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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者の妹ですが、聖女と駆け落ちした兄の代わりに男装して影武者やってます

作者: 早見 羽流

 私は貧しい田舎の村に生まれた。両親は早くに流行病で死んでしまい、双子のお兄ちゃんと二人で暮らしていた。

 私とお兄ちゃんは、性別が違うだけでとてもよく似ている双子だったけれど、成長するにつれて違いが出てきた。背丈も、声の高さも、体つきだって違ってきた。お兄ちゃんの方が力もあるし、畑を耕したり木を伐ったりする作業が得意だったからか、がっしりとした体格になった。私はそんなお兄ちゃんのことが羨ましかった。


 ある日、突然お兄ちゃんに勇者の神託が下った。お兄ちゃんの前に女神様が現れて、「勇者として魔王と戦いなさい」と命令したらしいのだ。

 村人たちは自分たちの村から勇者が現れたことに大喜びした。お兄ちゃんも乗り気だったけれど、私はお兄ちゃんの身が心配だった。だから最初は反対した。

 でも、村人たちの期待に満ちた目を見て何も言えなくなってしまった。みんな、この世に混沌をもたらす魔王は倒した方がいいと思っている。この村でずっと二人で暮らしていれば、貧しいながらもそれなりに幸せな生活が送れたかもしれないけれど、やっぱりお兄ちゃんも魔王という脅威があればそれを排除すべきだと思ったんだろうな……。


 結局、お兄ちゃんは私を村に残して旅に出た。私は一人でお兄ちゃんの分も畑で働いたり、雨の日は服を編んだりしながらお兄ちゃんの帰りを待っていた。



 どのくらい経っただろうか。

 その日は朝から雲が広がっていて薄暗かったことを覚えている。雨が降りそうだったから畑仕事はやめて家で服を編んでいると、不意に誰かが家の扉を叩く音がした。私の家を訪れる人はほとんど居なかったから、お兄ちゃんが帰ってきたのかと思ったけれど、お兄ちゃんだったら扉を叩いたりはせずにそのまま入ってくるだろう。不思議に思いながらドアを開けるとそこには金属製の鎧に身を包んだ一人の女性が立っていた。長い剣と立派な盾を持っていて、金髪の美しい女の人だ。一目で只者じゃないと思った。

 私が口を開く前に、彼女は言った。


「ここは勇者殿──レオン殿の家で間違いないか?」

「え、ええ。確かに私のお兄ちゃんはレオンですけど……」

「レオン殿は戻っておられるか?」

「いえ、勇者として冒険に出たっきり戻ってません」

「……やはりな」


 そう言うと女性は深刻そうに俯いた。何が起きたのかわからず呆然としていると、女性は顔を上げて私を見つめた。


「私は勇者パーティーの一員としてレオン殿と魔王を倒すため共に行動していたアイリスと言う。実は……レオン殿が突然姿を消してしまったのだ」

「えぇっ!?」


 お兄ちゃんが突然いなくなってしまった? そんな馬鹿なことあるはずがない! あんなに魔王を倒すことに闘志を燃やしていたのに! そう信じたかったけど、目の前の女性──アイリスが嘘をついているようには見えなかった。


「すまない。私がついていながら……」

「あの、お兄ちゃんは一人でいなくなったんですか?」

「いや、ソフィーという聖女が一緒だと思うのだが……」

「それって、まさか駆け落ちというやつですか!」


 何やってるのお兄ちゃん! こんな綺麗なお姉さんを放っておいて駆け落ちなんて酷いよ! 許せない! だけど私の怒りに反して、アイリスの顔色は悪くなった。まるで悪い報せを聞いてしまったかのように悲しそうな顔をしている。


