで、子供の姿になった彼がかわいくて抱きついたわけではない。決して。断言させてもらおう。
……大切だからもう一度断言する。決してかわいいから抱きついたわけではないんだよ。
「えっと……」
「ドル……小さくなっても記憶はあるし、筋力はともかく魔力もそのまま。気にしなくていいよ」
「……うん」
「そういえば……ドルイディ、君は俺に花言葉について教えてくれるんだよな。今、頼んでいいか?」
「……! わかった。話すね」
リモデルは小さくなっても、変わらず頼りがいのある声と抱擁……あといつものかっこいいウインクを見せることで私に物凄く安心感を与えてくれる。
ありがとう。絶対に戻すからね。
私は彼を見つめながら、花言葉を教えると……天井を見て、そのことをグッと心に誓うのだった。
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二章完結です。明日から三章を投稿していきます。




