51話【リュゼルスハイム視点】野蛮なやり方
わたくし、リュゼルスハイムがなんで床下からドルさんたちのところに出てきたのか……
それは単純に床下に隠れられる空間があって、そこに潜伏していたからですわ。
元は床下の空間などなかったのですが、ここは不思議の館……床下に空間を創り出すという不思議なこともわたくしが持つボード一つあれば可能なのです。
床下といったら、暗い感じを想像する方が多いとは思いますが、明るくもしてありましたし……温度調節もボード操作一つで容易に可能なので……
非常に……非常に快適でした。これだけ言うと、床下にいたことを信じない人もいそうですね。
なんでそもそも床下にいたのか……それはドルさん達がここに来る時に驚かせたかったからです。
その方が面白いでしょう? 普通に登場するのよりは格段に面白いと思いますわ。
さて、それではドルさんたちのお話(作戦会議?)も終わったようですし……わたくし、口を開きます。
「……皆さん、楽しそうに遊ばれていたようで何よりです。あと、よくぞここまでたどり着かれました。おめでとうございます。まだ終わりではありませんが」
「終わりではない……まあ、それはわかっているよ。宝は……また用意してるんだよね? もう一つの部屋があるっぽかったし、そちらにあるのかな?」
「……助かりますわ、話が早くて」
「……聞きたいことはまだあるんだが、そちらも聞いてもいいかな? 宝に関することではないよ」
「それを聞くのは無粋だからということですわね」
わかっておりますわ。配慮が助かりますわね。
……わたくしはニッコリと笑いながら、返答します。
「……いいですわよ。どんな質問ですの?」
「もちろん、なんで貴女がここにいるのか。そして、そのアサという人形は一体何者で何故にここにいるのか……他にも聞きたいことはあるが、それだけでいい」
「別に他にも答えてあげますわよ。でも、それらにまず答えていくとしましょうか……」
予想通りの質問ですしね。
言われなくても、わたくしの方から説明するつもりであったことですわ。何も問題ない。
「まず、わたくしがここにいるのは貴女……いや、貴女たちに試練を出すためですわ」
「試練……?」
「そうですわ。普通にこれで宝が見つかってしまってはつまらないでしょう? なので、倒してほしいのです」
「倒してほしい……?」
ドルさんたちは総じて頭に疑問符を浮かべていらっしゃいますね。言葉が不足していたようです。
「はい! わたくしと……そこにいるアサを。あの人形、力だけはやけにありますからね……アサがいる理由も……今のでわかっていただけましたか?」
わざわざ、ルドフィアさんに壊された部品を元に戻すのは骨が折れましたわ……
彼にはここで彼女たちを殺すぐらいの気概で頑張っていただきたいものですわね。
「ああ……わかった」
それなら、次の話に行くとしましょうかね。
後ろにいるディエルドさんが欠伸をなされてましたし。退屈だと感じている証拠だと思いますから、サクサクと話を進めないと眠ってしまいます。
「他にも気になることはありませんか……? 例えば……なんで二つも部屋があったのか……とか」
「ほう……確かに気になるが、それもちゃんと答えてくれるというのかな?」
ドルさんはそのかわいらしく……綺麗な整ったお顔がわたくしにくっきりと見えるほどの距離に自ら近寄った後に、そのような質問をなさいました。
……もちろん、答えますとも。
「……本当は館に隠された謎を解き明かすことで皆さんがそれを自力で知る……という展開を期待していたのですが、もうここまで来たら、その謎が隠されている場所に行くのも解き明かすのも面倒だと思いますし……」
「なるほど。だから、もう教えてしまうと?」
「そういうことですわ!! わたくし、物わかりが良すぎて物凄く助かっておりますわ」
わたくしは手を叩いて目を輝かせ、助かっているということをわかりやすく伝えます。
わざとらしいと思われるかもしれませんが、別にそれは構わないと思っていますよ。
