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45話【ドルイディ視点】邪魔な糸を断ち切るために

 見た目は重そうでも、意外と開けてみるとそんなことはない。この扉もそうだったね。


 私は完全に扉を開けたよ。入らなかったけど。


 理由は怖いから。立ち入ることで何か起きては嫌だからね。リモデルも同じ思考だと思う。


 異質なんだ、空気感というか……


 この部屋だけ、まるで別世界というような……そんな感じ。これに似た感覚は館自体に入った時にも強く感じていたが、これは確実にそれ以上だ。


 全身に針……いや、剣を向けられているかのような緊張感が生じ、私の額を……冷や汗が伝う。


 ……地下空間に入った時のことを思い出すな。それも鮮明に。曖昧に思い出すのでよかったんだが。


 リモデルは目を伏せた。その時の悲しげな表情から、彼も似たように思い出したのかも。



「……リモデル」



 私は彼に近寄りながら、そう言った。


 特に何かしたかったわけではないが、こうすれば彼の顔も近くで見れるし離れないよ。


 私が近寄ってくると、ディエルドは「あ、ああ……不覚だったな」と言って表情を戻す。


 そして、笑った後にウインクをしてくれた。


 よかった。戻ってくれて。



「……悪いな。暗い顔をしてしまって」


「……いや」


「それじゃ、糸で罠を探っていこうか」


「そうだね」



 この部屋には罠があるとさっきリュゼが言っていた。どういう方法かは知らないけど、ああやって遠距離から声を届ける技術って本当に便利だ。


 そう思いながら、リモデルが糸を伸ばして、罠を探るところを私は見ていたよ。


 糸は私の想像ではそのまま部屋の端まで真っ直ぐ綺麗に飛んでいくと思っていた。


 しかし、そうはならなかった。


 何かに阻まれていたのだ。


 それをこちらが何なのかと思う前に、その阻んでいたものの正体は明らかになる。


 リモデルが何かしたからではなく、糸が当たったためか……自動的に可視化されたのだ。


 ……その、部屋に張り巡らされた糸が。



「……えっと、硬糸……かな?」


「硬いし、そうだろうな?」



 確実に罠だね。ただ、通りにくくするだけの糸には見えない。何らかの効果を持ってるはず。


 痺れさせてくるとか、毒を付与してくるとか……とにかく、恐ろしい状態になってしまうと思う。



「そーいうのすぐわかるの凄いね、二人共。やーっぱ、オレとは違うよ。羨ましいね」



 ディエルドはきっと壁にもたれたら、罠が作動することを危惧しているんだろうね。


 ……もたれたりはせず、ただ佇んでいたよ。


 私は彼に『ごめん、待ってて』と伝えようとするが、その前に彼が口を開いたので無理だった。



「ドルちゃん……確実に切れるとは思ってないが、オレに一回、あの糸へ攻撃させてほしいんだ」


「糸へ……?」


「無謀かもしれないが、やらせてほしい。いいかな? どうするのかはやる前に説明するよ」


「……いいよ。私はどうすればこの状況を打破できるのかわからないと思っていたところだし」



 嘘だよ。本当は打破できる方法ぐらい……考えれば、思いつくんだ。というか、もう思いついてる。


 単純なことだよ。あの硬糸より強靭な糸をぶつけて切断とか……そういうことね。


 だけど、ここでディエルドが断ち切ってくれたら、わざわざ頑張ってそれを試すこともないしね。


 私だけでなく、リモデルもディエルドの言葉を待つようにしたみたい。腕組んで黙ってる。



「……単純なことだ。魔力剣を使う。さっきドルちゃん見たよねー……? あれだよ」


「あっ、うん。頼んだよ!」


「魔法使ってもいいんだけど、剣術の練習も兼ねたいし、剣術でやる。そこらの魔法より得意だし、これなら糸を断ち切れる可能性もあると思う」


「いいと思うよ」


「……いいんじゃないか? ディエルド」



 私の言葉に続いて、リモデルも似たようなことを言いながら、頷いた。よし、よし。


 火属性の魔力や魔法で焼き払うとかじゃなくてよかったよね。そんなことしたら、成功失敗関係なく、大変なことになってしまいそうだからね。


 ……ここは窓ないしね。まあ、その方法は窓があっても、やめてほしいものだけども。


 大人しく見守ろうかと思ったけど、よくよく考えたら部屋中に糸があるわけだし、私とリモデルがいたら、切断の邪魔だろうな。どいておこう。


 そう思ったので、私はリモデルと一緒に様子を確認するため扉を開けたまま、部屋の外に出る。


 部屋の外でゆーっくり見守るよ。


 ディエルドはこちらを一瞥後、魔力剣を生み出す。その属性はもちろん、彼の属性である光属性。