「レオン殿は悪くないのだ。きっとソフィーがたぶらかしたに決まっている。それに気づけなかった私たちにも落ち度がある。……本当に申し訳ない!」

「か、顔を上げてくださいアイリスさん。あなたは謝るようなことはしていないですよ。だから気にしないでください」

「そういうわけにもいかないのだ。勇者がいなければ魔王討伐は続けられない。それに、もし勇者が聖女と駆け落ちしたなどということが世に広まれば、せっかく魔王に立ち向かおうと奮起している民衆の心はどうなる? 勇者パーティーの仲間たちがレオン殿の行方を探してはいるのだが、一向に見つからない。どうすれば……」


 酷く困惑した様子のアイリスを見て、私はひとまず彼女を家に上げることにした。


「まあ、とりあえず上がってください。そこだと寒いでしょう?」

「かたじけない……その──」

「レオンの妹のユリアです」

「ユリア殿……」


 私だってお兄ちゃんが突然消えたことにショックを受けていないと言ったら嘘になる。それでも私よりも辛そうな表情をしているこの女性をこのまま放っておくことはできなかった。

 お兄ちゃんの敷物にアイリスを座らせて、しばらく思案に暮れるアイリスを「綺麗な人だなぁ」とか思いながら眺めていると、突然彼女が大声を上げた。


「そうだ! こうすればよいのだ!」

「うわぁっ! な、なんですかっ!」

「ユリア殿! あなたがレオン殿に代わって勇者としてパーティーに加わってくれれば……!」

「えぇぇぇっ!?」


 あまりにも突飛な提案に思わず大きな声で叫んでしまう。アイリスはそんな私の肩を掴んで、真剣な表情で見つめてきた。


「ユリア殿はレオン殿によく似ている。レオン殿と共に旅をした私が言うのだから間違いない!」

「いや、いやいやいや! でもですね! 私は女だし! 勇者としての特別な能力もないし! 魔物と戦ったことなんてないんですよ!?」


 私はお兄ちゃんとは違ってただの平凡な女の子だ。勇者として魔王と戦うなんて絶対に無理だ。

 アイリスは必死に抵抗を続ける私をじっと見つめた後、少し考える素振りを見せた。そして私の手を優しく握り、ゆっくりと口を開いた。


「確かに普通の村娘であるあなたがいきなり勇者になれと言われても戸惑ってしまうだろう。しかし、安心してほしい。私たちが必ずあなたを守ってみせよう」

「……でも」

「見た目は男装すれば問題ない。誰も勇者が聖女と駆け落ちして、代わりを妹が務めているとは思わないだろう」

「そ、そうかもしれないけど……」

「大丈夫だ。きっと私たちがあなたを守る。──頼む。一緒に戦ってくれないか?」


 アイリスは私の目をまっすぐに見つめてくる。その目はとても力強くて、覚悟に満ちていた。そんな彼女から私は視線を逸らすことができなくて──気づいた時にはこくりと首を縦に振っていた。



 *



 アイリスの行動は早かった。まず、ナイフで私の長かった髪バッサリと切り落とした。さらに胸にはさらしをキツく巻き、ズボンを履いて動きやすい格好にした。


「こうしてみると本当にレオン殿と瓜二つだな」

「ま、まあ一応双子なんでね……」


 アイリスにそう言われるのは複雑だ。お兄ちゃんはいつでも私の憧れで、目標だったから。お兄ちゃんに似てるとか言われたのは久しぶりだった。嬉しいような恥ずかしいような気持ちのまま私は黙り込む。そんな私をアイリスは心配そうに覗き込んできた。


「すまない、胸が苦しかったか?」

「いえ、さらしは大丈夫なんですけど……」

「そうか、ならよかった。気になるところがあったらなんでも言ってくれ」

「はい、ありがとうございます」



 アイリスは私を着替えさせ終えると、突然私の前に跪いた。


「あ、アイリスさんっ!?」

「私、アイリスはこれよりユリア殿に忠誠を誓おう」


 彼女はそのまま流れるように私の手を取って、その甲にキスを落とした。突然の出来事に思考が停止している私を見上げて、アイリスは再び言った。


「今より私はユリア殿の騎士だ。あなたの盾となり、矛となることを誓おう。この命、尽きるまで貴方をお守りする」


 そう言ってアイリスは柔らかく微笑んだ。正直勇者の代わりなんて私ができるはずないって思っていたけれど、アイリスの笑顔を見た途端に、そんな不安は不思議と薄れていった。

