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エピローグ これから始まる

「……で、陛下が全部丸く収めちまったと」


「僕らの出る幕がなかったのは残念だねぇ」


 アレックス兄様とヘンリー兄様はお茶を啜ってから呟く。


 ……そう、私はエリーゼが謝罪に来た時のことを、兄様二人に自室で語ったのだ。


 というのも、馬車五台分の魔法石がレナル家から私宛に屋敷へ届いた結果である。


 今朝、兄たちが領地の見回りから屋敷へ戻った後で「これはどういうことだシスティーナ!?」と説明を求められたのは自然なことだった。


 結果、二人は私の話に納得した様子となり、今に至る。


「しっかし、そのままエリーゼが客間から出てレナル伯爵家に逃げ帰ったら、俺たちが直接出張ってやったのになぁ」


「いいじゃないか兄さん。多分だけど、僕らがあちらへ向かうより、陛下に直接怒られた方がよっぽど効果的だっただろうし」


 ヘンリー兄様はさらにこう続けた。


「そもそも僕らカイレースの騎士が立ち上がる意思を示し、父上を通してレナル家に謝罪を要求する手紙を送ったからこそ。エリーゼが謝罪に現れ、システィーナがそれを受けた末、陛下がトドメを刺す形にできたんだから。僕らの行為には大いに意味があったと思うけどね」


「言われてみればその通りだな。そう思えば俺らもシスティーナの力になれたってことで、悪い気はしねーな」


 アレックス兄様は「それでも陛下に美味しいところを持っていかれたのは変わらねーけど」と呟きつつ、茶菓子を一口。


「……そういえばさ、気になったんだけど。どうして陛下が直接父上に謝罪しに来たんだ? 陛下が来るくらいなら、イオとかいう皇太子が頭を下げに来るのが道理だろ」


「ああ、それは僕も気になっていたんだ。システィーナ、何か聞いているかい?」


 私は「そういえば」とイオについてを思い出していた。


 実は私も気になって、あの後陛下に聞いてみたのだ。


 すると……。


「イオは離宮にいるそうです。陛下が決して外に出さず、外部とのやり取りを一切遮断させているようで。今は厳重な謹慎中とのことで陛下が直接お越しになったとか」


「王家の汚点だもんなぁ……。それも致し方なしか」


「それとイオ、今や皇太子の座も剥奪すらあり得るそうです。あの後、陛下がお調べになった結果、次々に女性問題が発覚してお怒りになったそうで……」


 私が宮廷作法を学んでいる間、夜の店で色々とやらかしたそうだ。


「君しかいないんだ……」みたいなことを酔った勢いなのか、エリーゼ以外にも言いまくっていたらしい。


 身分が身分なだけに冗談では済まされない。


 さらに勢いでもしも子供まで作っていたらと思うと……カイゼン陛下の怒りもよく分かる。


 私が得た証拠品の領収書も氷山の一角に過ぎなかったと思えば複雑な気持ちだ。


「皇太子の座を剥奪……となれば陛下の次男であるメッサー王子が次の皇太子の可能性が濃厚か」


 皇太子とは、王位継承順位の第一位を示すものだ。


 イオが国の未来を担えないと判断されれば、アレックス兄様の言う通り、メッサー王子が皇太子になる可能性が大だ。


「カイゼン陛下の性格だと、そうなりそうな気がするけどね……。僕らとしてはざまぁみろって感じだし、構わないけどさ」


 ヘンリー兄様はこともなげにそう言った。


「エリーゼは陛下が直接懲らしめたし。レナル家の当主が間抜けじゃないなら、今後は一切自由にできないだろう。今回の話が広まれば嫁ぎ先だって見つからないはずだ。イオも事実上の軟禁状態で皇太子の座も危うい……ハッ、いいじゃないか。よかったなシスティーナ。お前に恥をかかせた二人は両方、未来を絶たれたに等しい罰を受けているしよ」


 それについてはもう、因果応報としか言いようがない。


 アレックス兄様はああ言いつつスカッとした表情だが、私も少し胸が軽くなった思いだった。


 ……やっぱり、婚約者と学友に裏切られたのは今も悲しい。


 でもそれ以上に、泣き寝入りせずに「私は私だ!」とイオやエリーゼ、それに周りの皆にも示せた気がした。


 そのお陰で皆、私に力を貸してくれたのだと思えば、決して悪い気はしなかった。


「さて……これからね」


「これから、とは?」


 ヘンリー兄様がティーカップを置いてそう聞いてきた。


 アレックス兄様も「ん?」とこちらを見つめている。


 私は二人に向かってこう答えた。


「イオとエリーゼに関する問題がスッキリしたんだもの。後顧の憂いがなくなった今……私の新しい人生はこれから始まるの!」


 するとアレックス兄様とヘンリー兄様は顔を見合わせ、くすりと笑った。


「流石は俺たちの妹だ、逞しくて良いな」


「明るくて切り替えが早いしね。……思っていたより心配しなくてよかったかもしれない」


 そうやって「「うんうん」」と頷く兄様たち。


 けれどそんな二人に「おい」と声がかかった。


 ……振り向けばそこには、腕を組んで仁王立ちする父の姿があった。


 流石は当主というより武人な方だ、一切気配を感じなかった。


「お前ら……何をシスティーナと優雅に茶を飲んでおるのか。諸々気になるのは分かるが、戻ったならまず領地見回りの報告をせぬかっ!」


「「し、承知いたしました父上っ!」」


 相変わらずな兄たちは「じゃ、後でな!」「またくるよ!」と言い残し、父に連れて行かれてしまった。


「相変わらずドタバタね。でも……こんなに明るい我が家でよかった」


 だからこそ私は、卒業パーティーの後もさほど落ち込まずに済んだのだし。


 少し大変なこともあったけれど、家族との絆を感じる機会になったと思えばいいのかもしれない。


「……そうよね、お母様?」


 きっと天から見守ってくれている母へそう呟き、私は開け放した窓から庭を見下ろした。


 今日も青空の下、花々は咲き誇り、父の趣味であるネモノ草たちは元気に育っていた。


本作はこれにて完結になります!


ここまで読んでいただきありがとうございました!


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そして新作も始めました!


親友に裏切られて死の呪いを受けた聖女は、幼女となって意外と優しい魔王に拾われのんびり暮らす


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