 彼も他人から魔力を譲渡されれば、他属性も使えると思うんだが、まあ光属性で事足りるか。


 「フンフーン」と鼻息混じりで構える。振り回したりはしなかったね。一瞬するかと思った。



「いよーっと!!」



 ディエルドは糸の一つに魔力剣を叩きつける。


 そんな勢いよく叩きつけたらよくないって……まあこれは本物の剣と違って、魔力が衝撃をある程度は吸収してくれているから、大丈夫だとは思うけど。


 多分、彼はそこらにたくさん生えている一般的な木の硬さを想定してたんじゃないかな。


 たまに硬い木はあるけど、よく見かけるような一般的な木ぐらいなら、今の一振りで容易に切断できただろうね。ディエルドも弱くはないし。



「ってぇ……」



 ……あ、でも……叩きつけすぎたことは自分でもわかったみたい。ちょっと手の痛みを感じているようで、剣を右手から左手に移して、痛そうな顔をしながら痛みを落とすように上下に右手を振っていたし。


 これは木を想定したかはわからないが、確実に硬さを見誤っていたというのはわかるよ。


 ディエルドに「もう大丈夫」と私は言うと、下がっててもらうことにしたよ。


 よく見たらわかる。今ので糸が……切れたんだ。ブチッ……という音の後に、ちゃんとね。


 彼は当然のように「まだやらせて」と言うが、これ以上やっても手を痛めるだけだし、止める。



「貴方は……何も出来なかったわけじゃない。ちゃんと、糸を一本切断できたんだよ。これがどれだけ希望になるか。貴方は役に立ってる。気にしないで」


「ありがとう……でもねぇ……うーん」


「希望とか関係なく、単純にまだやれると思うからやらせてほしいってこと……かな?」


「……ごめん、そうなんだよ。やらせてくれない?」



 うーん……どうしよう。


 私がどうすべきかと思い切り悩んでいると、リモデルが出てきてくれて、言った。



「無理をしてほしくない、ディエルド。俺は君と一緒に『宝探し』を無事に終わらせ、五体満足でここを出たいと思ってるんだ。わかって……くれるか?」


「……っ……んー……言いたいことはわかるんだけどぉ〜……まだ、一本しか出来てないしさ」


「……君は……十二分に格好いい活躍を見せてくれている。ここで止めても何の問題もない。気にするなよ。ゆっくり後ろに下がって休んでくれ」



 リモデルはディエルドの肩を叩きながら、実に優しげな声で……そう言っていた。


 私も……まだ少し、言っておこう。



「……ディエルド、悪かった。貴方の手に負担をかけたかったわけでは決してないよ。リモデルも言っていたが、取り敢えずは扉の近くでゆっくり手を休めていてくれないかな? 私たちが攻略法を考える」


「……っ……わかったよ。でも、オレは頑張ってるドルちゃんたちの後ろでただ見ているだけの人形でいたくないんでね。背後は守らせて……くれっかな?」



 ここで……彼のことを否定するのは、よくないと思う……休んでほしい気持ちもあるけど……


 私は、笑顔を浮かべた後に……首肯した。



「リモデル……」


「……ドル、えっと……俺の糸も全力で作れば強度は上げられるし、その上で魔力を纏わせれば強度は普通に人形をバラバラに出来るまでに上がる……」


「上がる……?」



 続きを言いそうな雰囲気だったために、私は疑問に思いながら、言葉の続きを待つ。



「……んじゃないかと思うが、俺はさっきのディエルドが魔力剣を叩きつけた時から、予想より遥かに糸が硬い気がしている。だから……数本断ち切ることはできても、全ての糸を断ち切るのは難しい気が……」



 全ての糸を断ち切るまで、体力がもたないってことを言っているんだろうね。


 ……わかる……理解できる、気持ちだよ。



「俺に期待してほしいとは……言えない」


「……リモデルが折角全力で作った糸を使うんだ。その瞬間を目にできるのに、期待はやめないよ」


「……」


「……頑張って、リモデル」



 私がそう言うと、彼は目を覚ますかのように頬を叩くと、ウインクしながら自信満々に……



「ごめん、情けないこと言って。目が覚めたから、もう大丈夫だ。頑張るよ……ドルイディ」


「……よかった。応援してるからね」



 この応援が……彼の力を多少なりとも上げられていたら、嬉しいが……どうだろうね。


 とにかく、本当に期待はやめない。


 私も体力は回復してきてるしさ……


 ……出来る限り、挑戦すればいいんだよ。


 これぐらいで、諦めたりなんてしない。


 私は視線に彼に対する応援を乗せて……全力の硬糸を使って邪魔な糸を断ち切る姿を見守った。

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