わたくしは彼女たちに今更、好印象を抱かれたいなどと全く思っては……いませんからね。
「二つ部屋があったのは、同じ部屋に二つ宝を置いてはつまらないだろうという……単純な考えです。なので、元は一つで宝探しが始まった時に増やしたんです」
「あ、そ……そうなのか?」
呆気に取られているようですわね。
何かしら、深い意図があるのかと思いきや、その程度の理由でしかなかったのですから……
わたくしが彼女たちの立場でも似たような反応をするでしょう。その反応を責めたりはしません。
もちろん、蔑視することも決して……
「それでは……あらかた、疑問も解決したいと思いますし、試練を開始してもよろしいでしょうか?」
「ちょっと待ってくれ。どうやって貴女を倒す試練なのかもまだわからないし、規則なども知らないが?」
「単純戦闘で構いません。わたくしとアサ対貴女たち全員。相手の意識をなくすか、参ったと言わしめれば、貴女たちの勝ち。逆に意識を奪われるか……参ったと言えば、貴女たちは負けということになります」
これで、わかったでしょうか……
出来る限りゆるりと……その上、噛まないように気をつけて喋ったつもりですが……
先程のプララさんたちの前のように、気づかないうちに変なことを言うこともありますから。わたくし。
……気をつけないといけないのですよ、ふふ。
「……わかった。だが、少し頼みたいことがある。その戦闘は主に俺一人にやらせてはくれないだろうか? ドルたちには俺の支援に回ってもらう」
リモデルさんですか……
わたくしと機能停止状態とはいえ、アサがいるのに、臆せず近づく姿、格好良いですわね。
殿方は殿方でももう少し若い方……ラッシュさんのような方が好みですが……見惚れます。
ドルさんの気持ちもわかりますわね。少し。
手のひらに糸を生成しているのが見えますわよ。もう準備万端のようですわね。ありがたい。
「構いません! その代わり、わたくしたちは決して貴方に容赦はいたしませんから、覚悟を……!」
「……それは、俺の言葉なんだよな……」
威勢のいい方……それだけにここで返り討ちにしてしまったら、無様で可哀想ですわね。
簡単に倒れるとは思いませんが、彼には頑張っていただきたいものです。期待しますわ。
わたくしは館の端に行くと、そこの隙間から武器……戦棍を取り出しました。
本来はこんな場所に武器などありませんが、ボードを操作して地下にあった武器庫をこの部屋まで移動させたのですよ。本当に便利ですわ〜。
ちなみに勝負は互いに万全な状態で行いたいということで用意していた魔力補給水など回復に用いるような物はありったけ摂取してもらいました。
アサのことも完全に直しました。もう、普通に戦闘が出来る状態になっていると思います。
「……では、開始ですわ」
わたくしは合図をすると、アサのボタンを再び押して起動をさせましたわ。
そして、額をつけることでわたくしの考えを移しました。これで今から試練をしようとしていることを彼も瞬時に理解してくださるはずです。
アサは従うか迷っていたようですが、わたくしが視線を寄越すと、渋々と思っていそうな顔でわたくしの横を駆けていました。貴方もかわいいですね。
アサは武器などなくても相手をねじ伏せられるだけの力を持っているので、面倒だということで何も持たせないようにしていたのですが……
それを後悔する時間はすぐにやってきました。
「なっ……!? ふふ……すごい……すごいですわね」
突貫してきたアサの攻撃を容易にかわすと、その体を生成した糸で包み込んでいき……
槌のようにアサの体を振り回し、わたくしにぶつけようとしてきました。なんてことを……
まるで、予想外……!!
野蛮極まりない……こんな戦いをするなど、予想外であったわたくしは少し驚きながら……
笑いました。もちろん、これは喜び由来……
ふふ、わたくしの戦棍を持つ手にも力が漲ってくるというものですよ。ふふふふふふ。
少しでも面白いと思ったら、広告下の評価ボタン(☆☆☆☆☆)のクリックをお願いします。
ブックマークもしていただけると作者は嬉しいです。




