プロローグ
初めての読者様もお久しぶりの読者様も、改めてよろしくお願い致します。
あらすじにも書きましたが、私の投稿済みの登場人物の使いまわしです。細々とした設定は変えていますが。
何故使いまわしか? それは名前を考えるのが大変だったからです。
煌びやかなイケメンに囲まれて頬を朱に染めて、はにかんで質問に受け答えする可愛い少女。
何やら周りの生気を搾り取られたやつれた法衣姿の男女。
エナジードリンク飲む? 飛べるよ?
エナジードリンク片手にコンビニのホットスナックチキンを食べていた女。
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トラブルで深夜まで続いた仕事。帰宅してエナジードリンク缶の蓋を開け、ホットスナックチキンの袋を破り、齧りつつパンプスを脱ごうとした瞬間、空気が重くドロリとした。
足下が輝く。
光が文字となり、円を描く。
――魔法陣ッ!?
ドロリとした空気が動きを阻害する。
「ひっ!?」
魔法陣から逃れるのを阻止するために光の手が形成され、伸び足首を掴み、次々と伸びた光の手が絡み付いてくる。
抗うも魔法陣が完成してしまった。
閃光が弾け、腕で目を庇い瞑る。
閃光が収まり、冷気を肌に感じる。多くの人の息を潜めている気配。
次の瞬間、歓声が爆発した。
「成功だぁぁああっ!!」
騎士、召喚師が抱き合い、肩を叩き合い、称え合う。
冷気が晴れると、右隣りにはルームウェア姿の可愛い少女。
深夜まで受験勉強中だったのだろう。手には参考書とシャープペン。
「救世の聖女召喚、成功したと聞いた」
カツカツ、靴音を鳴らして石室に現れたのは華々しい銀髪青年。
「私は王国シルフィードの第一皇子。クロヴィス・シルフィード。貴女が我らの聖女か? 救世の乙女よ。我らの救いを求める声に応じて頂き感謝致します」
「えっ!? ぁ……え?」
第一皇子で跪かれ、手を取られ、微笑まれ、手の甲に口付けをして、また微笑まれ――戸惑いを通り越してドン引きしていた。心底嫌そうだ。
何より胡散臭い。女性にジュースだとか烏龍茶だとか言って酒を混ぜて酔わせたり、睡眠薬で眠らせて、その間に襲う様な陽キャ臭が凄いする。
――まぁ、中にはそういうのが大人でカッコいいとか言っちゃう娘とかいるけど……。
彼女はイケメンより、今は自分の将来を優先しているのは明らか。というよりも苦手であり興味がなさそうに見える。
皇子は腰に手を回して連れて行く。
それに伴い騎士も召喚師も皆出て行った。
「イイドキョウシテルシャナイ……」
彼女は十代で、可愛くて、髪もミルクココアみたいな色でゆるふわ。地毛だったら偏見で見られ大変だっただろう。
人が苦手そうに見えたのはそのためだろう。
それが、彼等には庇護欲を唆られ、可憐に見えただろう。
服装も可愛らしい。
対してわたしは、黒のスーツ。髪も黒で、後ろに単純に一纏めにして垂らしてるだけ。トラブルでボサボサですよ。不眠不休でちょっと隈もあるし、死んだ魚のような目をしたクソ陰キャ眼鏡女ですよ? 挙げ句にエナドリ片手にホットスナックチキンに齧り付いてましたよ?
だからって間違いだろうがなんだろうが拉致しておいて、完全無視っていうのはどういう了見だっ!!
最後尾に居た小動物の様な少女召喚師の法衣の襟を掴み、圧をかけながら笑顔で迫ってみた。
「すびっ……すびま゛せんでしたっ!! い、いまっ! 今すぐにっ!! お姉様――大召喚師様を呼んできますのでっ!! 直ぐにっ! 直ぐにィィっ!!」
暫く待たなければならない。
それならと石室を調べる事にした。
「まさかこの歳になって異世界転移を体験するなんてね……」
――まぁ、珍しい事じゃないか。
異世界転移、転生は十代の青少年だけの特権ではない。
アラサーやアラフォー、アラフィフだって転移、転生するなんて作品もいっぱいあった。
実際に異世界転移・転生症候群なんて謂れる自殺未遂や神隠しなんてのもあったみたいだし。(※この作品の設定です。良い子は真似しないで下さい)
こうして異世界へと召喚されたのだから、転移・転生症候群もあながち虚構というわけではなかったようだ。
わたしと聖女として連行された彼女が出現した位置を中心に召喚陣が床に刻まれていた。
召喚陣には七つの台があり、朽ちた石の欠片があった。
七は完成・完全を意味している。それはこの世界でも変わらないようだ。
場にそぐわない音が鳴り響く。
GyNoiDスマホ。コネクトの着信音。
『双樹っ!! やっと繋がった!!』
「詩音」
雪城 詩音。わたしの恋人だ。
彼女の切羽詰まって声。
『無事っ! 貴女の住むマンションが爆発炎上したって緊急速報でニュースになってるから何度も連絡をしても繋がらないし、コネクトにメッセージを送っても返って来ないし、既読も点かないから心配したじゃないっ!!』
思った以上に元の世界では凄惨な事故となっているようだ。
深夜。誰もが寝静まっていたり、防音室で実況配信や深夜アニメを見たり動画配信、LIVEを観ていた筈だ。
詩音はわたしの部屋ではなく住むマンションが、と言った。
『行方不明者のリストの中に貴女の名前があったのよっ!! 真弓美さんたちはそのニュースを見て、警察に行ってるのよ!! 双樹何処に居て、何をしているのよっ!!』
「それが――」
わたしはことの経緯を話す。
『あ……っ! 圏外になってる……わね』
「何か奇跡的に繋がってるみたいだし、詩音、母さんたちに説明してくれないかな。拉致した人たちに完全無視で捨て置かれて、まだ一切、何一つも説明されて無いんだよね」
『は? そいつら、ナニ? 私から双樹を奪って無視? シニタイノカシラ?』
「それで、詩音。繋がってるいる間に調べて欲しいんだけど……」
『はいはい。分かってるわよ。もう一人の拉致被害者でしょう。調べてるわよ。同じ様に爆発炎上。周囲の家も巻き込まれてるわ』
人の気配。
「その被害者、中学生でしょ? 名前判る?」
「名前は――」
「異世界人は残虐、悪逆非道みたい。自分たちが助かるためなら、他所から人を拉致して、その証拠隠滅の為に家族や無関係者を虐殺するんだから。それで自分たちは救われるって喜んでる。人で無し。まさに鬼畜の所業よね」
カランカランと音がして、振り返る。
「あ……ぁ……い、今の話は……ま、真で御座います、か?」
「……そうですね。コレ、わたしや聖女として連行された彼女の世界の遠くの者と会話が出来る道具なんですけど、奇跡的に繋がって、会話が出来たんです。それで――」
わたしは錫杖を落として青褪める女性と表情が完全に抜け落ちた男性に、向こうを世界の状況を正確に伝えた。
男性は白目を向いて、口から魂が抜け出ていく要な有り様になってしまった。
「それで、拉致した挙げ句に、放置した理由を聞かせてくれます?」
ニッコリと笑みを見せる。