 ああ、きっと私は彼女に一目惚れしてしまったのだ。



 アイリスはそのまま荷物を担ぎ上げて私の手を取ると、家の外に歩き出した。外に出てみると空は既に茜色に染まっていて、辺りには夜の帳が下り始めていた。


「さぁ行こうかユリア殿。日が暮れてしまう前に山を降りて町へ辿り着かなければ」

「は、はい!」

「あと、道中では私のことはアイリスと呼んで敬語は使わないようにしてくれ」

「どうしてですか?」

「……レオン殿がそうだったからだ」

「わ、わかったよ! アイリス」


 ぎこちなく彼女の名前を呼ぶと、アイリスは満足げに微笑んで、「よし」と言った後、私の前を歩いて先導してくれた。……やっぱり綺麗だなぁ。サラサラとした金髪が揺れるたびにドキドキしてしまう。

 アイリスは私よりも背が高く、すらっとしていてスタイルもいい。それに比べて、身長も低いし筋肉もない私を見て、きっとガッカリしただろうなぁ……。そう思ってため息をつくと、それに気づいたアイリスがこちらを振り返った。


「どうかしたのかユリア殿?」

「え? な、なんでもないです!」


 いけない、今は勇者としてアイリスの期待に応えないといけないのだから。

 そう自分に言い聞かせながら歩くことしばらく、山を降りる前に遂に夜になってしまった。

 アイリスの足は驚くほど早くて、私のことを待っててくれることもよくあったので、きっと私のせいで余計に時間がかかってしまっているのだろう。

 私が木にもたれかかりながら休んでいると、アイリスがこんなことを口にした。


「夜は危険な魔物がたくさんいるから危険だ。早めに街にたどり着きたい」

「そうですよね。ごめんなさい……アイリス」

「気にしないでくれ。先を急いで夕暮れに出発してしまった私が悪いんだ」


 アイリスはそう言って優しく笑った。アイリスは私の何倍も強い。それでも女の子なんだ。なのにいつも私のことを最優先に考えてくれている。そんな彼女をこれ以上困らせたくなくて、私は再び歩き出そうと腰を上げた。すると、突然アイリスの表情が険しくなった。そして──



「危ないッ!!」


 次の瞬間、アイリスは咄嵯の判断で私を抱き抱え、横に飛んだ。と同時に、私の身体があった場所をなにかが通り過ぎた。慌てて振り返ると、そこには真っ赤な瞳をした狼のような生き物が鋭い牙を見せつけるようにしながら私を睨んでいた。


「勇者を仕留め損なったか。……まあいい」


 なんと狼は喋り始めた。その声を聞いてアイリスが顔をしかめる。


「貴様、魔王の手の者か!?」

「ふん、だとしたらどうする」

「決まっている! ここで始末してやる」


 アイリスは私を地面に下ろすと素早く剣を抜き、戦闘態勢に入る。しかし、魔王の部下は余裕たっぷりといった様子で笑いだした。


「くくくっ。お前に俺は殺せない」

「やってみないとわからないだろっ!」


 アイリスが地を蹴ると一瞬にして相手の懐に入り込んだ。そして目で追うことができないほどの早さの斬撃を繰り出す。しかし、敵は身を翻してそれをあっさりかわしてしまった。


「そんな攻撃ではこの俺に傷一つ付けることもできないぞ」


 そう言って彼は口元に不敵な笑みを浮かべた後、アイリスに飛びかかる。──否、敵の攻撃は私を狙ったものだったが、アイリスが咄嗟に身を呈して私を庇ったのだった。


「アイリスさんっ!」

「くっ……!」

「ほぅ。なかなかの反応だ」


 彼の爪によって肩を深く切られてしまったアイリスは苦しそうな表情をしながら膝をついた。かなりの深手を負わせられたようでふらついている。このままじゃアイリスは負けてしまうかもしれない!


