54話【ドルイディ視点〜リュゼルスハイム視点】忘れられていたモノ
宝箱を開けた……かった。
しかし、もう一つの宝箱があるという部屋に入った瞬間、リュゼは私たちにこう言ったんだ。
『この宝箱は今はまだ開けないでほしい』と。
それなら、いつなら開けていいのか、いつ開けてほしいのか……そんなことを尋ねると……
『帰ったら』だってよ。
……帰って開けた場合には一体どうなるんだよ。そして、一体……何が入っていると言うんだ……
疑問は尽きなかったのだけど、リュゼはそれ以上の追及には答えようとしてくれなかった。
だから、私は出ることについて考えようとした。
そんな時に……思い出す。とある二人を。
「あっ、プララとラッシュはどこにいるんだい? あの子たちも連れて帰らないと……」
危うく忘れてしまうところだった。あの子たちだって、私は連れて帰りたいと思うんだ。
絶対に置いてなんていかないよ。こんな訳のわからないところに純朴な子供二人を置いていってしまうような薄情者に私はなりたくないからね。
多分、ルドフィアお姉様はこの部屋の隣の部屋にいるだろうし……リュゼだってここにいるわけだから……今はきっと二人でいるよね……二人きりで……
心細いのではないかな……?
早く迎えに行ってあげないといけないね。
「……二人共、もう出てきていいですわ」
「……ん? え? なに……?」
出てきていい……?
えっと……二人は近くにいる……のかな?
リュゼにどういうことかという視線を向けようとしたら、部屋の奥の地面からボコりと二人のかわいい子供が出てきたので、視線はそちらに向く。
「ぷはっ」
「確かに快適だけど、さすがにもう退屈だったのだよ。みんな、用事は済んだって感じなの?」
プララとラッシュも……床下にいたのか……
リュゼが先程同じ場所から出たため、床下に空間があることには驚いてないが、二人がこんなところにずっと隠れていたという点には驚いてしまった。
私たちが見てない間に何があったんだろう。
「済みましたわ。退屈させて、申し訳ございませんでした。飲み物でも飲みますか?」
リュゼは壁の方に移動しながら言う。
先程までのリモデルとの戦いで壁から武器を出すところを見ていたので、何もない壁に向かっている姿に別に驚くことはなかったね。
同じように壁から出すんだろう? 飲み物を。
「さっきまでなら遠慮したかったところ……だけど、ねーたんがまた目を輝かせて、飲み物を求めているから、いただくとするよ。悲しいのだよ……」
「ふふ、わかりましたわ。二人分の飲み物を用意いたします。少々お待ちくださいな」
壁に着いたリュゼは手元の黒い板を操作していく。
板に表示されている何かをポチポチと押していった後、壁から何やら飲み物が二人分出てきた。
既に容器に入っているね。
しかも、なんか……密閉容器だ。私が見た中では最も細くて、持ち運びに良さそうだね。
あんな形の容器があるんだね。知らなかった。どこかに売ってる物ではなく、リュゼが作ったのかな?
ま、それは別にいいか。それより……
飲み物の種類は、なんだろう……?
「先程、ルドさんが出してくださったあのお茶と同じものが注がれております。遠慮なく、お飲みくださいな。熱さ控えめなので、すぐ飲めますわ」
「……んー、ありがとうなのです」
「……ありがとうなのだよ」
二人は少しだけ嬉しそうな顔で受け取って、ゴクゴクと飲んでいった。かわいいね。
両手で容器を掴んで飲んでいるところが特に。
私はリュゼのようにそんな二人に釘づけになった後に……リュゼに近寄りつつ、言った。
「そろそろ、出たいのだが……」
「あ、そうですわね! 宝探し、無事に終了おめでとうございますわ。帰るのは来た道を戻る方法とボードを使って転移する方法の二つがあるのですが、どちらにいたしまょうか? きちんと宝を見つけて試練も乗り越えているので、どちらでも構いません」
そんなの……後者に決まっているだろう。
先程の部屋にはルドフィアお姉様がいるし、単純に遠いから疲れてしまうというのもある。
聞くまでもないが、ここでそれを言うと彼女の機嫌が損なわれて、後者の選択肢を選べなくなる可能性があるために、私はリモデルとディエルドにそのことを伝えて確認を取っておくと、返答した。
「……後者で頼む。早く出たいんだよ」
「……あ、待ってほしいのですわ。少し忘れていたことがありました。色々ありましたし」
「忘れていたこと……? こちらは早く出たいと言っているだろう? 手早くやってもらいたい」
どうせ、何か持ち物を忘れた程度だと私は思っていた。きっと、リモデルもディエルドもプララちゃんたちも似たようなことを考えてたと思う。
それだけに……リュゼが私たちの前に持ってきた……いや、厳密には連れてきたその……
……自律人形を見て……卒倒もおかしくのない衝撃を味わい、絶句した上に……口を開けてしまった。
目だって、見開いているとも……
「ル、ルドフィア……お姉様……?」
その言葉が出たのは……リュゼが私たちの前にルドフィアお姉様を強制的に座らせたあたり。
その間、およそ二分……静寂が訪れていたよ。
リモデルたちの方を振り返って、彼らの顔を見てみたが、予想通り同じような表情だった。
「……そうですわ。会えて良かったですわね」
リュゼは笑顔でそう言うと、休眠状態となっていた彼女のことを起動させるのだった。
黒い板によって、入口へ続く不思議扉を虚空に出現させたのとほぼ同時にね。器用だね。
*****
わたくしが起動させたルド……いえ、ルドフィアさんは本物であるとドルさんたちには言いました。
ええ、もちろん……嘘ですわ。真っ赤な……ね。
うふふふふふ……喜んでいく彼女たちの顔を見ていると、わたくしも嬉しくなってしまいます。
彼女たちに引き渡した方は複製人形です。本物は……未だ館のあの部屋で黄昏れている方……
複製人形の方が、彼女たちに馴染みのある性格だったこともあって、その場の全員が簡単に納得してくれたので、滑稽で笑みが顔に表出しそうでしたわ。
抑えたつもりなのですが、もしかしたら無意識に軽く笑っていたかもしれませんわね。
誰も何も言わなかったというだけで……
「……はぁ、楽しい楽しい一日でしたわ。またこの館に遊びに来てほしいですわね……」
今度はもっと……もっと、楽しめるようなことを考えていますのでね。もっと……もーっと。
ちなみにドルさんたちは今はどこにいるのかと言うと……外です。もう城ではないですかね。
王様にルドフィアさんを見つけたということを報告すると仰いていたので、そう思いました。
「あー、あと……宝箱を開けるのも楽しみですわね」
絶対にあの宝箱を開けたら、起きる現象を目の当たりにしたら……驚きますわよ。
その様子を見るすべがないのが悲しいですわ。
ま、いいのですけどね。
「うふふふふふ」
一人なので、笑ってしまいました。
……あ、まあ……厳密には考えごとや準備があるとか意味のわからないことを言って館に残ったアサがいますが、別に含めないでもいいでしょう。
どうせ、聞いていないですし。
「はあ……それじゃ、私室に戻りましょうか」
わたくしはアサのことを見て、彼のための食べ物を用意してあげると……
私室に通じる扉をボードによって出現させて、そこを笑いながら通っていきましたわ。
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