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色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ  作者: 谷島修一
証言者たち
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オットーの証言~禁断の魔術~その1

 大陸歴1710年5月16日・ブラウグルン共和国・モルデン


 イリーナとクララは宿屋を出発し、モルデンの街中を歩いて、街壁に程近い区域の住宅街の中を進む。今日の目的地はユルゲン・クリーガーの弟子の一人だったオットー・クラクスの住む家だ。


 手紙にある住所に付くと、小さな一軒家があった。

 扉をノックすると、中から老人男性が出て来た。

「やあ、よく来たね」。

 彼が、ユルゲンの弟子の一人だったオットー・クラクスだ。

 背が高く、確か年齢は七十歳代後半のはずだが、背筋も伸びていて、しっかりとした雰囲気だ。彼は握手を求めて手を出して来た。

「始めまして」。

 イリーナとクララは同時に挨拶をした。

 彼はクララと握手する時、彼女の顔をじっと見つめてから言った。

「目元が師に似てるね」。

 そう言って微笑んだ。


 オットーは家の中にイリーナとクララを招き入れ、椅子に座るように言うと、彼も椅子に座った。

「今日はありがとうございます」。

「遠いところ、ご苦労様だったね」。

 オットーは微笑んだ。


 三人は少し雑談をした後、イリーナが切り出した。

「手紙でお伝えしたように、私たちは “チューリン事件” 、 “ソローキン反乱” 、 “人民革命” について調べています。それで、いろいろお話を伺えたらと」。

「最近、そのことを調べている人が多いのかな?」

「えっ?」

 イリーナとクララは驚いた。

「私たち以外にも調べている人いるんですか?」

「先月、新聞記者が来たね。名前は…」。オットーは少し考えて言った。「ヴィルトといったかな? “ブラウグルン・ツワィトゥング” 紙の記者だったと思う」。


 新聞記者がなぜこのことを調べているのだろうか?イリーナとクララは不思議に思った。

「なぜ新聞記者が?」

「その記者は、なんでも師の再評価をしている、とか」。

「再評価?」

「君たちも知っているかもしれないが、師は共和国では評判が悪いんだよ。彼女もそれについて疑問を持っているそうだよ。だから、彼女が師の再評価をして、良い評価に代わるというのであれば、私としては嬉しいことだしね。だから、君たちにも知っていることなら、なんでも話すよ。師が共和国で評判が悪いままなのを心苦しく思っているんだ」。

「“裏切り者”と言われていますね」。

「彼は、“裏切り者”なんかではないよ」。

 オットーは少々強めの言葉で言うが、すぐに穏やかな言葉になった。

「じゃあ、“チューリン事件”の事を話そうか」。

「よろしくお願いします」。

 二人が同時に言う。


 そこへ、トレイに飲み物を三人分運んできた上品な感じの小柄な老婦人が部屋に入って来た。

「いらっしゃい」。

「彼女は、妻のエリカだ」。

 飲み物をテーブルの上に置くとエリカは二人に声を掛けた。

「わざわざ、アリーグラードから来たのね」。

「そうです」。

「モルデンは初めて?」

「はい」。

 そこへオットーが口を挟んだ。

「ところで、君たちは、“ユルゲン・クリーガー回想録”は読んだかい?」

「もちろんです」。

「彼女は、“回想録”の“ヴェールテ家連続殺人事件”の章で出てくる、エリカ・ヒュフナーだよ」。

「えー、そうなんですね!」

 イリーナは驚いて声を上げた。エリカはその話を継いで言う。

「あの事件の時、犯人の人質として捕えられていたところを、主人に助けられたの」。

 その話も“回想録”に載っていた。

「へーっ、まるで白馬に乗った王子様ですね」。

「そうだね」。オットーはちょっと恥ずかしそうにしている。「昔、同じようなことを、ソフィアにも言われたね」。

「ソフィアというと、ソフィア・タウゼントシュタインさんですか?」

「そうだよ」。

「おおーっ!」

 イリーナとクララの二人は同時に声を上げた。

 オットー・クラクスが目の前にいてテンションが上がっているのに、“回想録”に載っている人々の名前が出るだけでも二人のテンションは更に上がった。

「ゆっくりしていってね」。

 そう言うとエリカは会釈して部屋を出て行った。

 イリーナはエリカを見送てから話を続ける。

「傭兵部隊は殺人事件捜査とか、そういう事もやっていたんですね」。

「そうだね、警察の手伝いも少しやったね。部隊は基本的に治安維持の仕事が多かった。変わったところでは、救難活動とか」。


「オットーさんは、どうしてお爺様の弟子になろうと思ったのですか?」

 クララは前のめりになって尋ねた。

「“ブラウロット戦争”の時、モルデンで義勇兵として参加していたんだ。でも、義勇兵といっても素人の集団で、その時は私自身も剣を持ったことなんかなかったので、思ったような戦いができなかった。だから、いつか戦いがあった時のために剣の腕を磨いておきたかったんだよ。私はモルデンが陥落後にズーデハーフェンシュタットまで命からがら逃げ伸び、戦後、傭兵部隊の募集があったので参加したというわけ。参加の理由のもう一つは師が居たことだね。“深蒼の騎士” に教えを請いたいと思ったからだ」。


 三人はテーブルに置かれた飲み物を数口飲んで、再びしばらく雑談をしてから、ようやく本題に入った。

「じゃあ、“チューリン事件”について話そうか」。

 オットーはそう言うとゆっくりと話し出した。

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