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聖女専属メイド、イオナの場合

 この仕事に遣り甲斐なんて一つも感じたことがない。

 貴族の娘をとして生まれたとは言えば聞こえは良いけれど、伯爵家でも格付けがあり、我が家は端に指先が引っかかる程度の格。

 シルエラ伯爵家の末娘である私。

 伯爵家を継ぐ兄と有力貴族との縁を結ぶ為の姉には多くの資金を投じて教養を身に着けさせ、学園へ通わせた。

 末娘の私に資金を投じる余裕はなかった為に、最低限の教養を身に着けさせられた後は、この城に住み込みのメイドとして放り込まれた。

 花嫁修業、婿探し、何処ぞの貴族に見初められれば幸運。もしくは御手付きになって愛人、妾でも可、という両親。

 要するに自分の食い扶持は自分で探せ、ということだ。


 13歳から働いて4年目。ある程度、様々な経験もさせられましたが、まさか、異世界から召喚された聖女様(仮)の御世話を命じられる事になるとは思いませんでした。


 メイド長に呼び出され、向かう途中でぞろぞろと取り巻きを従えて歩くメイドと遭遇してしまった。


「あら、どなたかと思えばイオナさんじゃありませんの」


 私に声を掛けてきた女はササラ・カラスーリ。

 皇家御用達の老舗のお嬢様の一人だ。

 長の商戦略の一つだとか。


「貴女もメイド長に呼ばれましたのね。私たちも先程呼ばれましたの。私たちは異世界から召喚された聖女様の御世話を努めさせて頂くことになりましたのよ」


「皇太子殿下が御認めになられた聖女様よ」


「何でももう一人、召喚されたと聞きましたが、どうやらその方、聖女様などでは無かったようで誰にも見向きもされなかったのですって」


「なんでもその方は見目もよろしく無いご様子。事故で紛れ込んだ外れだとか」


 クスクスと取り巻きが嘲笑う。


 ――嫌な嗤い顔。見ず知らずの者を嘲笑う自分たちの方が醜いって気付いてないのかしら。ホントに下らない人たち。


 召喚なんて言っているけど、要するに拉致したということだ。

 

 ――拉致した者が被害者を嗤うなんて、なんて下衆な連中。


「先を急ぎますので」


 そう言って頭を下げて脇を通る。


 その瞬間、スッと足が出された。


 ――ホントに下らない。


 内心でため息を吐く。不自然に見えない様に転び、受け身を取る。


 振り向き見上げると、私を見下し嗤う取り巻きの顔。


「あらあら? 何も無い所で転ぶなんて、イオナ、貴女って相変わらず愚鈍ね」


「何をしているの? 聖女様をお待たせするわけにはいかなくてよ」


「はい! ササラ様」


 クスクスと嘲笑いながら足早に去っていく取り巻きたち。


 伯爵家の端っこの末娘と皇家御用達の老舗の商家の娘とでは格付けは向こうが上。


 とは、言え取り巻きは違う。


 私は何事も無かったかのように立ち、身嗜みを確かめる。


「清潔」


 生活に欠かせない術の一つ。


「整容」


 服装や髪の乱れを整える術。


 メイドの嗜みとして習得しなければならない初歩の術。


 メイド長の執務室のように扉を叩く。


「イオナ・シルエラです」


「お入りなさい」


 メイド長であるバーバラ・マクドールの声に従い入室する。


 私が呼び出されたのは、蔑ろにされた異世界から召喚された聖女様(仮)の身の回りの御世話をしろとの命令の下す為だった。


 こちら側の不手際と、異世界に齎した被害に激怒しているという。


 ――当たり前ですね。


 異世界には此方を上回る魔導具があり、中には高い空より破壊を齎す爆炎を内包した矢を用いる、殲滅兵器もある。

 そして人は空を飛ぶ魔導具により月へも行く事が可能な為に、外交問題で攻め滅ぼされる恐れが出て来てしまったと青褪めている。


 不手際があっても私一人の首だけで済むと言う事だ。

 対してもう一人の聖女様は皇太子殿が御執心らしく、聖女様、御不自由が無い様に、御用達の商家の娘であるササラさんを御指名なされたとのこと。


 通常の務めから外れ、聖女付きとなる事はありがたい。


 退室すると――


「私を推薦なさったのは先生ですか?」


「頼みましたよ」


 一言だけ残すと気配が消えた。


 年齢不詳のメイド。私に『メイドの嗜み』という術を教えたメイド。


 彼女が私を推薦したからには理由があるはず。


「失礼します聖女様」


 ノックをしても応えがない。


 再度お声がけするも応えがない。


 顔色が悪いと聞いた。今にも倒れそうだったと。


 私は直ぐに部屋に入ると、ソファーに横たわり、ぐったりしている聖女様を発見した。

 足早に近付き、呼吸を確認する。

 息があり、生きている。

 しかし、顔色が悪く、眉根を寄せるほどに苦しそうだった。


 私は失礼します、と聖女様を抱き上げてベッドへと横たえる。


 身体強化。これもメイドの嗜み。


 医師を呼び付ける。

 診断は寝不足と過労。

 夜着に着替えさせる為に御召し物を脱がせる。


 着替えさせ終わると、医師に出されたポーションを少しづつ口に含ませていく。


 苦しさも和らいできた。


「男たちは見る目が無いですね……」


 呼吸も穏やかになり、暫くご様子をみてから、私は与えられた控えの部屋に退がる。


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