お札のお礼はお札でどうぞ
ちょーん
という
なんというかミジンコが泳ぐような音が聞こえた気がした。
幻聴に痒くなった耳をかっぽじると、私はメモ帳に手を戻し、第一発見者である巫女の礼子さんのほうに向き直った。
「では、貴女が発見した時、被害者はもう息絶えていたんですね?」
「ええ、刑事さん」
礼子さんの顔色が悪いのは、死体を見たことにショックを受けているのだろう。
「見つけた時にはもう心臓が止まっていました。人工呼吸をしてももう無駄だと思いましたので、すぐに警察に連絡をしました」
被害者は26歳男性、なかなかのイケメンだった。
この神社の境内で、早朝に、玉砂利の上で死んでいるのが、竹箒を持った可愛い巫女さんによって発見された。
ロープが首に巻きついており、最初は自殺も疑われた。その真上にある松の木の枝で首を吊り、重みで落下したのでないか、と。
しかし松の木の枝はロープを吊るには高すぎる。また、側にダイイング・メッセージの書かれた紙があったことから他殺と断定された。
障子紙のような和紙に、次のように書かれてあった。
『お札のお札はお札でどうぞ』
「おれいのおれいはおれいでどうぞ……とは、どういう意味でしょう?」
私の読み間違いに、礼子さんがプッと笑った。
「これはおふだのおふだはおふだでどうぞ、と読むんですよ?」
相棒の竹川が横から口を入れた。
「いや、おさつのおさつはおさつでどうぞ、と読むんじゃないですか?」
「なんにせよ、どういう意味だ?」
「さあ」
「ルビを振っといてもらわないと困りますよね」
まったくだ。これじゃ朗読もできやしない。
「おふだのおれいはおさつでどうぞ、かもしれない。じつはダイイング・メッセージではなく、何かよくない取引をした形跡なんだ」
私が言うと、礼子さんの機嫌が悪くなった。
「違います。神様のいるところでそんなよくない取引、許しませんっ」
相棒の竹川が言った。
「おれいのおさつはおふだでどうぞ、じゃないですか? 何かの報酬をおふだで支払おうとして、相手にキレられたんだ」
「それなら凶器にロープを使うのは不自然だろう。カッとして殺すのにロープはない」
「これ、BL?」
「BLじゃないです。どこをどう見たらそう見えるんですか礼子さん」
「とりあえずもっとわかりやすく喋ろう」
「誰が喋ってるのかわからない」
「朗読できないじゃないか!」
「日本語のひとつの漢字に読み方が多すぎるのが悪いんだ!」
結局、事件は迷宮入りとなった。
真相は自由である。