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面会

「ソージュ様、良くお似合いです」


「ありがとう。御世辞でも嬉しいわ」


「否、本当にお美しいです。艷やかな黒髪、澄んだ青味がかった紫の瞳――」


 恥ずかしくなるほど、イオナの讃美が続く。

 

 ――わたしが見窄らしかったのは空腹、疲労感、倦怠感、睡眠不足、隈のせいだからね。


「――解って頂けたでしょうか」


「え、ええ……」


 引くくらいには。


「解って頂けたのでしたら良いのです。では、本日はどの様にお過しなさいますか?」


「そうね。先ずはもう一人の召喚されてしまった彼女に会いに。彼女の状態にもよるけれど、その後は書庫へ。この国――というよりはこの世界の知識を得ないことには、ね」


「畏まりました。では聖女様のお部屋まで御案内致します」


 皇子に連行された少女の名前は東雲 美雪ちゃん。


 わたしの後に自分が召喚された理由とその対価がどの様な結果を齎したのかを聞かされたショックで倒れてしまったという。

 ショックを受けて当然だ。

 異世界の他人の尻拭いをさせられる為に拉致され、家族を殺され、帰る場所を奪われたのだから。


 皇子たちが面会を求めても拒絶して部屋に籠もってしまっているという。


 皇子たちは東雲さんを慰めようと声をかけているという。

 

 その方法というものが、聖女に相応しい衣に宝石、魔法杖などを用意し、それら全てが希少であり、特級職人の一品だと、故郷や家族よりも如何にこの世界、国が、暮らしが素晴らしいかを語り、聖女となれば、誰もが敬い、羨望する存在になれる。栄誉、名誉なことだと語り、それは元の生活よりは素晴らしいものとなる、と朗々と説いて聞かせているという。


 東雲さんの感情を逆撫でし、逆鱗に触れてしまっていることに、果たして彼らは気付いているのだろうか?


 ――気付いてい無いんだろうなぁ……。


「瘴気が人の悪意が溜まり凝り、噴き出したものなら、世界を浄化する聖女の憎しみや怨みから発生する瘴気は何れ程の濃さ、脅威となるのかしら? 聖女に憎しみから生まれ落ちた魔モノの強さは如何ほどのものになるか想像も付かないわね。下手をするとこの世界跡形もなく消し飛んでしまうかも」


 わたしのひとりごとに前を歩くイオナの歩調が乱れ、立ち止まり、錆び付いたかのような動きで此方に向く。


「ソ、ソージュ様……今の……は……」


「ちょっとした考察だから気にしないで」


「い、いえ! とても聞き捨てならないことで御座います!?」


「そう? 誰もが聖人君子という訳では無いし、誰もが慈悲や無償の愛で人助けをするわけではないでしょう? ましてや見ず知らずの異世界、国に拉致されて戦場で自分たちの代わりに戦えと送られる。家族も、将来まで奪われ殺されて恨まない訳ないじゃない。それも聖女二人分。今までより大変よね」


 わたしはこの世界の住人なら知っていて当然の歴史からの考察をイオナに語った。

 無表情のイオナが狼狽えている。目が泳いでしまっている。


「イオナ。大切な人がいるのなら、この泥船のような国からできるだけ早く逃げることをオススメするわ」


「……」


 わたしの警告にイオナはぎこちなく頷くと、再び歩き出す。


 東雲さんの部屋の前には護衛と思しき者が二人立っていた。

 

「何用か」


「聖女様と同時に召喚されました、もう一人の聖女様を御案内致しました」


 護衛の問いに答えるイオナ。

 イオナの「もう一人の聖女」という答えに、護衛が胡乱な目をわたしに向けて来る。


「その様な目、失礼ではありませんか?」


「なに? 何だと貴様。 侍女如きが、我らに意見する気か?」


「聖女様が召喚の真実、被害を知って鬱ぎ込み、此方側を拒絶して、誰もお会いして話が出来ていない。特に、酷い拒絶反応を示しているのがクロヴィス皇子殿下御本人様と臣下の皆様に対してだと聞き及んでおります。それに召喚されてから何も口にしていないとも」


 イオナの言葉が正しいのか、護衛は苦虫を噛み潰したような顔になる。


 ――護衛が顔に出してどうするのよ。躾がなっていないでしょう。

 

「東雲さん。貴女と同じ日本、同じ時代、同じ時間に拉致された者だけど、聞かされているか、おぼえているかな?」


 ノックをして呼びかける。


「良かったら、私を部屋に入れて欲しいんだけど………」


 暫くすると扉が開いた。


 後ろから護衛が「おおっ!」と声を上げている。


「どうぞ……」


 人一人が通れるほどの隙間に身体を滑――


 ちょっとだけ、開く幅を広げる。胸部装甲がつっかえたから。


「お邪魔します」


 バタンッ!!と扉が閉じられる。しかも鍵をかける徹底ぶり。


「あ、あの……」


「はじめまして、千羽 双樹といいます」


「こ、こちらこそはじめまして、東雲 美雪です。そ、その聞きました! 千羽さんのスマホ、日本と繋がったっていうのは本当何でしょうかっ!! わ、私の家族が召喚の犠牲になったって……」


「本当のこと……。見る?」


「は、はい……」


 東雲さんが意を決して、わたしのスマホを見る。


「あ、ああっ!! そ、そんなっ!! お母さん!! お父さん!! お兄ちゃんっ!!」


 泣き崩れ、喉が裂けんばかりに慟哭する東雲さん。


 烈しく炎に焼ける家屋を中心に隣家も焼け崩れていく映像が流れているはずだ。


 わたしは東雲さんの背中をあやすように撫でることしか出来ない。

 東雲さんはわたしにしがみついて身体を震わせ、憤り、涙を流す。




 ニュースを慌ただしく読む女性アナウンサーの声が聞こえる。

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