「……勇者殿は下がっていろ。ここは私が!」

「で、でもその怪我じゃ!」


 私が加勢したところで何の役にも立たないのは分かっている。私は勇者の代わりでしかなくて、アイリスのお荷物なのだ。


「くくく、どうした勇者? お前が戦わねばこの女は死ぬぞ?」

「……ふっ、それはどうかな?」


 剣に体重を預けるようにして立ち上がったアイリスは、私を背後に庇いながら不敵に笑った。ゆっくりと剣を構え、切っ先を敵に向ける。



「──貴様など、勇者殿が出るまでもないっ!」


「ほう? では望み通り死ね!」


 ……ダメ! アイリスさん! 逃げて! そう言おうとした瞬間だった。突如としてアイリスの剣が輝いたと思ったら、神速の一撃が狼の姿をした敵を貫いていた。


「ガァァァァァッ!!」


 断末魔の叫びを上げる敵をそのまま切り裂くと、亡骸を投げ捨ててアイリスはすぐに私の元へ駆け寄ってきた。


「ユリア殿! 無事か!?」


 私は慌ててアイリスの腕を掴む。


「アイリスさん……。ありがとうございます。あなたを信じて本当によかった……」


 そう言って精一杯の笑顔を見せたつもりだったけれど、上手くできたかな?


「ああ、ユリア殿……無事でよかった。本当に良かった!」


 気がつくと、アイリスは涙を流していた。初めて見た彼女の泣き顔はとても美しくて、思わず見惚れてしまうほどだった。


「あの、怪我は大丈夫ですか? 私のせいでアイリスさんの腕が……」


 私を守る為に、彼女は自らの身体を盾にしてくれたのだ。

 アイリスは私の問いかけに微笑むと言った。


「私の身体など、ユリア殿の命に比べたらなんてことはない」


 とか言っているけれど、彼女の肩からは今も血がタラタラと流れている。心なしか顔色も悪い気がする。


「ちょっと待っててください。手当しますから」


 私は着ていた服を裂いて手早く応急処置を施す。すると、そんな私の様子を見ながらアイリスが苦笑いを浮かべた。


「かたじけない」

「いいえ、全然そんなことないです! 元はと言えば、私のせいなので」

「ユリア殿は戦闘の経験がないのだ。仕方ないだろう。私はユリア殿を守るために命をかけると誓った。それに──不思議なことにあの時、ユリア殿を守らなければと思ったら、信じられないほど力が出たのだ」


 アイリスの言葉を聞いて胸が熱くなる。嬉しい。すごく嬉しかったけど同時に少しだけ寂しくも感じてしまった。──きっとこれは吊り橋効果というやつなんだろうなぁ。こんな風に誰かに想われたことが一度もなかった私にとってアイリスの存在は眩しすぎた。

 だからせめてものお礼として、私はアイリスに想いを伝えることにした。精一杯私を守ろうとしてくれる彼女に、少しでも報いようと思ったのだ。


「アイリスさん。私、お兄ちゃんの──勇者の代わりとして精一杯頑張りますから! 今はただの足でまといですけど、体を鍛えて剣も覚えて、少しでもアイリスさんのお役に立てるように努力しますから!」


 アイリスはその言葉を聞くと、優しい表情になって私の頭を撫でてくれた。


「ふふっ、頼もしいな」

「そっ、そうでしょうか」

「ああ、とても」


 その手があまりにも優しくて、なんだかこそばゆくて、つい目を逸らしてしまう。そんな私の姿を見て、アイリスは可笑しそうに笑っていた。

 この日から、この謎めいた女騎士──アイリスへの憧れを明確に抱くようになった。いつか私だってアイリスの隣に並べるような強い人間になりたい。その為にはもっともっと頑張って強くならなくちゃいけないんだ。



