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遅延特化の陰険魔術師(ベルトラン)  作者: 伊佐木ソラ
第四章 錬金術の国

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06:間章


 少女にとって、教会は祈りを(ささ)げるための場所ではなく――己の内に湧く苦痛を耐え忍ぶための休息所でしかなかった。


 整然と並ぶ長椅子の一つに身を(しず)めて、祭壇を見上げるでもなく、ただ(うつむ)いて膝を抱え込むだけ。

 そこに信仰も安穏(あんのん)も存在しなかった。


「…………っ」


 かすかな震えとともに、(のど)から漏れ出た苦鳴(くめい)が教会内を反響する。燭台(しょくだい)(ほの)かな明かりが照らす先にいたのは――外套(がいとう)羽織(はお)る一人の少女だ。


 はらりと肩から落ちる鳶色(とびいろ)の髪。その動きに合わせたように、大粒の涙が少女の頬を(こぼ)れ落ちた。


 差し迫る“終わりの時間”を、少女はただひたすらに耐え忍ぶことしかできなかった。


「……大丈夫カ、ゼナイド」


 ふと、低くたどたどしい声が、教会の奥から響く。


 祭壇の向こうから姿を現したのは、傷だらけの肌を(さら)す巨漢だった。

 片言の公用語を口にしながら、心配そうな表情で少女の隣に腰を下ろす。


 分厚いその手が、少女の背中をゆっくりとさすった。


「……うん、ありがと、シュテラーツォさん」


 少女――ゼナイドは弱々しく感謝の言葉を返して、涙を拭いながら顔を上げた。


 黒い瞳が巨漢の身体を見つめると、今度は、その表情が心配そうに(くも)る。


「シュテラーツォさんこそ、大丈夫? “魔人化”の適合実験……すごく辛いって聞いたよ」


 そう言って、優しく伸ばされる少女の手。

 華奢(きゃしゃ)な指が触れた巨漢の身体は……至る所が複雑な手術の跡によって(いびつ)に盛り上がっていた。


「俺ハ大丈夫……“トー”を心配させたくナいから」


 大きく恐ろしい人相の巨漢――シュテラーツォが、ぎこちなくも笑みを作る。


 その外見からは想像も付かないほどの穏やかな心情に、少女もまた目を細めて、静かに微笑(ほほえ)んだ。


「二人とも、仲がいいよね。羨ましい」

「トーは俺ヲ助けてくれタ恩人。だから、トーのために頑張ル」


 力強いその言葉を聞いて、少女も決心したように頷く。


「永遠の国……実現させなきゃね。――弱き者が虐げられない、幸福の国」


 止むことのない苦痛に耐えながら、少女が祭壇を見上げる。


 そして、ようやく祈りを捧げるために両手を合わせた。願いを込める先は、ガラス窓に(きら)めく極彩色(ごくさいしょく)の女神ではなく――


「……私たちを導いてくれているフォルトゥナさんのためにも」


 自分たちの主導者である、真っ白な魔術師の男へと――捧げられた。


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