10話【ドルイディ視点】土塊人形の異変
私は土塊人形はこちらが確実に部屋にいることを音などで確認した後にファルのもとへ戻る……それかドンドンとドアを叩いて壊そうとしてくるものだと思っていた。
後者ですら可能性は低いと思っていたのに、一番ないと思っていた可能性がきた。
覗き穴か何かあればいいのだが……
あれば、ドアの向こう側でどんなことが起こったのかわかって対処法も今の数倍浮かぶだろうから。
そう思って、私はリモデルのことをジローっと見つめる。ジローっとね。目を細めて、ということだ。
「……なんだ?」
「わかってるだろう?」
「……はいはい」
ないのなら、どうしようかと思っていたが、あるかな。あるといいのだが……
……扉の先を、見通せるような魔道具とか。
「……こういう状況で使える便利な魔道具とかを持ってないかってことだよな? 悪い、ないわ」
「ないのか……ごめん」
あるように見えたのだが、勘違いだったようだ。
でも、それならどうしよう。気になるが、取り敢えずは一旦無視して外に出るのか?
「どうする?」
「……ドアを開けて確認したいという気持ちは俺にもある。だが、リスクを考えるとこのまま家からすぐに出るのが最善だ。俺は出たいが、君はどうしたい?」
「私もひとまずは出るべきだと思う」
「べき?」
「……いや、出たいさ。出よう」
ファルが意図的にこちらに傷を与えてくるとは思えない。
だが、あの感じだと土塊人形に何かしらの異常が起こっている可能性は多分にある。
こちらに攻撃してくることを考えれば、ここで警戒して確認せずに逃げるのが得策である。
私は一瞥だけすると、すぐに最初の入口のドアの方に向かっていくのだが……
「……?」
何故か、リモデルがその場で止まる。
何かを思い出したということだろうか。冷や汗をかきはじめているから、相当に重要なことだね。
私は彼の袖を引っ張りながら、問う。
「なんで止まったんだい?」
「……見ろ」
そう言った瞬間にドアがミキミキと音を立てていることに私は気がついた。
なんと……壊れようとしているというのか!?
焦りは一応感じていたが、それにより更に増していく。逃げるために袖を引っ張る力を強めたところで……
「まずいな……っ」
「だから、逃げようとしてるんじゃないか。なんで、貴方は止まっているんだい?」
ここで止まってそれを確認することがそこまで重要なことなのか……?
私はともかく、リモデルは人間なのだ。死んだら修復が不可能であることを思えば、ここで逃げる以外にすべき行動ないように思う。錯乱でもしてしまったのか?
困惑している私に彼は少し焦った声で言う。
「……このままだと、この家が壊れるかもしれない……!」
「……うん」
「ドアの向こう側で何かが起こったんだよ。俺はまだ様子を見ておきたい。ダメか?」
「……っ」
「……このままだと、本当に俺の家は壊れてしまうと思うんだよ。それは困るんだ」
そうか。そういえば、ここは貴方の大事な家だったな。
私も確かに自身の住む城が何者かに破壊されであったなら、メイドたちと協力して何らかの対抗策を練るだろう。
私は本当にそういった大事なことを失念しがちだな。悪く言えば、自分本位。自分勝手とも言う。
良く言えば……いや、良く言う必要ないな。
歯を強く軋ませる彼に私は首を下げることで簡単に謝意を示すと、ドアに近づいていった。
「おい、何をして……っ!?」
少し開けるために……
もちろん、子供の人間の指ぐらいでないと入らない程度しか開けるつもりはない。最初はね。顔を出す気もそこから指を入れたりするつもりもない。
目的が覗くだけなんだ。そんなに開ける必要はなし。
「大丈夫だ。向こうでは土塊人形が倒れているだけだ。先程のアレは倒れた際の衝撃のせいで防衛機能が誤発動したんじゃないかと推測する……」
「……何故、そう思った?」
「右手だけドアに当たっている。目の前のドアが自分を攻撃した対象だと認識して攻撃しようとしたんだろうな。でも、すぐに違うと気づいて停止……といった感じかな、推測だけど。罠の有無まではここからじゃわからないから、リモデルも覗いてみてほしいんだが……」
「わかった。だが、あまり危険なことはしてくれるな。ヒヤヒヤする。君は一旦下がってろ」
リモデルは私を後ろに行かせると、ドアの方に慎重に向かっていき、充分逃げれる距離かつギリギリその隙間を覗ける位置へと移動した。
私が見た位置より少し後ろぐらいって感じだ。私もそこで見れば、よかったな。
そこで彼が目にしたものは私ときっと同じだったはず。安堵したような表情を見せてくれたからね。
リモデルはその後、ドアを躊躇なく右手で音を立てずに開けると、一旦後退。罠発動の可能性を考慮してのことだろうが、何も起きることはなかった。
「……ほっ」
念の為ということで数十秒ほど、距離を置いて停止してみたが、何も起こりそうな気配はなかったので、リモデルはそのまま開いたドアの方に向かう。
リモデルは一応まだ警戒しているようで、ドアをそろりと指で全開にすると、土塊人形のことを持ち上げて、邪魔にならない場所へと運ぼうとする。
それがいけなかったのだろうか。
持ち上げた瞬間に微妙だが、動いたらしい。それを気のせいだと思い、歩き出した瞬間に土塊人形がリモデルの腕から飛び出していった。
凄まじい脚力だ。さすがのリモデルもそれには耐えきれず、後ろに転倒してしまう。
無様とは思わないよ。かわいかった。
「……はぁ、天井が思い切り突き抜けてるな」
飛び出した時に天井に衝突したのだ。思い切り、穴が開いている。
……ちなみに土塊人形はその後にどうなったかというと、間抜けにも転んで体のパーツを所々に撒き散らしたよ。普通の家と比べれば広い廊下かもしれないが、一つ一つのパーツが大きいので足の踏み場がない。
迷惑だ。迷惑すぎる。
そして、間抜けだ。
リモデルは無様に感じられなかったが、正直今のあなたは無様だよ、土塊人形くん。
立ち上がるのに苦労している土塊人形を見て、私は失笑する。土塊人形のことは好きだが、この個体に関しては正直あんまりって感じだね。
「……直していくよ、天井」
「いいのか? というか、できるのか?」
「俺も少しぐらいは土属性魔法が使える。大丈夫だと思うよ。まあ、完全には塞げないと思うけどさ」
そう言うと、天井に手をかざして土塊人形が開けた穴を少しずつ塞いでいく。
本当になんだったんだか。
私は一生懸命に立とうとするが、その度に転げてしまう土塊人形に哀れみの視線を向けながら、そう思うのだった。
……笑えてくるよ、はは。
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