 *



 アイリスは怪我を負いながらも、私を守りながら山を下りてくれた。山の麓には大きな街があって、彼女はそこで休もうと言った。

 山奥の村から出たことがない私は、街の大きさに圧倒されたが、一番驚いたのは、私が勇者として街の人々に大歓迎されたことだ。

 彼らはアイリスを伴って歩く私を見て次々に騒ぎ立てる。


「勇者様だ! 本物の勇者様が現れたぞ!」

「勇者様ぁ! 魔王をやっつけてやってください!」

「ていうか勇者様、近くで見ると女の子みたいに綺麗なんだな!」

「こら、勇者様に失礼だろ! 勇者様はああ見えても男だという噂だぞ」


 まあ、男なのは私のお兄ちゃんであって、私は女なのだけど。

 私は偽物の勇者なのがバレないか、ヒヤヒヤしていたけれど、街の人々はどうやら私を勇者だと信じて疑わないようだった。アイリスと共にいるからだろうか。

 声援を送ってくる街の人々に軽く手を振って応えると、彼らはさらに歓喜の声を上げる。


 そして私たちは宿屋の一室に通されて、ようやく一息つくことができた。もちろんタダで泊めてくれた。私は偽物の勇者なのになんだか申し訳ない気もする。

 部屋に入ってすぐ、アイリスはなにやら手紙のようなものを書き始めた。その様子を見て首を傾げる。誰に宛てて書いているのかな? 文字を読めない私は黙ってそれを見守るしかなかった。しばらく待つと、彼女はペンを置いた。


「……アイリスさん、誰に手紙を書いているんですか?」

「ん? あぁ、これは各地でレオン殿を探している仲間に向けて『勇者殿が見つかったぞ』と報せる手紙だ」

「いやいや、私は勇者じゃなくてその妹なんですけど!」

「だとしても、ユリア殿はレオン殿の代わりとして私たちと同行してくれると約束してくれただろう?」

「そうですけど……」

「大丈夫、ユリア殿ならばちゃんと務められる。私たちもできる限りサポートするから安心してくれ」


 そう言って微笑みかける彼女を見ると、これ以上反論することもできなかった。


「分かりました。私も腹を括ります。──本当は今でも怖くて怖くて仕方がないけれど、私はこれからお兄ちゃんの代わりに勇者を演じ続けます。それが唯一私にできることだと思うから」

「一般人のユリア殿にここまでさせることは本当に申し訳ないと思ってはいるが、私たちも他に選択肢はなかった。どうか許してほしい」


 そう言うと、アイリスは深々と頭を下げた。


「いいえ! アイリスさんが悪いわけじゃないですから! それにアイリスさんが一緒にいてくれるだけで心強いです」


 そう答えると、彼女はほっとしたように胸を撫で下ろした。


「ありがとうユリア殿。なんとお礼をしてよいか……」

「じゃあ、その……」


 私は勇気を出して自分の願望を口にしてみた。


「他の人の前では頑張って勇者を演じますから……二人きりの時は私のこと、その……甘やかしてくれるなんてことは……駄目……ですか……ね?」


 自分でも大胆なことを言っていると思う。でも今だけはお兄ちゃんの代わりではなくて私自身のことを認めて欲しかった。アイリスはそんな私を見て少し困った顔をしていたが、やがて観念したのか口を開いた。


「そんなことでいいのか? ……分かった。ユリア殿がそれを望むなら喜んで受け入れよう」


 アイリスの言葉を聞いて嬉しくなる。こんな風に誰かに必要とされたのが初めてで、つい頬が緩んでしまう。するとアイリスも優しく微笑んでくれた。


 これからどんな辛いことがあるか分からないけれど──今はただ、彼女の隣にいたかった。


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[一言] ロマンチックなスタートのように感じます。 ドキドキ感じる、マスター×騎士 百合。 でも、ストーリーとしては未完成な気がします。 それは短すぎる、私たちには見えない将来の出来事の約束が多すぎる…
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